第二十三話 地底への侵入者
前回のあらすじ
第三王女である身分を明かし、レジスタンスの先頭に立つエマニュエル。ジョルジェットの居場所はようとして知れなかったが、総督に逆らった人たちが囚われている収容所を目指し進軍、ほどなくして全滅させるのだった。そしてそれを総督ジョルジェットは、怯えながら見ていた……
「助けに来たぞ! もう大丈夫だ!」
「聞いて驚け、第三王女が生きてたんだ! 本物だぞ!」
制圧された収容所で、奪った鍵を使い囚われた人たちを次々と解放していく王女勢力。それを窓から見下ろしながら、エマニュエルは所長室を調べていた。
「(何か……ジョルジェットの情報を少しでも……)」
赤く染まった書類棚や、血の滴る机の引き出しを片っ端から開けていくエマニュエルだが、どれもこれも彼女にとって小難しい書類ばかりで手掛かりになるものは見つけ出せなかった。
「一人くらい残して、話を聞けていれば……」
エマニュエルとしてはそのつもりだったのが、横暴に耐えてきた市民の逆襲は怒涛のごとしであり、エマニュエルが止めることもままならず全滅させてしまったのだ。味方が増えるのも考え物だとエマニュエルが思い始めた時、彼らのうち一人が所長室にあわただしく駆け込んできた。
「王女様、お耳に入れたいことが……」
「あら……一体なんですの?」
王女の取り巻きは看守たちを全滅させた後、収容されていた人々を手分けして解放していたのだが、彼らの話を聞くうちあることに気づいたのだという。
「看守用の昇降機?」
「はい、上からは管理棟に隠れるように……」
『鋤き返しの王』が空けた穴はそのまま新たな坑道として使われ、足場や昇降機が整備されていたのだが、それら昇降機の一つは看守しか使わず、どの足場とも接続されていないのだという。
「監視用なのではありませんの?」
「そう思ったのですが、一番下の坑道よりもっと下に伸びているようなんです」
穴の縁に立ち、エマニュエルは下を覗き込む。地の底まで続いているのではないかと思わせるほどの暗い穴。その闇の中に、看守があえて下りていく必要があるというのだ。
「調べてみる必要がありますわね」
「でしたら乗り場の方に……この、不肖クロードがご案内を」
「不要です。このまま、直に行きますわ」
エマニュエルは足を踏み出し、穴へと身を投じる。見る間に小さくなる空を尻目に、飛行機能を使い落下速度を調整、底へ底へと降りていく。光が一切届かなくなっても鎧の目は周囲の地形を捉え、変わらぬペースで進んでいく。そんな中エマニュエルが思うのは、ジョルジェットのことだった。
「(こんな暗い穴の中で見つかったのかしら……)」
ジョルジェットは勇者パーティーのみならず、世界においても異彩を放つ存在だった。半竜人と言うものの、それは見た目からそう呼ばれているだけであり、過去にそう言った者がいた記録はない。そもそも竜というもの自体、おとぎ話の中にしか存在しない生き物であったのだ。そして、生き物なら当然いるはずの肉親も存在しないという。
「(仲間も家族も無く、たった一人……)」
ジョルジェットの境遇に思いをはせそうになったエマニュエルは首を左右に振る。
「(同情してどうするの……私は彼女を討ちに来たのよ)」
一度目を閉じ、惨劇の夜を思い出す。怒りと闘志を再燃させ、目を開く。いつしか壁面は岩肌から滑らかに整った物に変わっており、ほどなく、平らな床へとエマニュエルは着地した。
「(ここは『鋤き返しの王』の巣……なの?)」
エマニュエルが疑問に思うのも無理はなく、そこは巣というにはあまりに無機質で整い過ぎた空間だった。直角の角に囲われた四角い部屋の高さは4階建ての住宅ほど。縦横はその倍程度。壁には曲がりくねった太い筒がいくつも伸び、さらに部屋の半分ほどを巨大な空っぽの水槽のようなものが占めていた。
「(なんだか……あそこを思い出すわ)」
エマニュエルが思い出していたのは、自分が目覚めた場所。王宮の地下にあった遺跡とこの場所は雰囲気がそっくりだったのだ。
「(この鎧はあそこで神様から貰ったもの……ということは、あの遺跡は神様のもの? じゃあ、ここも……?)」
室内を見回しながら考えるエマニュエルだが、考えたところで何か得るものがあるはずもなく。代わりに部屋の一角に両開きの扉を見つける。剣を抜き、それに近づくと重そうな見た目に反し、軽く空気の抜けるような音と共にひとりでに左右へと開く。その奥には通路と、突き当りに淡い光が漏れる扉。エマニュエルはそこへ一歩一歩、迫っていった。
「そうだよ! だから今すぐ応援に……!」
「落ち着けジョルジェット、今兵たちを列車に集めてる!」
「お前は!? お前は来てくれないのかよオーレリアン!」
「今は……アニエスが大事な時期なんだ、わかるだろうジョルジェット」
「あたしを見殺しにするのか!?」
「だから僕は集まろうと言ったんだ! なのに君が!」
扉の向こうから聞こえる声。それはエマニュエルにとって忘れようにも忘れられない、仇の声と名前。迷うことなくエマニュエルは扉に駆け寄り、勢いよく開け放った。
「な、っ!?」
そこは、いくつもの淡い光を放つ板が浮かぶ部屋だった。
先ほどの部屋よりは狭いものの、中央の大きな座席に向かい数え切れぬほどの板が、様々な風景を映し出していた。だがそれらには目もくれずエマニュエルは座席にいる仇を見据える。見間違えようもない、翼持つそのシルエット。
「ジョルジェット! その首もらい受けますわ!」
両手に剣を握りしめ。先制の一撃で屠るべく、突進、並ぶ板に突っ込み、突破し、砕ける音。飛び散る破片を背後に剣を上段から振り下ろす。だが、まるで岩を叩いたような硬い感触と共にその刃ははじき返されていた。
「くっ……!」
ジョルジェットの上げた片腕が、その琥珀色の甲殻が、剣を防いでいた。跳び下がって距離を取り、両腕に射出機を生成、水の刃で左右両方から薙ぎ払う。
「ジョル
部屋の壁にかけてあった肖像画はそれに巻き込まれ、勇者の声は途切れた。砕けた透明な破片がまき散らされた部屋で、水流を鱗で防いだジョルジェットと、着地して態勢を整えたエマニュエルは対峙する。
「お、お前っ……本当に第三王女なのか!? あの日、窓から落ちた!」
「いかにも、あの日の事、一日たりとて忘れたことはありませんわ!」
「ま、まてっ!」
「問答無用!」
踏み込むエマニュエル。薄暗い部屋に剣戟の音がけたたましい音楽を紡ぎ出していった。
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ジョルジェット
身長 178㎝ 年齢:29 目の色 金 髪:無し。代わりに角質状の物が髪のようになっている。 パーティーの役割:前衛
服装:マントなどを羽織るが、彼女の価値観としては衣服と体の甲殻はほぼイコールである。現役時代はこれに加えて金属製の胸当てや籠手を着用していた。
ヴィルドミーニュで日雇い傭兵をしていた半竜人。背中には翼幕を備えた翼があるが、飛行能力はない。指先まで鱗が覆っているため細かい作業は苦手とするが、持ち前の膂力と頑強さで勇敢かつ強力な戦士としてその力を振るう。だが実際の所は小心者であり、戦いを生業にしたのも他にまともにできる仕事が無かったからに過ぎない。魔王を倒した後は褒美を貰い静かに暮らそうと考えていたが、時代と勇者の選択はそれを許さなかった。
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