第4話
「御園!バスケしようぜ!」
「……は?」
誰ですか、お前。
確か、クラスメイトではあったはず……名簿を思い出しながら名前を探す。
「……あ、坂口くんか」
「名前忘れてただろ!」
「まぁ……そんなに接点ないし……」
「まあいい。これから覚えてくれればいいからな!」
ニカッと笑う坂口くん。真っ白な歯が眩しい。
「それで、バスケだっけ」
「そう!1on1で勝負しようぜ!オレ、今バスケ部で……」
「お断りします」
「早!なんでだよ!」
「なんでって……下手だから?」
見苦しいプレーはもう二度と見せたくない。球技大会だって、球技大会だから、出たのだ。現役バスケ部員と1on1なんて、明日絶対筋肉痛になるし、そもそも本気でなんてもう二度とやりたくない。やっても期待に応えられなきゃ意味ないし。
「いいだろ、下手だって!お前のプレー、凄い楽しそうだったぞ。本当はやりたいんじゃないのか」
「……そんなわけないじゃん。私はもう二度とやらない。そう決めたんです。だから、他を当たって下さい」
「他?他って誰だよ」
「ゆ……リン様、とか」
ゆうちゃんなら、期待に応えるプレーをしてくれる。昔からそうだった。監督の期待には応えるし、私の期待に応えることだってあった。ゆうちゃんが期待に応えなかったことなんて、多分ない。
「リン様……?リン様って、神門結依?」
「それ以外誰がいると思ったんですか。リン様なら、約束さえ取り付ければきっと」
「嫌だ」
「は」
「お前の1on1が見たいんだ。本気の」
……本気の。
本気の、なんて最も嫌いな言葉だ。私が本気でぶつかって、その結果がこれだ。それに誰も気づいてない。
ただ、なんとなく違う部活をやってみたとかそんな軽い理由でバスケ部を避けたわけじゃない。私はバスケだけはやらない。その覚悟でここにいる。
「本気なら余計にやりたくない。そもそも現役バスケ部員と退役バスケ選手、どっちが強いかなんて歴然じゃないですか。なんでそこまでしてやりたいんですか?自分の力を誇示するため?私を晒し者にして『神門結依とプレーした人間を倒した』って称号が欲しいから?だったら、あの時のメンバーを集めてもいいんですよ」
「そういうわけじゃ……」
「だったらなぜ?足も速くない、技術もない、取り柄はシュートフォームだけ。そんな私と何がしたいんですか?」
私の気迫に負けたのか相手は黙り込んだ。
「……そういうわけでバスケはしません。さようなら」
「オレは諦めてねーからな!」
「諦めの悪い男は嫌われますよ」
「うるせー!お前がどれだけバスケが好きだったのか、思い知らせてやる!」
(なんで私の周りってこんなにお節介な人間が多いんだろう)
ゆうちゃんといい、坂口くんといい、私に何を求めているんだろう。死人はもう動かない。それなのになぜ揺さぶるのだろう。