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体力テスト、なのですが!?

「今日は新体力テストをするぞー。まず男子は1500、女子は1000m走るからな。準備運動しっかりしとけよー。」

 2時間目の体育の授業。毎年、春の恒例の体力テストが行われる。1500mや立ち幅とび、握力、上体起こし、反復横とびなどの記録をとり、身長や体重とともに用紙に記入するものだ。

「走りたくねー。今から雨降らないかな。」

「今からは無理だろ。」

「翔馬は良いよな。速くて」

「男バスの練習はハードだからね。お前も転部してみる?」

「絶対やだ。遠慮しとく。」 

 先に男子が1500m走るようなので、俺たちはスタート位置に移動した。

「いちについてー、よーい、どん!」

 体育の先生がそう言い、みんな一斉にかけ出す。すでに翔馬は遠くにいる。校庭1周は300mだから、5周走らなくてはならない。走っていると何周走ったか分からなくなりそうだ。

「頑張れー」

「が、がんばれー……。」

 次走るために準備体操をしながら、女子が男子を応援していた。その中には絵真もいた。弱々しい声だった。

 なんとか1周、2周目を走りきり、俺は3周目に突入した。息が切れてくる。足が重くなる。まだ半分もあると思うとぞっとする。殺風景な上、3回も見た景色に流石に飽きてくる。走っていって景色が変わるなら、ゴールに近付く実感がして良いなと思うんだけど。

 そんなことを考えながら4周目になった。自分の後ろの人が迫ってくる感覚がして、何とか足を速く動かそうと努力する。美術室前の汚ない池が目に入った。もう少し見ごたえのある綺麗な池だったら良かったのにな。

 後ろの人に追いつかれないよう速めに走っていたら、とうとう5周目に入ることができた。ラストはかなり全力を出してゴールした。

「はぁ〜。疲れた。」

「お疲れ〜」

 先にゴールした翔馬がそう言ってくれた。

「続いて女子ー、スタートラインにつけー。」

 その後、女の1000mが始まった。女子が走っている間に、男子は自分のタイムを記入する。

 うーん、去年よりタイム落ちたなぁ…。

「ふむふむ。」

「うわっ!勝手に見るなよ!」

 翔馬が勝手に俺の記録を見てきた。

「どーせ足遅いって思ってるんだろ…」

 俺はつい言ってしまった。

「いやいや! そんなつもりはないと言うか。」

「お前のタイムは…うぇ。見るんじゃなかった。仕返しになんないじゃん。足が速くて羨ましい限りですよほんとに。」

 後半の方は早口で言いつつ、横目で走っている女子の中に絵真を捉えた。走るときですらーーーー

「お~何だ〜? もしや新クラス早々、気になる女子でもできたかー?」

「いや違うって別に。」

「ふーん?」

 翔馬は俺の顔を覗いてきた。その後、雑談をしているうちに、あっという間に女子も走り終わり(走っている人にとってはあっという間じゃない!と言われそうだが)そしてみんなが一息ついたのを見て、先生から集合がかかった。

「では女子も忘れずにタイムを記入しろよー。体育係っ、ごーれーい」

「気を付け。礼。」

「ありがとうございましたー。」

 2時間目が終わった。みんながぞろぞろ動き出す。女子は忘れないうちにと記録している人、男子はさっさと教室に戻ろうとしている人が多かった。

「なあ、お前って走ってるときですらマスクつけてんの? 苦しくね?」

「ひょわっ!?」

 俺もみんなと同じように教室に戻ろうとしたとき、記録している絵真がいたので、率直に疑問をぶつけた。びっくりした絵真が記録用紙を落とす。

「5分3びょ…」

 ひらひらと舞う用紙から見えた数字。俺は自然と目で追っていた。

「うわああっ! ばか! 言わないでよ! 最っ低!」

 絵真が俺に平手打ちをしようとしながらそう言葉を吐いた。その瞬間、俺は爆発音にはっとし、心の底から溢れてくる絶望に打ち拉がれた。


 だってもう一度走るはめになってしまったから。







           ✎。❍







放課後

 はあ、今日は本当に酷い目に遭った。別に絵真の記録なんぞ興味ないっていうのに……。2度も走らなくてはならないなんて。あんなこと興味本位で聞くんじゃなかった。

 快々としながら俺は美術室へと足を運んだ。すると声が聞こえてきた。 

「お金が欲しい!」

「身長ですわ!」

……何の話をしているんだ?

 そこから聞こえてくるワードに謎を感じつつ足を踏み入れる。

「何の話?」

「紺野先輩がこうだったら良いなあと思うものをっていう話をしてたから、こうだったら良いと思うものを真剣に考えてるの。」

ドロシーがそう言った。

「……真剣に?」

「真剣に。」

 ドロシーはにこっとして言った。

 …にしてもあんな良い家に住んでいるくらいだから、お金に困ってなさそうなのに。

「後は〜どれだけ食べても太らない美味しいお菓子とかあったらなぁ〜」

「そんなものないよ。」

 隣にいためあるがすんとした表情で言う。何だかいつもとは逆の立場だな。アイドルとして色々と食事制限しているからこその諦念ことばだろう。

「お姉ちゃんは太りたくないならとりあえずおやつ食べるのやめたらどう?」

「え〜。」

 ドロシーが不服そうに言う。

「というか、紺野先輩が言ってたことって、そういうことじゃないような……」

 ちなみに肝心の紺野先輩は「ふふっ」と優雅に笑いながら、みんなとの会話を聞きつつ絵を描いている。

「そういう悠人は何があるの?」

「えー。」

 そういや、新作のゲーム気になっているんだよな。後は高身長イケメンになってあのアニメの主人 公みたくハーレムを楽しみた……って違う、これじゃドロシー達と一緒じゃんか。

 …紺野先輩が言ってたことに合わせるなら……

「池」

「?」

「あの池が、凄く綺麗だったらなあ、って思う。」

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