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第二十一話 反乱の扇動者

前回のあらすじ


 ヴィルドミーニュもまた、問題を抱えていた。格差の無い平等な社会のため強力な統制を敷いた街は息苦しく、創意工夫の意味を無くした職人たちは仕事を失いつつあった。その結果総督ジョルジェットに対しての不満は募り、若者たちが反社会勢力を産むまでになっていた。そのうち一つに参加したエマニュエルだったが、直後アジトが警官隊に踏み込まれてしまうのだった。


「おやおやおや、なんだあこれは?」


「不法備蓄を見つけに来たら、とんでもないものが出てきたなあ? 日没後の外出禁止令を知らんはずないよな?」


「か、彼らはうちの従業員で……! 全員ここで泊まりこんで、


「嘘をつけ!」



 生木を折るような音と共に、苦悶の声。後ろ手に極められていた店主の腕が折られたのだ。



「父さん!」



 思わず飛び出すシメオン。その頭に警棒が振り下ろされる。痛々しい音と共に、シメオンは床に倒れ伏し、その後頭部に二度、三度と追い打ち。(なま)った、柔らかく湿った音と共に、シメオンの体が不自然に痙攣する。



「シメオンッ!」


「不法な集会の隠蔽、治安維持機関への反抗、おっとそれに武器まで準備してるな。貴様ら全員、反乱予備罪で収容



 店主の悲鳴に続き、罪状を羅列する羅列する警官。だが言い終わる前にエマニュエルの抜き打ち一閃、首が宙を舞う。



「ひっ……!?」



 背後に自称騎士団の悲鳴を聞きながら、エマニュエルは崩れ落ちる警官の脇をすり抜ける。入口を塞いでいたもう一人を、警棒に伸ばした腕ごと左脇からの逆袈裟。穴の開いた袋のごとく中身を零すその胴体を左手で掴み、下がりながら引き倒し、剣を投げ放つ。剣は店主を抑え込んでいた警官の頭を貫通し、地下室に静寂が戻ってくる。



「シメオンッ!」



 警官を踏み越え、女将が息子に駆け寄るが、すぐに手遅れと悟って項垂(うなだ)れる。



「そんな、そんな……ああああああ!!」


「畜生……畜生……総督め、とうとう息子まで奪っていきやがった……」


「……お悔やみ、申し上げますわ……」



 目を伏せるエマニュエル。だが数秒おいて、その視線は後ろで固まったままの自称騎士団に向く。



「あなた達……! なぜ! 仲間が殴られているのに一歩も動かなかったのですか!?」



 吠えるエマニュエルに萎縮する騎士団。瞬く間に三人を殺害し返り血を浴びたエマニュエルの姿は、彼らに戦いとはこういう物だと突き付けていた。



「多勢に無勢、一斉に襲い掛かれば素手でもなんとかなったかもしれないのに! 飛び出したのはたったの一人! あなた達、総督と戦うのでしょう!? あの戦士ジョルジェットと! なのにその手先にすら怯んでいて、どうするのです!」


「お、俺達は機を待っているんだ、エマニュエル殿下が来るまで潜伏して、その戦いを助けるために……」


「あなた、王女に会ったことがありますの? 会ったことも無い人を頼り、その善意を無条件に信じるなど!」



エマニュエルは机を手でたたき、俯いて声のトーンを落とす。



「それでは、勇者に憧れていた私と同じではありませんか……」

 


 自称騎士団の面々に最後の言葉の意味はわからなかったが、エマニュエルが自分たちよりもはるかに強い覚悟と意志を持っていることは伝わった。そして、その戦闘技術も。



「あ、あんたが強くてやる気があるのは、わかったけどよ……俺たちに、どうしろって言うんだよ……」


「今すぐ武器を取り、戦う。それ以外にありません」


「戦うって言っても……どうやって」



 そう問われたエマニュエルにこれといった答えはない。これまで一人で戦ってきた彼女に集団での戦い方などわからないし、人を集める方法も知りはしない。王女と言えども、10歳そこそこで軍略の勉強などはしなかった。よって、子供らしく、ごくごく単純な案を口にする。



「全員で武器を取り、人々に声をかけ、集まるのです。無視も、弾圧もできぬほどに。そうすれば、王女もきっと目に止めるでしょう」


「そ、そんなことで行けるのか……?」


「もうこの三人は戻らない。そうなればここが怪しまれるのは時間の問題……」



 エマニュエルは天井や壁を手で示す。飛び散った血の跡は、到底隠しきれるものではないと一目でわかるものだった。



「戦えないと言うのなら、今すぐ逃げて家に帰り全てを忘れなさい。戦いを望まぬものに、王女も強要はしないでしょう」



 エマニュエルの言葉は何気ないものだった。しかし自称騎士団たちには『仲間を殺されて黙って逃げるのか、臆病者』と言っているように聞こえた。



「い、いや……俺たちはやるぞ、なあ皆!?」


「そうだ、立ち上がる時が来たんだ!」


「皆に声をかけよう! あたしたちでやるんだ!」



 やにわに熱を帯びる地下室。それはエマニュエルの檄によるものか、血と恐怖にあてられた一種の狂乱か。いずれにしても、エマニュエルがここに来たことで状況が動き出したのは間違いのない事実だった。



「シメオンも連れて行こう……戦いに殉じた最初の一人だ。彼が俺たちに教えてくれたんだ、このままではいけないと!」


「や、やってやる! 息子を殺されて黙っていられるか! いつか使うだろうと、ギルド会館に武器を隠してあるんだ!」


「そういや親父さんって元冒険者ギルドの役員……!」



 熱狂は火のようにその場にいた全員に広がった。冒険者ギルドに向かう者、知り合いの元へ走る者、さらなる仲間を募る者。それぞれ意図は違ったが、彼らは仲間内で集まってくだをまいているだけの集団ではなくなったのだ。その様を見ていた女将は、『鋤き返しの王』にやられるがままだった街を奮い立たせた勇者の姿を思い出していた。



「あんたの言葉で、皆の空気が変わった……あんたまるで、初めてここに来た勇者みたいだねえ……」


「……そうですか」



 その言葉がエマニュエルへの痛烈な皮肉になるとは、ついぞ気が付かなかったのだが。


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勇者の旅路:ヴィルドミーニュ(その3)


 ジョルジェットは『鋤き返しの王』の眷属から鉱夫を守り、日銭を得ていた。彼女に勇者は『鋤き返しの王』討伐の協力を依頼するが、ジョルジェットはそれを断る。実の所彼女は慎重な性格で、危険な戦いに挑むのを渋ったのだ。勇者は彼女の仕事を手伝いながら敵の性質を探り、やがて金属に反応していることに気が付く。勇者は街中に檄を飛ばし、職人の総力を挙げて露天掘り鉱山に大量の地金を集め敵を誘引。周りの声に押され渋々ながら参加したジョルジェットが地上に留め、勇者が聖剣により『鋤き返しの王』を討ち果たした。こうしてヴィルドミーニュは救われ、勇者たちは石炭と鉄の確保に成功。さらにジョルジェットに仲間に加わるよう要請し、戸惑いながらもジョルジェットはそれを受諾するのだった。(なお、ジョルジェットに関する弱気な諸々はイメージにそぐわないとして、語られる勇者の伝説では削除されている)


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 ヴィルドミーニュにはかつて冒険者ギルドが存在していた。魔王討伐によりその需要は無くなり、冒険者は労働者となっていったが、堅牢なそのギルド会館は今なお旧市街に残されていた。さびれていたそこへは、にわかに人が集まり、深夜にもかかわらず往年の如きざわつきを取り戻していた。その中央に急遽作られた舞台には、亡骸となったシメオン、そしてそれを掲げる正当王権騎士団の面々が立っている。



「皆、見てくれ! シメオンだ……彼の事を知っている人も多いはずだ!」


「実家の店が潰れて……いいえ、総督に潰されてからも両親を支え続けて、いろんな仕事を掛け持ちしていた!」



 シメオンはいわゆる孝行息子として、ちょっとした地元の有名人であった。その彼が無残に殺されたという事実は旧市街の人々を驚かせ、それはほどなくして理不尽への怒りに変わった。もともとの不満もあり、そうして集まった市民たちが半分。様々な自称の反勇者勢力が四分の一ほど。残りが揉め事の匂いを嗅ぎつけた元冒険者。合わせて200人弱程度がギルド会館のホールに集まっていた。



「勇者と戦おうという人がこんなにいるなんて……」



 持ち寄られたランタンに照らされる顔は老若男女、ドワーフも混ざっており、層の広い、悪く言えば雑多な人たちを、エマニュエルは元受付カウンターだった場所から見ていた。大勢反勇者勢力が居るのは彼女にとって好ましいことではあったものの、同時に動きにくくなると言うことでもあった。



「(あんなこと、言うべきじゃなかったかしら……)」



 もともと鎧の力に頼り単独行動をしていた彼女にとって、味方を増やしたところでさしたる意味が無いことは理解できていた。しかし、仲間を殺されたというのに怯えているだけの彼らが騎士団と、自分を逃がすため全員討ち死にしたアデラール達と同じ組織を名乗っていることが侮辱のように感じられ……端的に言えば頭に血が上り、その場の勢いで言ってしまったのだ。



「(けど、こうなってしまった以上……)」



 騎士団たちが、ジョルジェットとその配下と戦い犠牲が出ることは避けられない。それをただ黙って見過ごすほど、エマニュエルは薄情にはなれなかった。



「(少しでも犠牲を減らす……そのために私にできること……)」



 ふと、板を打ち付けられた窓から外を見る。するとそこに見えたのは、夜の街に蠢く複数のランタン。ギルド会館に近寄り、包囲しようとしている。纏うのはただの制服ではなく金属で補強され、手にするのは警棒ではなく剣や斧槍。目的が捕縛でないのは一目見て明らかだった。



「(……馬鹿ね、私ができることなんて一つしかないのに)」



 自嘲すると、熱を帯びていくホールを背に、正面玄関から堂々打って出る。包囲した警官隊の視線が集まる中、エマニュエルは脳裏に灰色の泥が渦巻いているような感覚に襲われていた。



「(今から私は人を選別するんだわ。勇者がしたように、自分にとって都合の悪い人間を取り除く)」



 反撃をするのや結果的に巻き込んでしまうのとは違う。自分の意思で市民を殺す。それは罪深いことであるとわかりながら、それでも止まるなとその心が彼女を突き動かす。



「……鎧に!」



 夜の闇に溶け込むような黒い鎧、そこに浮かぶ紅の目。その姿に、警官隊は相対する者の正体を知った。一斉に向けられる矛先に、エマニュエルは言い放つ。



「これより私の前に立つ者、全て薙ぎ払いますわ!」



 そして、有言実行に移った。



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冒険者


 報酬次第で危険を顧みず動く、いわゆる無頼漢。兵士たちが都市の防衛で手いっぱいの中、外部からの資源調達や都市間の移動の護衛など、一般人でも使える魔物への対抗手段として地位を確立した。かつては腕自慢の花形職業であったが、魔王討伐によりその需要は激減、さらに一般人の過度な武装が禁じられたことから、冒険者は労働者へと変わっていき、その名前は時代の波にのまれて行った。しかしかつての栄光を忘れられない、一般的な社会になじめなかった、などの理由で未だ武器を手放さず、息をひそめている者も一定数存在している。

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今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。


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