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第十九話 指名手配犯

前回のあらすじ


 パーティーの仲間二人が倒されたことで勇者陣営も焦りを覚え、仲間たちを呼び戻そうとする。だが戦士ジョルジェットはそれを拒否、自分の街に籠ることを決める。そしてエマニュエルが向かったのはそのジョルジェットが治める町、ヴィルドミーニュだった。巨大な露天掘り鉱山を有する、荒れ地に建つ鉱山と工場の街でさらなる血が流されようとしていた……

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勇者の旅路:ヴィルドミーニュ(その2)


 鉱夫たちの街ヴィルドミーニュは魔物たちの攻撃にもよく耐えていたが、地底を掘り進み坑道ごと鉱夫を飲み込む巨大なワーム『鋤き返しの王』には打つ手がなかった。最大の露天掘り鉱山『トゥリシェス鉱山』はほぼ閉山状態であり、勇者たちが討伐しようにも相手が地中では手出しができない。手をこまねいていたところ、怪力無双を誇り、鉱夫の護衛を仕事にする竜人が居るという話を聞いた勇者はその人物を訪ねる。戦士ジョルジェットとの出会いであった。

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 建設中のヴィルドミーニュ郊外はひっそりとしたものだったが、市街の中央に行くにつれ人は増え、建物は立派になり、当然それに伴って活気も増していくものだろうとエマニュエルは考えていた。しかしその予想は外れることとなる。確かにドレメールほどではないにせよ、レンガや石造りの建物が並ぶ立派な街並み。そしてそこをエルフやドワーフといった異種族を含めた人々が行きかっている。だが……


挿絵(By みてみん)



「(何かしら……この街変だわ……)」



 煤煙の匂いにも慣れてきたころ、そう感じる理由がわかってきた。エマニュエルは人の声をほとんど聞いていないのだ。もちろん皆が皆無言というわけではない。何かしらの売買であったり、訪問客の挨拶であったりと、そう言った声は聞こえてくる。だがそれ以外の雑談や、子供の声といった、街であれば当然聞こえてくるような声がまるで無いのだ。



「(今は夕方、仕事を終えた人たちが街へ出てくる時間なのに……)」



 見れば、飲食店や酒場と思わしき建物は扉を閉め切って営業していないものが多い。道を行く人々はどこか俯きがちで、街を包むのは上空から見て想像したような賑わいではなく、煙が漂う空の暗さと相まった、どこか重苦しい空気だった。



「(ここも、何か……)」



 これまで訪れた街は良い街に見えて実際には暗い面がある街だった。ここにも何か大きな問題があるのではないかとエマニュエルが思い始めた、その時。



「見ろ! 第三王女、エマニュエル殿下だ!」


「えっ!?」



 突然名前を呼ばれ、思わずそちらを見る。すると路上に人があつまり、その中心で木箱か何かに乗った若い男……というよりまだ少年と言った方が近い人物が、声を張り上げている。その手には一枚の貼り紙らしい物。



「勇者による殺戮を唯一逃げ延びた悲劇の王女! 幾度となく偽物が現れたが、今度こそ本物だ! この通り勇者たちが手配書を張り出したんだからな!」



 どうやら見つかったのではないらしいと分かったエマニュエルはその人だかりの外周に近づく。件の手配書には生死問わずの高額な懸賞金と人相書き……赤目の黒い鎧と言うだけで、まるで似つかない物だったのだが、とにかくエマニュエル・マルブランシュの名前が記されていた。



「すでにドレメール、ノルプラージュ総督は討ち果たされた! 今こそ、簒奪者オーレリアンを倒し、真なる王権者をお迎えするんだ! 我々、正当王権騎士団と


「貴様、何をしている!」



 演説を遮り、治安機関らしい制服を着た男二人が詰め寄って、演説者を箱から引きずりおろして地面に押さえつける。



「大衆扇動の罪で逮捕する! さあ立て!」


「エマニュエル殿下はいずれこの街にも訪れる! 総督ジョルジェットは打ち倒され、お前たち権力の犬どもの粛清が


「黙れ反乱分子のクズが!」



 警棒で打ち据えられた演説者は顔から血を流し、連行されて行く。その後ろ姿を見送る者と解散する者は半々といったところで、エマニュエルはと言えば前者だった。



「(あの人、私の味方になってくれるのかしら……?)」



 正当王権騎士団なる組織は聞いたことが無かったものの、その言動は明らかに反勇者のそれであり、しかも土地勘のある現地の人間。であれば、協力することでジョルジェットとの戦いの助けになるのではないかと考えたのだ。



「(よし……助けましょう)」



 縄を打って連行していく三人をエマニュエルは尾行する。警官の一人が近道をしようとしたのか路地に入り、人目が切れた。工事のあまりか廃材か、未知の片隅に転がっていた角材を手にしたエマニュエルは、それを警官の後頭部向けて投げつけた。



「ごっ!?」


「なに……!?」



 一人が昏倒し、もう一人が振り向いたとき。その目には映ったのは、投げると同時に駆け寄ってきたエマニュエルが赤毛をなびかせて跳びながら空中で角材をキャッチし、振り抜く姿だった。



「よし、と。お怪我は……ありますわね。大丈夫ですか?」


「あ、あんたは……?」


「私は……」



 名乗ろうとして、はたとエマニュエルは思い直す。窮地に謎の人物が現れて助けてくれ、その相手は自分が支持する行方のしれない第三王女……



「(ちょっと……出来過ぎてて怪しいわよね?)」


「な、なあ?」


「ああ、失敬……私の事はエマとお呼びください」



 エマニュエルは正体を隠しておくことにした。助けられた方はと言えば、剣を下げ、男物の鞄を背負った黒服の女性というエマニュエルのいで立ちは、有体に言って不自然なものではあった。しかし捕まっていた男……というよりまだ少年と言った方が近い。彼は、あまり細かいことを気にしない性格だった。



「エマ、か。王女様とおんなじ名前なんだな! おれはシメオン! 助けてくれたってことは、正当王権騎士団に入りたいってことで良いんだよな?」


「ええ……そう、ですわね。少なくとも私も勇者は許せないと思っていますわ」


「よし、それならもう仲間だ! みんなに紹介するからついてきてくれ!」



 浅黒い肌に、栗色の髪と瞳をした彼、シメオンはまだ16歳なのだという。痛々しい殴打の痕に反し、明るい笑顔を浮かべて駆け出した。



「あ、お待ちくださいまし!」



 慌ててそれを追うエマニュエル。珍妙な取り合えわせの二人は大穴の方にある旧市街の方へと歩いていくのだった。



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ヴィルドミーニュ


 石炭と鉄鉱石の鉱脈が隣接しており、古くから鉱山の街として発達した。勇者の統治下においては、工業の一大拠点として位置づけられ、工場の増設や市街の拡張が急ピッチで進められている。人々は国営工場で昼夜問わず働き、生産された製品は列車で王都へと運ばれる。鉄と熱と労働者の街、それがヴィルドミーニュである。現在の総督は竜人の戦士ジョルジェットだが、彼女が人前に姿を見せることは無く、彼女の命を受けた各種機関が人々を統制している。

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今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。


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