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ざまぁされるために力を隠すが、仲間がいい奴過ぎてざまぁ出来ない

作者: NEET0Tk

 俺の名前はライト。


 俺のことを無能だと蔑み、追放した奴らにざまぁと言ってやることを夢に持つ、一般通過チート転生者だ。


 俺のチート能力はステータス改変。


 パワー、スピード、魔力に体力、様々な能力を好きに改変できる。


「ライト!!バフを頼む!!」

「おう!!」


 俺は仲間のパワーを1だけ上昇させる。


 最早誤差であるが、これでいい。


「ありがとう!!」


 そう言って茶髪のイケメンはモンスターに突っ込む。


「カリナも合わせるよ!!」


 赤髪の少女が魔法を発動する。


 イケメンの攻撃と、少女の魔法が同時に命中し、全身が岩で出来ているゴーレムにダメージが入る。


「クソ!!」


 イケメンがゴーレムの反撃をくらい、腕を負傷する。


「回復します」


 そう言って金髪の聖職者は祈りを捧げ、イケメンの腕はみるみる治っていく。


「ありがとう、アリア」


 そして戦闘はは続き、ついに


「やった」


 ゴーレムは音を立てて崩れる。


 皆が満身創痍の中


「ひゃっほー!!お宝だー」


 埃一つ付いていない俺は、ゴーレムが守っていた宝箱目掛けて走っていく。


 その道中で


「チッ、罠か」


 俺は自身の身体能力と器用さを強化し、先んじて罠を解除しておく。


 ざまぁをする前に死なれちゃ困るからな。


「全く、ライトはいつのせっかちだな」



 ◇◆◇◆



「「「蒼天の空にカンパーイ」」」


 ダサいパーティー名と共に、四人で酒屋で飲む。


「今日の敵も強敵だったな」


 茶髪のイケメンこと、ゼータは嬉しそうに酒を飲む。


「それでも倒すことができたのはみんなの力のお陰ですよ」


 金髪の聖職者ことアリアは少しほろ酔いしながら答える。


「カリナ達どんどん強くなってきてるね」


 赤髪の少女カリナが嬉しそうに言う。


 まぁ当然だろう。


 この三人は元々低級冒険者。


 この世界では冒険者という職業があり、決められたランクによって難易度と報酬が増加する。


 ちなみにランクは下からEDCBAと強さが上がっていく。


 そんな中、俺は半年間もE級にいたこいつらに目をかけた。


 少しずつステータスを上げ、俺を追放した瞬間に以前のステータスまで一気に下げるといった作戦を俺は決行する。


 はずだったんだが


「こいつらただのお人好し集団なんだよな」


 ため息が出る。


 こいつらは元々小さな村の出身で、三人で冒険者を始めたそうだ。


 だが、クエスト中に人命救助をしたり、成果を一緒に行動した連中に分け与えたりした結果、E級止まりとなっていた。


 そのため、こいつらにのステータスは既にかなり高く、弄ると逆に怪しまれそうであった。


 まぁ一応少しずつステータスを上げているが、本当に誤差だ。


 こいつらに成長が早すぎて調整ができない。


「カリナの魔法も、アリアの回復も本当に助かったよ」


 ゼータも酔いが回ってきたのか、嬉しそうに今日の話をし出す。


「チャンスだ」


 俺は立ち上がり


「まぁ全部俺のお陰なんだけどな!!」


 嘘である。


 俺はマジでなんの役にも立ってない。


「え、えっと」

「なんていうか……」

「そうだな」


 気まずい空気が流れる。


「実は……ライトに話したいことがあるんだ」


 きた!!


 つ、ついにこの時が来るのか!!


「来てくれる」


 すると奥から一人の女が現れる。


 大きな杖を抱え、ピンクのツインテールの可愛い系だ。


「彼女の名前はローズ。ライトと同じでステータスをあげる能力を持ってる」


 き


「来た!!」


 これは絶対そうだ!!


 この後に


『ライトは無能だから、今度からはローズをパーティーに入れる。ライトはここから出て行ってくれ』

『そ、そんな!!」


 といった流れで通報されるんだな!!


「だ、誰だよそいつ……」


 俺はあえて動揺したフリをする。


 まだ笑うな。


 ここで悔しそうに逃げるまでがざまぁだぞ。


「実はこの子に」


 息を飲む


「君の力を見せてやって欲しいんだ」

「そ、そんな!!嘘だと言ってくれ!!」

「……」

「……」

「「え?」」


 ゼータと声が重なる。


「ご、ごめん。ライトは嫌がるだろうってみんなで話したんだけど」

「でもライト」


 身長が140くらいしかないカリナは、テクテクと俺の腕を掴む。


「あの人のお願い、聞いてあげない?」

「ク!!」


 俺はざまぁを目指す誇り高きざまらーだが、さすがに可愛い女の子のお願いは効く。


「私からもお願いします。私には彼女にライトさんの素晴らしさを知って欲しいんです」

「クソ!!」


 アリアの純粋さが俺に突き刺さる。


 どうやったらそんな真っ直ぐ鋭利に育つんだ。


「ライト」


 ゼータは俺の手を掴み


「見せてやってくれ!!俺らの力を!!」


 俺は泣く泣く首を縦に振った。



 ◇◆◇◆



 ダンジョンと言われる場所は、モンスターが湧き、倒すと何故か現れる魔石と呼ばれるアイテムを売ることでお金にすることが出来る。


 ここはまだ階層が浅いため敵が弱いが、奥に進めば化け物みたいな敵が現れる。


 そいつらからから取れる魔石を売れば


「ゲスな笑みですね」

「グヘヘ?」


 三人が前にで、バフ要員かつ力を温存するという形で俺とローズと言われる女は後方にいる。


「私は以前あの三人に救われたことがあります」

「へぇ」


 なるほど


「未熟だった私は、あの時オーク型の強力なモンスターに襲われてしまいました」


 なんか語り出したんですけど。


「私が殺される瞬間、あの方達は依頼されている荷台を放棄し、私を助けてくれました」

「ふ〜ん」

「結果、あのモンスターを撃退できましたが、依頼は失敗。三人は多額の借金を背負ったと聞きます」

「あー」


 だからあの時あいつら貧乏生活してたのか。


「だから私は恩返しがしたいんです」

「そっか、勝手にしてろよそんなの」

「ですが」


 敵意


「そんな方々を不幸に導くあなたが許せません」

「へぇ」


 どうやらこいつはあのバカどもと同じようだな。


「あなたの話はよく聞きました。曰くお金を強奪するだの、曰く合同任務で問題行動を起こすだの、曰く」


 彼女は持っている杖に力を込め


「足を引っ張る程弱いと」

「どうだかなぁ」


 俺はわざとらしくニヤつく顔を見せる。


「どう考えても私の方があなたよりも役に立ちます」

「そんなわけないだろ。俺は天才なんだからな」

「冒険者の方々が言っていました。自信満々な態度のくせに、能力が全然上昇しないと」


 そしてローズは悔しそうに歯軋りする。


「なのに、皆さんはこう言ったんです」


『ライトはいい奴だよ』

『カリナはライトがいないのは寂しいな』

『私達にとって、ライトは大切な仲間ですので』


「どうして……」

「どうして……」

「どうしてそんな信頼されてるんですか!!」

「どうしてそんなに信頼されてるんだ!!」


 言葉が重なる。


「本当にあいつらお人好し過ぎるだろ!!」


 マジでどんな神経してるんだ?


 バフをクソ雑魚だし、働かないくせに毎回宝箱の分前を増やすし、俺の悪名はこんなにも知れ渡っているのに


「きっとあなたが騙しているんでしょう」


 ローズが熱い目を向ける。


「私が必ずこのダンジョンで皆さんの目を覚まし、必ずあなたを追放します!!」

「お前……」


 なんていい奴なんだ。


「後悔しても遅いですからね!!」


 なんて奴だ。


 ローズはきっと、ざまぁ界のニュースターとして覇権を取れるであろう。


 これは


「期待できるな」


 俺がざまぁされる日は遠くなさそうだ。



 ◇◆◇◆



「悪い!!溢した!!」


 階層が深くなり、敵の数や強さが増していく。


「対処します」


 犬型のモンスターが一匹こちらに流れてくる。


「エンチャント」


 ローズは武器を強化し


「おら!!」


 殴り殺す。


 襲ってきたモンスターは消滅し、魔石だけが落ちた。


「ふふん」


 ドヤ顔をするローズ。


「犬一匹でイキんな」


 俺は魔石を回収し、いつものように自身のポケットにぶち込む。


「それ、私が倒したんですけど」

「何言ってる。俺らはパーティーだろ?細かいこと言うな」

「そうやってあの方達からお金を取ってるんですか?」

「何の話だ?」

「とぼけてもーー」

「おーい、二人とも行くぞー」

「ほら、置いてかれるぞ」

「絶対に証拠を掴みますから」


 俺らはドンドン先に進む。


「おい、ゼータ。今日は少し急ぎすぎじゃないか?」

「そう?まぁいつもより人が多くて楽しいからね」


 ゼータは楽しそうに進む。


 その様子を見ながら、カリナとアリアは楽しそうに談笑する。


「チッ!!すぐに調子に乗りやがって」

「別にいいじゃないですか。かの階層なら皆さんの力であれば不覚は取らないでしょう」

「近くにあるかもしれない宝箱を見落とすかもだろ?」

「本当にガメツイですね」


 こうして俺は一抹の不安を抱えながら、奥に進んで行った。



 ◇◆◇◆



「頼む!!」

「はい!!」


 かなり奥へと来て、パーティーの余裕が少しずつ無くなっていく。


 飛ばし過ぎたせいか、カリナの魔力は切れかけ、アリアも集中力が乱れてる。


 それに


「ごめん」

「かなり深いですね。これは清潔な場所でないと後で病気になってしまうかもしれません」


 ゼータが傷を負う。


「すみません、私のプロテクトが間に合っていれば」

「いいんだ、気にしないでくれ」


 かなり気落ちしている様子のローズ。


「そうだよ気にすんな。まぁ俺は間に合ってたけどな」


 上げた防御力は少しだけだけどな。


「あなたのは全然効果がないじゃないですか!!」


 遂に堪忍袋の緒が切れる。


「どうして今までそれでやってこれたんですか!!どう考えも足手まといでしょう!!」


 ローズが怒鳴る。


「まぁまぁ、ローズ落ち着いて。ライトはちゃんとーー」

「黙っていられません!!」

「うるせぇな」


 本当にうるさい。


 ローズは距離を詰める。


「皆さんは優しいから口に言いませんが、ハッキリ言います。あなた邪魔です」

「はぁ」

「自主的に出て行って下さい」


 うーん。


 それだとざまぁ感が薄れるんだよな。


 もっとこうみんなに攻め立てられながら追い出されるシチュエーションがいいんだよな。


 というわけで


「却下だ」

「それなら」


 ローズは杖を構える。


「無理矢理でも」


 それと同時に


「え?」


 足音。


「まずいね」

「結界を貼ります」

「魔法一発だけデカいの打つけど、その後は無理だから」


 咄嗟に対応を始めるメンバー。


「ど、どうして……ここの階層の敵は全員倒したはずじゃ」


 現れたのはオーク型モンスター。


 ちょうどこの下に湧くモンスター。


「決まってるだろ?基本的にモンスターは縄張りのために他の階層に行くことがない。だが、オーク型みたいなモンスターが若い女の声を聞いて我慢できると思うか?」

「あ……」


 ローズは自身の口を抑える。


「私の……せい」


 事実を知った彼女はペタリと膝をつく。


「ご、ごめんなさい。私……そんなつもりじゃ」

「気にしないで」


 フラ付きながら立ち上がるゼータ。


「大丈夫、僕達が守るから」

「でも」

「アリア、結界剥がして」

「はい」


 オークの攻撃によってヒビが入っていた結界を解除する。


「死ね!!」


 可愛い声に反して物騒な掛け声を出すカリナ。


「ブワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 悲鳴を上げるモンスター。


 だが


「仕留めきれなかった」


 モンスターの体はボコボコと音を立てながら回復する。


 オーク型のモンスターの特徴は回復。


 かなりの栄養を使えば、腕の一本くらい生やせるそうだ。


「アリア、回復お願い」

「分かりました」

「ま、待って下さい!!そんな怪我で挑んだら!!」

「言ったでしょ」


 ゼータは武器を持ち


「僕達が守るって」


 ゼータは怪我をもろともしない勢いで走り出す。


 モンスターの足を切り、体勢を奪う。


 よろけたことによりモンスターの首が剣の届く位置にくる。


 当然警戒した様子のモンスターだったが



「もう遅い」


 ゼータの言葉と共に、その首を刎ねた。


「す、凄い……」


 ローズは言葉を漏らす。


「あはは」


 ゼータは笑いながら倒れる。


「ごめん私もちょっと」

「すみません、私も」


 それと同時にカリナとアリアも倒れる。


「す、凄いですよ!!今の見ましたか!!私は歴史的瞬間を目にしました」


 先程の絶望と違い、今度は楽しげに話すローズ。


「お前はお気楽でいいな」

「な!!あ、あなたこそ。さっきの戦いに何も参加してなかったじゃないですか!!」

「それはお前も同じだろ?」

「うっ………そ、そうですが私はまだ慣れてないので……」

「戦場でそれを言い訳にするつもりか?」

「!!!!」


 ローズは顔を顰める。


「お前、その時から何も学んでないんだな」

「え?」

「お前は同じことを繰り返したんだ。お前のせいでピンチに陥り、そしてこいつらの命を危険に晒した」

「そ、それは……」

「遊びじゃねぇんだぞ?ここは」


 完全に黙り込むローズ。


「あー」


 つい熱くなってしまう。


 悪い癖だ。


 こういう考えなしの馬鹿を見るといつもこうなっちまう。


「程度が低い奴はこれだから」


 ローズは何か考え事をしているようだが、どうでもいい。


「おい!!そうやってブツブツ感傷に浸るのもいいが、このままゼータの傷を放置したら死ぬからな?」

「は!!」


 ローズは顔を上げる。


「ゼータさんを上まで運ばないと!!て、手伝って下さい!!」

「おいおい、お前はバフ要員だろ?まさか人を三人も運べない程クソ雑魚なのか?」

「な、舐めなで下さい」


 ローズは自身の力を高め


「あなたはどうするんですか?」

「俺はこの先にあるはずの宝箱を漁ってから帰る」

「本当にクズですね」

「結構」


 こうしてローズは三人を抱え、走っていく。


「さて」


 ゼータの防御力を元の数値に戻す。


「いやー、さすが俺。ギリギリ死なないラインを見つけ出すプロと言っても過言じゃないな」


 ゼータの治癒能力を高める。


「俺をざまぁする前に死なれちゃ困るからな」


 そして


「待たせたな」


 俺は威圧感の数字を元に戻す。


「これはこれは大量なことで」


 下の層から現れた大量のオーク型モンスター。


「呪われてお前らの姿になったって設定で上手く追放されないかな?」


 いや


「さすがにキモいは」


 というわけで


「死ね」



 ◇◆◇◆



「何なんですかあの人は!!」


 ローズは怒りを露わにしながらダンジョンを抜ける。


「よし、後は馬車に乗せれば」

「お?」


 すると二人の男が現れる。


「なんだ?嬢ちゃん。ダンジョンにこっ酷くしばかれた後みたいだな。よかったら有金全部俺らにーー」

「おい待て」


 一人の男が声をあげる。


「あれって蒼天そ空じゃないか」

「まずいな」

「さすが、皆さんはこんなゴロツキにするら認知されているんですね」


 他人のことなのにまるで自身のことのように自信げなローズ。


「おい、お前。ライトの野郎はどこ行った」

「え?あのクズですか?」


 ローズは不思議に思うも


「あいつなら宝箱を求めてまだダンジョンの中にいますよ。皆さんと違って無傷でね」


 皮肉を込めた言い回しだが、根の素直な部分故、正直に話す。


 話してしまう。


「おお!!そうかそうか」


 男二人は笑う。


「まさかあの蒼天の空を食い物出来る日が来るなんてな」

「ラッキー、今日は運がいいぜ」

「な、何を言ってるんですか?」


 ローズは流石に自分達がますい状況であることに気付く。


 瞬時にバフを掛けようとするが、先に組み伏せられる。


「つ、強い」


 ローズは相手が自身より格上だと気付く。


「こちらは蒼天の空ですよ?こんなことをして、痛い目を見るのはそちらです」

「ん?そんなわけないだろ」


 ゲラゲラと笑う男二人。


「その三人はな、生粋のアホなんだよ」

「自分達も金がねぇくせに、少し悲しいエピソードをつければすぐに金を出す」

「本当に格好の餌だったんだよ!!あいつが来るまでは」

「あいつ?」

「あのクソライトだ」

「え?」


 ローズは目を丸くする。


「いつもみたいに金をそびったらよ、あいつが」


『あ?こいつらには肥えて俺を追放するくらいのクズに育ってもらう必要があるんだ。お前らに渡す金は一ミリもねぇ』


「あの後奪った金を全部取り返されちまった」

「合同任務で襲おうとしてた連中もいつの間にか貼り付けにされていたらしい」

「これがあの時付けられた傷だ」


 男は傷を見せる。


「これを慰謝料だって言えば、そいつらは快く頷いてくれるさ」

「そんな……」


 ローズは自身の過ちを知る。


「ご、ごめんなさい」


 ローズは涙を流す。


「ゆ、許して下さい」


 それは相手に対する恐怖か、それとも


「アッハッハ、泣いてる女はいいな」

「こういう強気な女が泣いてると、ついつい味見したくなっちまう」

「そ、そんな」


 ローズは後悔する。


 どうしてあの時冒険者の言葉を信じたのか。


 どうしてあの時三人の言葉を信じれなかったのか。


 どうして


「ごめんなさい」


 謝る。


「おいおい、いくら謝ったて」


 もう


「遅いんだよ」


 声


「ま、まさか!!」


 男が驚愕する。


「ライト……さん?」

「なんだ?俺の顔になんか付いてるか?」


 ライトは不思議そうに自身の顔を触った後


「まぁいい」


 不敵に笑い


「どうやらあの時散々苛めてやったのに、まだ反省し足りない様子だなぁ」

「「ひぃいいいいい」」


 先程までの様子が一転。


 男達の顔は恐怖に染まる。


「悪いがこいつの心を折ってもらうのはまだ早いんだ。俺を追放した後、その膨れ上がった自尊心を最強になった俺が踏み躙ってやるんだ。そんな果実を潰そうとするなんて」


 空気が凍てつく


「死にたいのか?」

「ゆ、許してくれ!!」

「もう手は出さないって誓うから」

「お!!いい言葉聞いたな」


 ライトが何かを操作すると


「へ?」


 男の手がボキボキと折れる。


「お前らの指の防御力を1にしてみた。どうだ?風で指が折れる感覚は?」

「いだ!!いだい!!だずげで!!」


 痛みで転げ回り、その衝撃で更に痛みが増すという負のループ。


「強い……」


 次元が違う。


 ローズは自身が馬鹿にしていた相手の真の強さを知る。


「そして今度は治癒力を一気に高める」


 グジュグジュと折れた指が一気にくっつく。


「治……」

「さて」


 ライトは笑顔で


「次、手を出したら今度は全身で実験してみようか」



 男達は身体中の穴という穴から液体を飛び散らし、逃げ去っていった。


「あ、あの……」


 ローズは言葉を捻り出そうとするが


「……」


 言葉が出ない。


 これまで数々の罵倒を繰り出しておいて、どの口がお礼を言うんだと。


「どうして……力を隠しているんですか」


 代わりに抱いた疑問が口から出る。


 だがその質問に意味はなく、ただの時間稼ぎであったのだろう。


「だってそっちの方が面白いし気持ちいいだろ?」


 あっけらかんと答える。


「勘違いしてもらっちゃ困るが、俺がいい奴だなんて思わない方がいい」


 言ってしまえば、ライトは世界中の防御力を上げ、攻撃力を下げれば、暴力という面において世界平和を目指せるだろう。


「だが、俺はそんなことしない」


 何故なら


「楽しくないからだ」


 いつだってライトは自身の好きなことだけをして生きてきた。


「まぁ、お前みたいな恩返しするって生き方も泥臭くて好きだが」


 笑いかけ


「好きに生きた方が面白いぜ」

「ありがとう」


 言葉が漏れる。


「ありがとうございます」


 ローズの目から涙が溢れた。


「お前はいい仲間になれると思ったが、力を見られたんじゃもう無理だ」


 ライトはめんどくさそうに


「俺は一応お前の恩人だ。願い事くらい聞け」

「力を皆さんに伝えないこと、ですか?」

「ん?まぁそうだが、物分かり早いな」


 少し疑問に思ったライトだったが



「まぁこいつも馬鹿だし、恩人の顔に泥塗るような真似はしないだろ」


 深く考えなかった。


「おら、街まで運べ。お前が助けたっていう体で話を進めろ。いいな?」

「分かりました」


 近くにあった馬車に四人は乗り込み、走り出す。


「惜しかったなぁ」


 ライトはため息を零す。


「あの女がいれば俺の理想に近付いたのに」


 だがライトは切り替えの速い男。


「いや、こうしてウジウジしてる暇はない。いつか奴らに言ってやるんだ」

「ざまぁ」


 街の中


「ゼータ、ライトにそっくり」

「だろ?」

「もっと邪悪な笑みの方が合ってますよ」


 体の調子が戻った三人は、楽しそうに冒険者協会に赴く。


「ライトをまだ追い出したい?」

「すみません、それはなかったことに……」

「ライトは良い子」

「分かってもらえて何よりです」


 四人は親しげに笑った。


「あ、魔石の換金お願いします」

「はーい」


 こうして少し待ち時間が出来る。


「本当に帰るの?」

「はい。今回の件で自身の力不足を認識しました。だから、一から鍛え直したいと思います」

「寂しくなるね」

「一緒に冒険したかったです」


 だがこれは話し合った結果。


「いつか必ず、皆さんの横に立てるような人間になります!!」

「待ってるね」

「換金終わりました」


 受付をしていた女性が大きな袋を持ってくる。


「こ、こんなに!!」


 ローズは初めて見る金貨の量に驚く。


「え?いつもこのくらいでしょ?」

「そうだね」

「これが普通ですね」


 蒼天の空は不思議そうにする。


「耳を」


 すると受付の女性はローズの耳元に口を寄せる。


「実は魔石の換金には多くの工程で省かれてる金額があるのですが、ライトさんによってそれが省かれていんです」


 ライトは間接的に蒼天の空に金を回し、裕福な暮らしをさせて傲慢な人間にさせようとしていた。


「やっぱりあの人は」


 ローズはあの時の光景を思い出す。


「それじゃ、そろそろライトを迎えに行くか」

「もしかしたら寂しがっているかもですよ?」

「まさかー」


 三人が楽しそうにする中


「ライトさん」


 ローズは不敵に笑う。


「素敵」


 彼女の名前はローズ。


 幼き頃、この世界に転生した女の子であり


「待ってて下さい、必ず横に並べる人間に」


 与えられた能力


『愛する者をステータスを無視して拘束する』


「クックック、俺はいつ追放されるかなぁ」


 何も知らないライトは、野原の上で笑い続けた。


 そして数年後


 人々は口々に彼をこう呼んだ。


『遅過ぎた男』



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