第二十五話 真相を知りし者
前回のあらすじ
一向に反撃しないジョルジェットに疑問を覚えたエマニュエルは様子をうかがう。するとジョルジェットはもう戦うのは嫌だと許しを請うてきた。かつて見た姿よりはるかに衰えた彼女はもはや寿命が近く、勇者を止められなかったことを悔いていた。見た目の印象から屈強な戦士とされてきた彼女は実の所臆病であり、それを押し殺して必死に戦っていたのだ。思わず剣を鈍らせたエマニュエルだったが、彼女の後を追ってきた王権騎士団たちによりジョルジェットは討たれる。喜びに沸く王権騎士団たちを見ながら、王女は一言、憐れみを零すのだった。
ジョルジェットの首を持ち帰った一団は歓喜の声で迎えられた。総督死すの報はたちまちヴィルドミーニュ中に広まり、それを聞いた警官隊は抵抗を止め、街は王女軍により……彼らが言うには『解放』されることとなった。人々は隠していた酒や食料を持ち出して大いに騒ぎ、街は夜明け前だというのにここ数年で一番の活気に満ち、それを一番良い宿の一番良い部屋から見下ろすエマニュエルだったが、歓喜とは程遠い感情を胸に湛えていた。
「(これまでで一番、綺麗に勝ったはずなのに……)」
駅前の広場を見下ろすその部屋からは、市民が警官たちを集めているのが見えた。人民裁判と私刑が繰り広げられ、死体が次々積み上がっていく。エマニュエルはそれに嫌悪を覚えたが、自身がそれを止められる道理が無いこともまたわかっていた。
「エマニュエル。敵の半数以上を破った今、戦況はこちらに有利に傾いたと言えるでしょう。休息を取り、次の戦いに向かいましょう」
さらなる戦いへ誘おうとするとする神の声。だが今のエマニュエルはそれに素直に頷くことが出来なかった。
「神様……ジョルジェットは言っていましたわ。自分も世界も、作り物だと。あなたと魔王がグルだとも。一体どういうことなのですか?」
エマニュエルは神に問う。自分の味方である神を疑うのは心苦しかったが、それでも追いつめられた相手の妄言と流すことはできなかった。自分を、家族を襲った悲劇。その根本の理由があるのなら、知りたかったのだ。その要望に、神は答えた。
「はい、私と魔王はかつて同じ目的の元行動していました。私と魔王が共にこの世界を作り上げたのです」
あまりにも、あっさりと。
「世界に生きる者も試作を重ね、その中には上手く生きることが出来ない種族もありました。ジョルジェットはその際資料として保管されたものが、魔王との戦いの影響で流出したと思われます」
「な……どういうことですの!? では世界が作り物というのは!? いえ、もちろん神様がこの世界を作ったというのは神話で存じ上げてますわ。けれど……」
「質問に回答するのは可能ですが、音声では非常に時間がかかるうえ、あなたに前提となる知識が大いに不足しています。まずは休息を取り、その間に学習を行いましょう」
「……そうしないとならないんですの?」
「通常の口述であれば10年以上かかるでしょう」
「わかりましたわ……」
仕方なくエマニュエルは上等なベッドに体を横たえ目を閉じて外の狂騒から意識を離す。勝利の余韻と言うには重たいものが体に満ちるのを感じながら、エマニュエルは眠りに落ちていった。
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魔王の子袋
いくつもの筒が組み合わさってできた魔王の遺産。勇者たちが持ち帰った中でも大規模な物。人間大の生物を数日で育成し教育も済んだ状態で生み出すことができる。
孤独な旅人は子供たちに会うことは許されなかった。これは代わって子供らの友となる存在を作るための道具である。
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エマニュエルは夢を見た。それは夢であると同時に学習内容の反芻。そして長い旅路の追体験。青い星を離れ、天に浮かぶ輪をくぐり、帰ることのない播種の旅へと漕ぎ出す機械仕掛けの船。
気の遠くなるような年月。暗黒の中に浮かぶ煌びやかな星々も、近づけば恐るべき火の玉と無価値な岩塊とわかる。何千回何万も繰り返される徒労は、人ならざるモノでなければ耐えることのできない苦難の道。その果てにようやく見つかった希望の大地に、船は降り立った……
「……」
エマニュエルの顔にはいつしか朝陽が射していた。寝ている間に大量の書物を読んだような感覚を覚えたが、その内容が判然としない。
「おはようございます、エマニュエル」
「おはようございます……神様のこと……わかったような気がするのに、よくわからないんですの……」
「圧縮学習の影響です。必要になればその都度知識が解凍されるでしょう」
「それも、神様の……生まれ故郷の技、なのですね」
「そうです。それではエマニュエル。行動を再開しましょう。オーレリアンとアニエスはともに王都に居ます」
「待ち構えていますのね……ならば……行くほかないでしょう」
エマニュエルは鎧に身を包み、ベランダに出る。街灯からいくつもの奇妙な果実がぶら下がる様を一瞥し、エマニュエルは飛び立った。目指すは北、線路に沿って飛翔する。
「あれは……」
街を離れてすぐ、列車が南下してくるのを見つけた。客車のみならず貨車にまで乗った完全武装の兵士たちの姿に、エマニュエルはそれがジョルジェットの要請した増援であると一目で理解した。
「……せめてもの、手向けですわ!」
エマニュエルは総督を討った後のことを深く考えていたわけではない。だが民同士で助け合い、進歩してはいなかったかもしれないが共に歩んで行けた、そんな国を取り戻したいとは思っていた。だがそれは不可能であると三つの街をめぐって思い知った。よって、せめてこれ以上の争いを起こさせるまいと、急降下する。
「……!? おい、あれは……!」
「やああああっ!」
先頭車に乗っていた運転手が空から舞い降りる黒鎧に気づくのと、エマニュエルが気合一閃、列車の前に隕石のごとく踵から落着したのとはほぼ同時だった。解き放った土の力で落下地点の大地が抉れ、岩盤が波のように汽車に向けて伸びる。加減速しかできない列車がそれを回避できる道理はなく。耳をつんざく衝突音。ボイラーの破裂する音と衝撃。後続車が次々と激突し、中身もろとも圧縮されたスクラップと化していく。
「……」
エマニュエルはその場で黙とうするかのようにしばし目を閉じた。破裂した水タンクの飛沫が鎧を濡らし、滴る。その飛沫が止み、列車の中から声が聞こえないことを確認すると、エマニュエルは再び飛び立つ。目指すはかつて惨劇の舞台となった王宮。エマニュエルの短くも凄惨な復讐劇は、佳境を迎えようとしていた。
今回の被害
共和国軍徴発列車 6両編成 大破
首都・ヴィルドミーニュ線 切断
死者:総督ジョルジェット、およびその部下1743名(うち1500人以上は私刑による)
総督派住人 488名
首都からの派遣軍 300名
反乱軍 186名
重軽傷者: 311名 (ほぼすべてが反乱軍のもの)
避難民:総督派の住人約6000人。徒歩で散らばったため多くが消息不明となる
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