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第二十二話 反乱の先導者

前回のあらすじ


 反勇者勢力「正当王権騎士団」のアジトに踏み込んだ警官隊は、エマニュエルが助けた少年シメオンを撲殺した。瞬時に警官隊を切り捨てたエマニュエルは、怯み何もできなかったメンバーを叱咤。それに応えた正当王権騎士団は街中にそのことを広め、たちまち200人もの人々が集まるのだった。その人数に戸惑うエマニュエルだったが、そもそも街を巻き込むことを承知で戦いに来たエマニュエルに、迷う資格も時間もありはしなかった。

 熱が入る演説の中、最初に異変に気付いたのは一人の元冒険者だった。受付に居た赤毛の女が消え、外で殺気が膨れ上がる。それに続いて金属同士がぶつかる激しい音。集まっていた人々もそれを聞きつけ、ギルド会館から飛び出す。そして目にしたのは次々と倒される武装警察。魔法で放たれた炎、雷が爆ぜる光。そしてそれが収まった中央に立つ、黒い鎧。誰かが、呟いた。



「エマニュエル王女だ……」



 その興奮はたちまち、周りに伝播する。



「王女様!」


「殿下!」


「手配書通りの赫眼黒鎧!」


「とうとうこの街にも!」



 歓喜の声を上げる人々に、エマニュエルは剣を濡らす血を払い、天に掲げる。



「我が名はマルブランシュ王国第三王女、エマニュエル・マルブランシュ! 総督ジョルジェットを倒すため、ここに参上いたしましたわ! 立ち上がらんとする人々よ、今こそ私と共に!」



 エマニュエルの名乗りに、ギルドに集まった面々の士気は大いに上がった。自分たちが確固たる正義の側であるという確信。単純でありながら、これほど人を鼓舞する物はない。



「や、奴らを止めろーっ!」



 警官隊の隊長が叫び、エマニュエルには敵わないと見て御しやすい背後を狙おうと隊を率いて回り込みにかかる。しかしその側頭を、エマニュエルが腕から放った一線の水流が撃ち抜いた。



「ありゃ……聖女コレットの!」



 群衆の一人、かつて侯爵軍に所属していた一人が叫んだ。彼が戦場で見た、勇者パーティーたちが振るう力。それが今度は味方となっている。王女陣営の士気は最高潮に達した。



「武器を取れ!」


「俺たちも戦うんだ!」


「今度は俺たちがやり返す番だ!」



 ギルドに隠されていた武器を次々と手に取る民衆たち。彼らは一斉にギルド会館から飛び出し、戦いに加わっていった。



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水の力


 蒼水の聖女コレットから奪った力。鎧の両腕部に作られた投射機から、針ほどの太さの

水流を打ち出す。その勢いは鋼板を薄紙のごとく引き裂くが、射程は精々15~6歩程度しかない。照準なども存在せずやや使い勝手は悪いものの、強力な遠隔武器としてその有用性は高い。

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 終わってみれば、結果は圧倒的な物だった。エマニュエルという圧倒的戦力を有していたこともあるが、もともと警官隊は総督と勇者の力を背景に市民を抑圧するだけだった。それに対し王女陣営は少数ながら魔物との戦いや勇者による戦争を潜り抜けた者が存在したこともあり、警官隊約100名が壊滅状態なのに対して、王女陣営は負傷者が十数名、死者3名に留まっていた。



「そうですか……」



 その報告を受けたエマニュエルは一言呟き、数秒の沈黙ののち、残った警官隊をまとめて嬲っていた市民の方を向き、声を上げた。



「皆さん!」



 鎧から出たその声はエマニュエルが自覚したより大きく、人々の目を引き付けた。自称騎士団の面々が一番に周囲に集まり、それを起点に他の人々も並ぶ。



「今この場では勝利いたしました。しかし総督を倒すまで、真に勝ったとは言えません! 総督もすぐに事態を把握するはず、今すぐ総督の元へと向かいます! どなたか、案内のできる方はおられませんか!?」



 呼びかけに人々は顔を見合わせる。200人近い人数が居ても、誰一人場所を知らないことに焦りを覚えるエマニュエルだが、自称騎士団の一人が思いついたように口にする。



「収容所なら……」



 聞きなれない単語にエマニュエルは聞き返す。



「収容所? 何ですのそれは」


「トゥリシェス鉱山の底にあるんです、総督に逆らった奴が連れて行かれて、一度連れて行かれたら絶対帰ってこれないって……」


「例え居なかったとしても……少なくとも仲間は増やせると思います!」



 情報としては不確かなもの。しかし今は、入るかどうかをもわからない情報を待つより、とにかく素早く動くことの方が重要な局面であることはエマニュエルにも理解できた。ギルドにあった物と警官隊の武具を配布し、怪我人や女子供、老人を除いた約100名がエマニュエルに従い、残った者は怪我人の手当て、そしてヴィルドミーニュ中に『王女来たれり』の報を告げるため散っていった。そしてそれを見ていた者が、一人。



「あ、ああ……こっちに来るのかよ……!」



 暗い部屋で漏らした声は誰に聞きとられることも無く壁に吸い込まれて消えた。いくつも並んだ光る板に取り囲まれた彼女の発する声は憂苦(ゆうく)のそれ。街中の光景を映し出すその板の中では、王女達が一丸となって収容所へ向かっていた。



「つ、通達! 敵だ! 収容所に来るぞ! 全力で迎え撃てぇ!」



 指示なのか悲鳴なのかも判然としない声に、収容所の人員が動き出す。武器を取り、机や棚でバリケードを張り、いくつもある(やぐら)には魔導士やクロスボウを持った射手が配置される。鉱山の底は物々しい空気に包まれ、全ての明かりがついた穴の底は昼間と見まがうばかりの明るさで照らし出されていた。それを穴の縁から見下ろすは、夜に溶け込む黒い鎧。



「あれが収容所……監獄とはまた違うんですのね」



 エマニュエルはそんな感想を抱いた。穴の底、中央には高い監視塔を持つ3階建ての建物、管理棟。それを囲むように粗末な長屋が並ぶ。穴の上から底までは鉱石運搬用のコンベアが斜めに設置されており、さながら地上と地底の懸け橋のようになっていた。そこを流れる鉱石が収容された人々の過酷な労働で掘りだされているのは想像に難くない事実だった。



「労働矯正所、って言って……罪を犯した人も見捨てず仕事を与えて、心を正すって話だったんです。けど実際は……ほとんどが帰ってこないんです」


「……あの穴は?」



 エマニュエルは穴の底、さらに一段ぽっかりと空いた丸い穴を指さす。直径はちょっとした屋敷ほどもあり、管理棟のすぐ横に黒い口を開けていた。



「ああ、『鋤き返しの王』の出てきた穴です。あそこで勇者たちに倒されて……死体を片付けるのに丸一年はかかりました。けど穴はあまりにも大きすぎて埋められず、そのまま坑道として再利用されているんです」


「ここに送られたら、あそこでずっと採掘をさせられるって噂ですよ……厳しいノルマを課せられて……それもこれも、計画通りの量の金属を生産するために」


「けれど、鉱石なんて自然の物なんだから計画通りいくはずなんてありません。遅れたら、人手で埋めようとして警官隊が因縁をつけて人を連れ去って……」



 自称騎士団メンバーの言は、市井に流れる噂を口にする。少なくともそこが平和的な場所でないことは、武装した看守が行きかうその様から見て取れた。エマニュエルは恐れを隠し切れない彼らの声に、短く、宣言した。



「何が行われているにせよ……それも、今夜までですわ」


「王女様の言うとおりだ!」


「収容所なんかぶっ潰せ!」



 早くも旗印となったエマニュエルの言葉は皆を奮い立たせる。それが彼らを危険な戦いへ向かわせることになると理解しながらもそうせざるを得ないことに、エマニュエルは鎧の中で複雑な面持ちだったが、それを悟る者は誰一人いなかった。



「では……征きますわよ!」



 王女達の前進が始まる。らせん状の道を穴の底へと一歩一歩踏みしめて。見張りやぐらに人の姿はなく、全ての看守たちは管理棟に集まっているのが上から見て取れた。その管理棟の入り口まで至ったエマニュエルは、進み出て声を上げる。



「今すぐ武器を捨て、降参なさい! そうすれば、こちらにも慈悲というものがありますわ!」



 エマニュエルの降伏勧告に対し返答はなく、代わりに窓や監視塔から矢と魔法の光が一斉に襲い掛かる。そのどれもが鎧の表面で弾かれ、爆ぜ、散る。



「やはり、聞き入れては貰えないのですね……ならば……!」



 そして、エマニュエルの反撃。翼を展開し、足首程度の高さで飛行、板を打ち付けられた入口へと突進する。体重に鎧の重量、そして速度が合わさった彼女は一つの砲弾と化し、バリケードもろとも厚い木の扉を突き破る。破片が飛び散る中着地したエマニュエルの両腕にはすでに射出機が形成されており、彼女が腕を振るのに合わせ水の刃が中で待ち受けていた看守たちを撫で切りにした。



「は、あ、あ、あ、ぐうっ!」



 一人、当たり所が良く即死を免れた看守が無くなった両足を手で抑えながら、恐怖に染まった目線をエマニュエルに向ける。



「ば……化け、物……!」


「っ……」



 エマニュエルは返す言葉も無く歯嚙みすると、踵を返す。外に出て再び飛行、今度は監視塔へ突入し中を制圧する。



「今だ! 突撃! 突撃ぃー!」



 下では実戦経験のある冒険者や、反勇者勢力に紛れていた元侯爵家兵士たちが中心となって指揮を執り、管理棟に突入していった。上からの援護射撃と玄関に配置されていた主力を失った看守たちは士気に勝る王女達を押し返しきれず、3階にある所長室へと追いつめられて行く。そこが血の海と化すのに、そう時間はかからなかった。


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収容所


ヴィルドミーニュにおいて官憲に逮捕され、有罪となった者が送られる場所。『鋤き返しの王』が空けた穴を取り囲むように作られており、収容された者はその穴の内側に露出した鉱床で過酷な採掘作業を強制される。それにより犯罪者に反省を促すと共に仲間との連帯感などを学ばせて社会性を身に付け、採掘作業の給金を出所後の生活再建の原資に充てる、という名目で設立された。だが最優先は鉱石の採掘ノルマの達成であり、事故や看守による『教育』で毎年大勢が命を落とし、そのたびに『補充』が行われる。なお、正式にはトゥリシェス労働矯正所という名前だが、その名が正式な書面以外で使われることは少ない。


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今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。


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