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朱華先輩の絵を見たのですが!?

「お、俺も絵を描こっと〜。」

 朱華先輩はそう言ってとぼとぼ歩いて、キャンバスを取りに行った。そのとき、俺は視界に一瞬だけ入ったそのキャンバスに大きく目を見開いた。

 それは一つの絵の中に、白と黒しか使われていない部分と、鮮やかな部分があった。白と黒だけの部分は全体の3分の1程度。鮮やかな部分と、白黒部分の境界線がくっきりとしていた。こんな絵は見たことがなかった。大胆だ。

「凄い…! 見たい!」

 俺は気づけばそう言っていた。

「え? あ、ありがとう」

 先輩は、俺の目的語のない言葉に狼狽し、肩をすくめつつもキャンバスを見せてくれた。

 めあるに負けず劣らず、独特な世界観の空想画だ。1人のフードを深く被った少女が、道のど真ん中にいる。頭から足へと見ていくと、足の途中で白黒になる。中学生の時に読んだサスペンス小説をふと思い出す。

「ちょっと、そんなに2人にじろじろ見られると、 恥ずかしいな…。」

「え? わわっ!」

 気づけば真横にドロシーが、しかも近距離にいて驚いた。こんな近くに来られても、気づかないほどに見入っていた。

 このインパクトの強い絵が、ほんの少しだけ、俺を変えることになった。



 



           ✎






次の日、俺が部活に行こうと教科書をリュックに入れていたとき、英語科の先生、たしか名前は………何だっけ。髪が長くて黒い、凛とした先生に話しかけられた。日直で残っていたために、教室にたった1人でしんとしていた。

「成績のこと、なのだけれど。」

「っはい。」

 変に肩に力が入った。

「今学期、もう少し頑張らないと、春休みを補習にするわよ。」

「ええっ、お、俺の春休み…さよなら…。」

「早くも諦めモードにならないでちょうだい…。貴方、英語以外はそれなりに良いんだから。もっと英語に時間を裂けれるでしょう。」

 そう伝えて、教室を出ていく行く先生を見送り、思わず眉をひそめて溜息をついた。すると廊下でがたん、と音がした。その後、逃げていくような足音。誰かと思った。そこにいたのはドロシーだった。

「あー、その、ごめん。委員会の資料、置きっぱなしにしちゃってさ。別に聞くつもりはなかったというか。」

 ドロシーは俺と先生の会話を聞いてしまったことに、ほんの少し申しわけなさを感じているようだった。それだけだった。肩の力が抜けた。

「何だ、別に聞かれてやばいことは話してないのに。」 

「まあ、そうだけど…。」

ドロシーは少し考えるような仕草をして、こう言った。

「ねえ、私が英語を教えてあげる代わりにもし良い点が取れたら、私のお願いを聞くっていうのはどう?」

「えっ?」

 突然の発言に、どうも頭がついて来ない。英語学年一位を取ったことがあるドロシーに教えてもらえるのは、ありがたい。しかし、お願いが分からないのに 頷くのは……

「…お願いって何?」

「それは、教えない。」

「えーっと、じゃあ良い点って、どのくらい?」

「うーん、85点以上かな。」

 俺は笑いがもれるのを必死にこらえた。どうも成績 上位の優等生は、「良い」のレベルが凡人とは違うようだ。否、彼女は、俺の英語の成績がいかに悪いか知らないのからか。

 俺が85点も取れるはずがない。そもそも、俺は平均点を越えればどうだって良い。なら、15点落とせばこっちの勝ちだ。

「良いぜ。その条件のるわ。」

 ドロシーは意外そうな顔をした。青い目がキラリと光った気がした。

「じゃあ、明後日からで良い?」

「ああ。」

 俺は英語と書かれた、白い教科書をリュックに入れて教室を出た。

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