本当に無理ゲーなのですが!?
「それでは、テストを返却します。」
テスト明けの英語の授業。1時間目は数学。勿論、数学のテストが返された。今回、平均点が30点という高難易度で、英語で何とかしなきゃ、英語も悪かったら終わりだ…とか言う呟きが聞こえる。
「はい。1番から取りに来て下さい。」
俺はゆっくりと立ち上がり、テストを受け取った。その結果はーー
え、32点?え?
唖然とした。何かの間違いかと思った。あんなに自信を持ってテストを受けたのに。もしや、数学みたく平均点が30点位なのか? そんなまさか…。
「えー平均点は65点です。1分後に解説を始めます。」
その言葉で頭が真っ白になった。
そして気付いてしまった。……途中から、回答欄が1つずれているということに。
✎
泣きたくなるような気持ちでいっぱいだった。
「悠人。」
目の前にはドロシーがいた。
「85点以上取れた?」
心を抉る質問に、俺はもう何もかもをどうでも良く思っているかの様な笑みを浮かべてテストを見せた。「えっ……? …ま、まさか…!」
前半まではマルばかりなのに、途中からバツばかりになるので、ドロシーもすぐに気がついた。
「は?? 私がわざわざ教えてあげたのに!? 馬鹿…!」
怒声というより、冷たい声とともに爆発した。慰めてくれるかな、と俺は淡い期待を心に秘めていた。悲しい。痛い。熱い。耳を貫く爆発音。
そして朝になって、ある重大な事に気付いてしまった。
「あれ?これって無理ゲーじゃね?」
✎
「それでは、テストを返却します。」
周囲から、英語で何とかしなきゃ、英語も悪かったら終わりだ…とか言う呟きが聞こえる。
「はい。1番から取りに来てください。」
俺はさっきよりゆっくりと立ち上がって受け取る。
「えー平均点は65点です。1分後に解説を始めます。」
「悠人。85点以上取れた?」
また爆発したのだった。
そう爆発したらその日の朝に戻る。本当はテストの日に戻れたら、めでたしめでたし大団円〜なのだが今日の朝に戻ったら、またテストを受け取る→点数を聞かれる、の繰り返しなのだ。
「いやあ、ドロシーは本当に凄いね、95点なんて。天才だね!」
「急にどうしたの? 気持ち悪…」
「これ、今はまってるお菓子なんだよねー。美味しいから1つあげる〜。」
「え? あ、ありがとう…」
俺はドロシーを褒めたり、甘いものをあげたりして、気分を良くさせてから点数を言うことを試みた。
しかしどれもだめだった。
くそっ。何て理不尽なんだ。1つずれて、怒りたいのはこっちだというのに。俺の方が悔しいのに。辛いのに。そもそも怒ることなくないか? 俺が悪い点を取って、確かに勉強会は無駄だったかもしれない。しかし俺が悪い点を取ったからといって、ドロシーに迷惑をかけたわけじゃないだろう?
白いカーテンから差し込む光で目が覚める。もう6回目だ。俺は、決めた。
「悠人。85点以上取れた?」
「…85点だったよ。ドロシーのおかげだ。ありがとう。」
もはや、罪悪感など微塵も感じなかった。ドロシーはにこりと笑った。
「そっか!良かった!じゃあ、お願い、聞いてくれる?」
はっとした。しまったと思った。つい爆発を逃がれることで頭がいっぱいになり、約束のことをすっかり忘れてしまっていた。84点と言えば良かった。
「本当はエグい命令でもしようかと思っていたんだけど。」
俺はごくん、と息を飲んだ。悪魔ドロシーがエグい命令をするのは容易に想像がつく。
「だけど、昨日、高校受験の合格発表があったでしょ? それでヒカルがこの学校に合格したの。美術部に入るんだって!
…だから。ヒカルのことよろしくね。これはめあるや絵真じゃなくて、悠人に言っときたいの。」
「良いのか、そんなんで。」
「良いよ、別に。」
✎
「理乃ちゃん。いつもありがとうねえ。」
「いえいえ! 全然ですっ! むしろもーーっと任せて下さいっ!」
私は菜穂子さんーーーこの孤児院のみんなのママのお手伝いをすることが好きだ。というより、手伝えることが嬉しかった。
「でも、今日は休んでくれて良いのに。今日は、理乃ちゃんのお祝いパーティーなんだから。」
優しくて温かい、皆を包み込むような笑顔で菜穂子さんはそう言う。
「良いんです。私が合格できたのは、支えてくれた、みんなのおかげですから!」
私は、雲一つない空を見上げながら、洗濯物を干して、そう伝えた。




