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立体制作なのですが!?

 まだ咲き始めたばかりのスミレや白百合の花の匂い。ひらひら舞う蝶々を目で追うのに飽きたぼくは、深い群青色の水面を覗き込んだ。彩どり豊かな花達を繊細で弱々しい緑がベールのように包み込んでいた。そして、そよ風が肌を撫でる。そのそよ風の方向に目を向けると、翡翠がいた。

 そこはとても美しくて、幻想的で、ぼくが思い出せる1番小さい頃の思い出の場所だった。








         ✎◐◑●








「ねえ、池なんてどうやって作るの?」

 ドロシーがそう尋ねた。昨日、俺はドロシーとあの話をしてから、幼い頃の思い出の場所をモチーフに、立体作品を作ろうと考えたのだった。 「ダンボールの中にUVレジンが入ってたんだ。これを使って池を作ろうかなーって。」

 UVレジンは太陽の光にしばらく当てるだけで、もともとは液体だったレジンをガッチガチに固めることができるから、自分の好きな形を作れる優秀なグッズである。高いレジンもあるが、100均でも4〜5g程なら買えるので、手芸やアクセサリー作りにも使われる。

「これをお皿に入れてそのまま固めようと思って。」

「な、なるほど……。」

 家から割らないように注意して持ってきたお皿に、青色のレジンと、透明のレジンをだいたい半分位入れていった。しかし。

「あ、やべ、全然足らないや。」

 黄壁先生のダンボールに入っていたレジンだけでは、お皿の真ん中に水たまりを作ったくらいだった。

うーん、どうしよう。

「…学校の近くのショッピングモールに100均があったよな。ちょっと買ってくる!」

「ええっ、今から?」

 目を丸くするドロシーを置き去りに、お財布を手に昇降口へ駆け出した。風が少しだけ吹いていて、追い風になってくれた。学校の昇降口から校門までの坂道を走っていく。


「…元気だなあ。」

 美術室にいるドロシーはそう呟く。




 



 

         ✎✾✽✼



 



  


 数十分後、俺は買ったレジンが入った、Cam-Doのビニール袋を手に、再び美術室へ足を踏み入れた。ドロシーはエスキース(どんな構図にするか、とりあえず色々な絵を雑・簡潔に書いていくこと。別名アイディアスケッチ)を描いていた。…かなり思い悩んでいる様子で。

 絵真は紙やキャンバスではなくタブレットで絵を描いていて、普段通りの、見慣れた光景である。

 俺は早速、買ったレジンのフタを開け、どろどろとお皿の水たまりを広げていった。透明のと、青いの、それぞれ同じ量くらいになるよう、無心で入れていった。

「……。」

 水たまりは、だんだんと池っぽくなっていった。UVレジンは、太陽の光に当てることで固まる。だから俺は窓の付近にそっと置いた。 

「よし。」

 そう言って俺が一息ついたときだった。


 ガンッ


「わっ、びっくりした!」

美術室のドアを開けそう言ったドロシーと、その1メートル先に逃げようとしているような、さっきの音を立てた人がいた。美術部では全くない女の子だった。「えっと〜見に来ただけで、怪しい者じゃありませんよぉ。」

そう言って笑った。

「にしても、めあるっていないんだね。」

「今日は来てないけど…めあるに何か用事が?」

 ドロシーが尋ねた。

「いや〜別にぃ。ただ、アイドルを見たかっただけ♪」

「えっ、え?」

 その女の子は、自分の薄いシースルー前髪を携帯鏡で見て整えながら、美術室の外にいた他の女子とキャッキャと騒ぎながらどこかに行った。

「な、何だったんだろう…。」

 ドロシーは唖然としていた。

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