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インパクトがほしいのですが!?

✎2月13日(月)

 学年末テストは2月24日、27日、28日、3月1日の4日間に分けて行われる。(25日、26日は土、日曜日なので休み)

 そして今日提示された紙によると、初日1時間目から英語だった。普段の俺ならやる気が出ないところだが、今の俺は一味違った。ドロシーには感謝しかない。

 そんな気持ちで美術室に行くと、既に絵真がいた。マスクのあご部分をつまんで引っ張り、あごとマスクの間の絶妙なすき間に一口サイズのチョコレートを入れていた。要するに、マスクを外さず、チョコを食べていたのだった。

「な、何ですか。見ないで下さいよ。」

「え、あ、ああ、食べずらそうだなって思って。」

 絵真のマスクを外す姿は、ほとんど見ない。 クリスマスパーティーでケーキを食べたときは、マスクを外していたけど、ギリギリそっぽを向いてなるべく見られないようにしつつ、ずっと左手で口元や鼻を隠すように食べていた。慣れているようだった。

 そうだ。俺はふと思った。

 最近、ほんの少し聞くようになった『逆チョコ』。男性から女性にバレンタインチョコを渡すやつ。今日、帰りに適当に安めのチョコ菓子を買って、ドロシーに感謝の意を込めて渡すのはどうだろうか。どうせ俺は85点以上は取る気はないし、お礼がないのはいくらなんでも鉄面皮だろう。

 そう思いながらあの絵と、パレットなどを用意し、黙々と描き始める。この前の、朱華先輩の絵を思い出した。

 朱華先輩は もちろん画力があるのだが、それと同時に大胆で、アイディア・インスピレーションを利かせた絵を描いたりする。前は、キャンバスに粉々にしたガラスを沢山貼っていた。触わると危ないので、コーティングをして。次は何をするんだろうーーーー−そんな風に少しわくわくさせてくれる先輩だ。


 インパクト。

 俺の絵には人の目を一瞬で引きつける。その力が足りないのでは?

 しかしこの淡い色合いの絵に、どうすればインパクトがつく、と言うのか? その答えを探しに、俺は無意識に周りを見ていた。当然、美術室には様々な絵が飾られていたり、置いてあったりしている。

 紺野先輩は、まさに『画力の権化』。実は写真を撮る趣味もある先輩は、驚くほど大量に写真を撮ってきては、何枚かに厳選している姿をよく見る。何枚かを組み合わせて、絶対に存在しない非現実な風景を脳内で作り、そしてそれをあまりにもリアルに描いてしまう。写真のようだけど異様、夢幻。だから、見た瞬間に不思議な心地になる。

 非現実な光景を現実にしてしまう、というある種のインパクトだ。あれは俺にとっては未曾有のものだった。

 部長と副部長は本当に凄いなあ、と思う。 

 そして、もう1つインパクトが強い絵があった。めあるの絵だ。ボールペンで描かれたモノクロの、独特な世界観の絵ははとてもインパクトがある。たった1本のペンなのに、塗りつぶしたり、少し雑めに塗りつぶしたり、ただの斜線・空白、とありとあらゆる描き方でグラデーションすら作っていく。ボールペン画、と言われて想像するようなごく普通のものより、はるかに高度な技術である。

 王冠を被った女王が黒々と描かれた、その絵をじっと見つめた。その絵の下からもう一枚、めあるの絵がちらりと覗いていた。

 その女王の絵に魅了され、もう一枚の絵を見たいという思いが最高潮だった。−−だから俺はその女王の絵を持ち上げて、もう一枚の絵を見ようとした。その瞬間に頭が真っ白になった。

 指に感じたソレは、脳に危険信号を送った。

「悠人の馬鹿ぁ!! 最低!それ5時間もかけたのにっ!」

 後ろからめあるの怒声が響いた。

 そう、まだその絵はインクが乾いていなかった……!

べたりとインクがついた指が、絵を台無しにしてしまっていた。そして、爆発とともに視界から消えていった。



 そりゃ、確かに怒るよね。

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