新たな1年の始まりなのですが!?
✎始業式
桜の木々をバックに、新クラスの発表が張り出されたホワイトボードを、誰もが真剣に見つめている。おそらく受験の合格発表のときのホワイトボードを、仕舞わずにそのままにしていたのだろう。俺は「淡藤」なので、出席番号は1番。だからすぐに見つけることができた。
2年2組か。…あっ、翔馬も同じクラスだ。やった…!!
「どうだった? 何組だったー?」
隣には、めあるとドロシーがいた。
「2組だったよ。そっちは?」
「私達は2人とも3組だったよー。あー、そう言えば、2組はえまえまがいたよ。」
俺はそう言われてもう一度、ホワイトボードを見た。2組の一覧に、確かに、“灰崎絵真”も書かれていた。絵真も、同じクラスなんだ。
「自分のクラスが分かった人は、早く教室に行って下さーい。」
そう先生が叫んでいたので、俺は2年2組の教室に迎ったのだった。
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放課後
俺はどんな立体作品を作ろうか、頭を悩ませていた。こんなたくさんの材料がある中で、自由と言われるとなかなか難しい。
「このダンボールの中のものって、私も使って良いよね……?」
絵真が突然、俺に尋ねた。
「別に良いと思うけど。つーか、お前も立体作るの?」
「私はデジタルイラスト一筋だけど、羊毛フェルト見たら久しぶりにやってみたくなって。」
「羊毛フェルト?」
聞いたことはあるが、よく分からなかった。
「このニードルって言う針を羊毛フェルトに刺しまくると、だんだん固くなるの。そうやって形を作るんだよ。」
絵真はそう言いながら、ダンボールに入っていたニードルを羊毛フェルトに刺していく。ふわふわの綿がだんだん固くなっていた。絵真は、小さい猫の頭を作った。
「ヘー、すげえな。」
時間はかかりそうだが、完全に自分の作りたい形を作れそうだ。
「昔、これでぬいぐるみとかキーホルダーとか作ってたんだよね。」
絵は猫の胴体を作っていた。茶色の猫だった。
「ドロシーと同じクラスになれて良かった〜! 今日の星座占い1位だったからかなぁ〜。それとも日頃の行い?」
めあるとドロシーがしゃべりながら美術室に来た。
「“私の”日頃の行いだよ」
ドロシーがドヤ顔で言う。
「えー私だよぉ〜」
めあるも言った。今日は午前が始業式、午後が入学式なので、放課後の美術室で部活をしている俺らは、これから始まる入学式にどきどきしながら登校する新入生が窓から見えた。去年の自分と重なった。
「2年生の4人、揃いましたね。」
紺野先輩がそう言った後、筆を置いて振りかえった。朱華先輩も。
「早速ですけど、4月から部長・副部長が変わりますので、 4人のうち誰がやるか決めましょう。」
「ドロシーが良いと思いまーす!」
「ドロシーだろ」
「ドロシー様部長」
「えーっと、じゃあ私やります。」
ドロシーは満更でもなさそうに言った。
「では、副部長はどういたしましょうか。」
しかし、そう言われた瞬間、沈黙が訪れた。
「私は忙しくてあんまり部活に来れないから……」
めあるはそう呟いた。
「じゃあ絵真で。」
「なっ、何をおっしゃるんですか! ダメですっ!私コミュ障なので部活紹介とかムリです! ここは公平にじゃんけんにしましょう!」
絵真が早口でそう言った。
「え〜」
「出さなきゃ負けよ〜じゃんけんっぽんっ」
半ば強引にじゃんけんをさせられた。俺がチョキ、絵真はグーだ。
「待ってくれ。絵真、3回勝負にしよう」
「何を言うんですか」
「よく考えてみろ。俺だぞ? 俺なんかが副部長になるのはやばい。しっかり者のドロシーとは違う。ちなみに絵真、副部長になったらドロシー様のお手伝いができるんじゃないか?」
「うぐぐ…!」
絵真が唸った。すると突然、ドアがばん、と開く音がした。
「2人ともうるさい…! 今入学式中なのよ…!」
「へっ?」
そこに立っていたのは、黄壁先生だった。
「美術室と体育館は隣接しているのよ…! 聞こえたらどうするの…! 全く…!」
そう先生が言った瞬間、爆発した。先生はかなり怒っていた。
あれ? 怒ったのが先生でも爆発するの?
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また始業式をして、放課後になった。美術室に行こうとすると、スマホの着信音が鳴った。見てみると朱華先輩からMINEだった。 一度目の今日には無かったことだ。MINEの内容は、
「そう言えば、黄蘗先生は、この学校の美術部だったんだよ。」というものだった。
えっ、そうだったのか…。偶然、自分が卒業した学校の先生になって、戻ってくたということか。
「だから、先生を怒らせても爆発するんだ。」
…つまりこの学校の美術部だった人なら、卒業後も怒らせると爆発する…のか? 仮説だが、だとしたら俺は卒業後も怒らせない様、びくびくしなきゃならないのか?
いや、そもそも卒業したら、ドロシー達に会う理由もないだろう。…そりゃそうか。
そんなことより、副部長どうしよう。ええっと、さっき絵真はグーを出したから、パーを出せば…そう考えながら、美術室に行った。
「このダンボールの中のものって、私も使って良いよね……?」
「うん、良いと思うよ。」
絵真は、また茶色い猫を作っていた。
「ドロシーと同じクラスになれて良かった〜! 今日の星座占い1位だったからかな〜それとも日頃の行い?」
めあるとドロシーがしゃべりながら美術室に来た。
「“私の”日頃の行いだよ」
ドロシーがドヤ顔で言う。
「えー私だよぉ」
めあるも言った。
「2年生の4人、揃いましたね。」
紺野先輩がそう言った後、筆を置いて振りかえった。朱華先輩も。
「早速ですけど、4月から部長・副部長が変わりますので、 4人のうち誰がやるか決めましょう。」
「ドロシーが良いと思いまーす!」
「ドロシー様部長」
「えっと、悠人はどう思う…?」
「えっ、あぁ、うん。ドロシーで良いと思う。」
俺は全くさっきと同じ光景にぼぉっとしてしまっていた。俺が曖昧に言うから、ドロシーが怪訝な顔をする。
「じゃあドロシーが部長で良いですか?」
「はい」
ドロシーが返事をする。
「副部長はどういたしましょうか。」
俺は朱華先輩が、俺を見ていることに気がついた。 ハタから見れば、副部長が誰になるか見ているだけなのだが、俺には、絵真がじゃんけんでゲーを出すのを分かっていてパーを出すのか、それとも負けてあげるのか、監視されているような気分だった。いや、まさかそんな訳はないだろうけど。
…俺は本当にこれで良いのか? 何を出すのか分かっているじゃんけんなんてずるくないか? でも今まで散々爆発に苦しめられてきた。少しぐらい良いことがあっても良いじゃないか。
絵真が俯いていた。どうして絵真はやりたくないのだろうか。
「…やっぱいい。」
「え?」
「俺が副部長やる。」
俺は、何だか馬鹿馬鹿しく思えてきたのだった。朱華先輩以外は“やっぱいい”という謎の台詞に、きょとんとしていた。
「じゃあ決まりだね。」
朱華先輩がそう言った。




