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第二十話 レジスタンスの新人

前回のあらすじ


 エマニュエルがどこか活気のない街を歩いていると、自分自身が指名手配されていることを知った。そして、そんな自分を真の王権者として支持する人の存在も。警察に連行されそうになっていたそのうちの一人を助け出したエマニュエルは、彼らの仲間になってみることにするのだった。


ヴィルドミーニュは大まかに三つに分けることが出来る。鉱山の大穴に近い順に旧市街、工場街、新市街、といった具合であり、旧市街が元々のヴィルドミーニュ、そこより外は勇者政権の下で広がった区画である。シメオンがエマニュエルを連れてきたのはその旧市街にある、一軒のさびれた酒場だった。店内には、痩せてくたびれた中年男性が掃除をするでもなく佇んでいた。その彼は痣を作ったシメオンをみると驚いた表情を見せる。



「父さん、母さん、ただいま!」


「シメオン! どうしたんだその顔! 役人どもにやられたのか!?」


「うん……でもこの人が助けてくれたんだ!」



 両親へ紹介されたエマニュエルは軽く一礼する。その服装に父親は怪訝な顔をしたが、息子の恩人ということであればと招き入れる。



「皆は?」


「来てるぞ。顔を見せてきな」


「うん、エマはちょっとここで待っててくれよな!」



 シメオンは店の奥に消え、エマニュエルはシメオンの両親と三人残された。共通の知り合いが消えた初対面同士のどことなく気まずい空気の中、エマニュエルはカウンターの椅子に座る。何気なくカウンターに手を置くと、指先には黒っぽい埃がこびりついていた。



「あら……」


「ごめんなさいね、店を閉めてもう随分になるんですよ」


「まあ……そうなのですね」


「それもこれも総督の……それからその手先の役人どものせいさ」


「役人の……? 一体何がありましたの?」


「あんたよそ者かい? 侯爵が勇者たちに負けて、総督が来てからこの街はおかしくなっちまったんだ!」



 シメオンの父、この店の主でもある彼は、かつて酒瓶が並んでいた、いまは蜘蛛の巣が張った棚に目をやり、吐き捨てるように言った。女将である母親もそれに同意するように、重く息を吐く。



「最初は、地金からだった……」


「地金、ですの?」


「ああ、地金さ」



 地金、すなわちインゴット。鉱石から抽出した金属を固めたそれはあらゆる金属製品の素材となるものだ。当然鉱業の街ヴィルドミーニュがその主要な産地にして消費地となっている。



「最初は質の悪い地金を作ってたり、重さをごまかしてたりした冶金(やきん)屋が次々と捕まった。その時はいい気味だと思ったよ。けど地金の次は金物、その次は刃物、焼き物、ガラス製品、パンや酒も! 次々と形も作り方も値段も数も決められて、従わなきゃ捕まるようになっていった」


「まあ……それでは職人の方たちはどうなるんですの? 職人は腕を競い合い、より良いものを作っていくものでしょう?」


「腕の良し悪しで人生が変わるのは平等じゃないんだとさ。誰でも同じものを作って同じだけ金をもらう、それが平等だって総督は言ったんだと」


「総督、ジョルジェット……」


「私はあいつが子供のころから知ってるけどねえ……石も掘れない、物も作れないガタイだけの子だったんだよ。そんなあいつに仕事と飯を与えてやったこの街を、滅茶苦茶に……! 恩を仇で返すとはこのことだよ!」



 女将は涙ぐむ。品質の統制により職人たちがそれぞれ持っていた売りは潰され、廃業するか、街を出ていくか、大量生産品を作る作業員になり下がるかの選択を迫られた。最後の選択をした者も、価格統制により酒場などには通えなくなり、ここのような酒場は次々廃業していったのだという。



「職人の街なんてのはもう昔の話。今はよそから来た奴が歯車になるだけの街になっちまった。グルグルグルグル、ずーっと同じ場所で同じように回ってやがるんだ」



 鬱憤と共に息を吐き出した店主はカウンターの下から、残り少なくなった酒の瓶とグラスを出して注ぎ、飲む。その時店の奥からシメオンが戻ってきた。



「待たせたな、皆が会うって!」


「ええ……それでは失礼しますわね」


「あなた……どこの誰だか知らないけれど、この街をどうにかしてくれるなら誰でも歓迎だよ。とはいえ、ねえ……」



 女将の顔に希望の色は見えない。それを横目にしながらも、エマニュエルはカウンター奥の扉から進む。これまで訪れた街は少なくとも表面上素晴らしい街に見えていた。しかしこの街は第一印象からして空気が暗く、ジョルジェットの統治がうまくいっていないのは明らかだった。



「(これなら、心置きなく戦えるわね)」



 薄暗く狭い廊下を歩きながら、ジョルジェット打倒の意を改めて固めるエマニュエル。シメオンと共に地下への階段を降り、もともと酒蔵であった部屋を開けると、そこには10人ほどの若者たちが粗末なテーブルを囲い、エマニュエルに視線を向けていた。



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反勇者勢力


 勇者は多くの民衆に支持されたが、必ずしも全員に支持されているわけではなかった。特にヴィルドミーニュはその歴史からそういった志向が強く、統治していたヴィルドミーニュ侯爵バルバストル家が勇者に滅ぼされてからも民衆レベルでの反感は残っていた。勇者はそれに対して労働者の流入を伴う新市街の開発を行い、いわば『薄める』作戦に出た。それは功を奏し現在では抵抗運動も下火になっているが、旧市街を中心にその種火は燻っており、現状に不満のある者、勇者の行動を不義ととる者などが集まって、爆発する機会を待っている。


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挿絵(By みてみん)



「では、ここにいない皆さんも合わせて、17人が正当王権騎士団……なのですね」


「ああ。だがこれはあくまで参加している人数であって、何かあった時に協力してくれる人はもっといる! 不満を持っていて、立ち上がりたいと思ってる人はもっともっとだ!」


「俺たちは皆、打倒勇者に命を懸けているんだ!」



 警官をのしたと言うこともあり、エマニュエルは好意的に受け入れられた。一通りの自己紹介を受けたエマニュエルだが……彼らから受けた印象は、正直なところ頼りない、というものだった。



「(騎士団と言っても……名ばかりみたいね……)」



 比較対象が正真正銘の王国騎士団なのだから見劣りするのは当然ではあるのだが、メンバーは皆若く、一番上でも20代前半。体つきは労働者のそれであり、戦うために鍛えられたものではない。部屋に武具はおいておらず、せいぜいがどこかしら工事現場から持ってきたような工具程度。到底、戦いができるような集団には見えなかった。



「それで……皆さん、どのような活動を?」


「普段は街中で同志を集めてるんだ、今回はちょっと失敗しちゃったけどな」


「エマニュエル殿下が来たら、俺達は一斉に立ち上がって殿下の戦いに加わるんだ!」



 見るべきところと言えば、そのやる気くらいなもの。エマニュエルは女将動揺、期待薄という表情を浮かべた。しかしそれでも、今のエマニュエルにとって数少ない味方であるのに変わりはない。どうすればいいか、エマニュエルは考え……



「ただ待つのではなく……王女のために準備をしておくのはどうでしょう」


「準備、だって?」


「例えば……総督の居場所や日程を調べておく、とか。総督を倒すために来るのですから、その場所を調べておくのは何よりの助けになりますわ」


「それは……そうかもしれないが」



 提案に正当王権騎士団の面々は渋い顔をする。エマニュエルの提案は的を射たものであった……何しろ当の本人から出た要望なのだから。しかし。



「総督がどこに居るのか、誰も知らないんだ。勇者たちと一緒に街を出てからは、姿を見たことだってない。侯爵家が滅んでから、どこから来たかもわからない役人たちがやってきて、街を支配し始めたんだ」


「聞きましたわ。ですが役人も指示を受け取っている以上、何かしらの連絡を受けているのではなくて?」


「そう思って探った奴もいる……けど、結局何もわからなかったんだ」


「そうですの……その役人たちの……役所はどのくらいありますの?」


「ざっと……50かそこら? 特に大きいのはそのうち5,6くらい」



 エマニュエルは考え込む。王宮と各領主との間で使われていた連絡用の魔法道具という線も考えたが、とても貴重なそれをいくつも持っていると言うのは考えにくかった。



「総督が身を隠しそうな場所に、心当たりはありませんの? そう、例えば……ここは彼女の故郷、生家などは?」


「それは……」



 皆一様に顔を見合わせる。そして気まずそうに一人が口を開いた。



「……知らないんだ、誰も。十五~六年前に、坑道で見つかったんだよ、あいつ」


「坑道で……?」



 エマニュエルをはじめ世間に知られている話では、勇者たちがヴィルドミーニュに到着して出会った時には既にジョルジェットは屈強な戦士であり、彼女は勇者の仲間に加わりそのまま旅立つ。最後の仲間と言うこともあり、そのパーソナリティは過去も含めてあまり知られていない。だが、当然両親は居て、生まれ育った家があるとエマニュエルは考えていたのだ。



「まあ……卵が置いてあったんじゃね?」


「ずっと坑道に居ればよかったんだ! そうすりゃこの街がこうなることだって……!」


「あんなトカゲ人間に人情なんかかけたのが間違いなんだよ!」



 口々に憎まれ口を叩く正当王権騎士団にあまり良くない印象を持つエマニュエルだが、殺しに来た自分に何か言えるはずもなく。話を元に戻そうとする。



「とにかく、総督の居場所がわからない限りは……」



 その時、部屋の外からけたたましい足音と言い争う声が聞こえてきた。上にいた店主夫妻の物だが、それ以外にどこか高圧的なものを感じさせる声も聞こえてくる。



「さ、酒蔵はもう空ですよ、何もありません!」


「なら見せても問題あるまい! そこをどけ!」


「ぐあっ!」



階段を転がり落ちる音。誰かがここに踏み込んでくるのは明らかだった。



「何事ですの……!?」


「やばい、警官だ!」


「どうする、逃げ場なんてないぞ!」



 皆が慌てている間に、酒蔵の扉が乱暴に開かれる。そこには三人の警官と、そのうち一人に押さえつけられたシメオンの父親の姿があった。


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ヴィルドミーニュの現状


 計画経済は食品にも及んでおり、全体的に低価格に抑えられていた。だがそれは領内の農家を駆逐し、食糧の需給バランスを大きく傾かせた。結果ヴィルドミーニュは外部に食料を依存することになるが、ドレメールとノルプラージュの失陥により供給そのものが減少。一気に食糧不足への不安が広がった。それに対し総督は食品の配給制への移行と食品の供出を命令、市民はこぞって食料を隠したが、警官隊はそれを探し、違反者を投獄している。不安と不満が社会に広がる中、反勇者勢力が次々現れ始めており、ジョルジェットの失政が浮き彫りになりつつある。


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今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。


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