学校へ行くのですが!?
俺は一つ、重大なミスを犯した。
あの楽しかったクリスマスパーティーが遠い日のように思う程、平凡で退屈な冬休みを過ごした。パーティーの次の日のクリスマスイヴは、何の予定もなくコンビニのチキンを食べたくらいだったし、毎日がゲームにアニメ、と言ったゴロゴロだらだらな日々だった。
パーティーではあんな会話をしたにも関わらず、絵の事を考える事はほとんどなかった。全く無かった、ではなくほとんど、と言うのは、母の仕事が無い日に例のごとく油の匂いがして、それで油絵のことを連想するくらいのことだった。
まだ高校1年生の冬だと言うのに、脳裏に浮かぶ先生達の「早く進路について考えた方が良い。」だの「目標をかかげろ。」と言うような言葉に促されて、この前届いた大学のパンフレットを手に取った。…しかし、聞いたこともない学部・学科の名前に、キラキラ輝くような青春の写真、難しい言葉の並ぶ文に、俺は嘆息して投げ出した。俺の青写真にはやりたいこともなくて、筆を持つ母の方が何倍も生き生きとしているように見えてしまう。
俺は日付を見て、それから始業式の日をカレンダーで見て、そろそろ宿題をしなきゃなと思って数学のワークを取り出し問題を解く。sinΘ・cosθ・tanθの最後の1問を解いて答え合わせをしようとして気がついた。答えの冊子がない。しまった。学校に忘れてきてしまった。
MINEで翔馬にでも写メを送ってもらうか?しかし、全ページで50ページくらいはあるだろう。解説が一問一問についているからである。50ページも写真を撮らせるのは何だか躊躇われて、俺は学校に取りに行こうと決意した。
「寒っ…。」
気温は−5℃。雪は降っていないものの、本来は学校に行かなくても良いのに行くというのが、この上なく憂鬱だった。
クリスマスの後の駅は赤や緑などの鮮やかな色を失い、お正月の和風チックな飾りになっていた。後4回寝ると…あ、大みそかの夜は起きてるから3回か。後3回寝ればお正月だ。
駅を出て学校へと黙々と歩いた。歩く人の5割、いや6割はマフラーと手袋を付けていた。パーティーの次の日、絵真からMineが来て何かと思ったら、絵真がもらったドロシーのプレゼントは手編みのノンセックスなマフラーと手袋のセットで、
「はぁ〜最高!!羨ましいでしょ? 絶対死んでもあげません!」
とMineで言われたので既読無視をしておいた。ケーキと言いプレゼントと言い、本当に器用だなあと思う。絵真はドロシーから貰ったからといって、5月くらいまで付けてそうな気がする。
そんなことを思っている内に、学校に着いた。校庭にはサッカー部の賑やかな声……は、なかった。がらんとしていて先生すらいなさそうだった。しまった、と思った。もしや、昇降口は開いていないかもしれない。
仕方なく、俺は校舎裏の、美術室の扉から入った。遠回りになってしまうが、流石にここに人はいない。だが、入ってから気付いた。これっていわゆる不法侵入では? 万が一見つかったらやばいのでは? しかし、ここまで来て帰りたくないという頑なな面倒くさがり屋の思いで、緊張しつつ足音を殺して薄暗い美術室を通り、1-2の教室に来た。出席番号1番のロッカーから答えを取り出した。その時、階段を降りてくる音が聞こえた。やばい。そう直感して思わず教卓に隠れる。
コツ、コツ、コツ………
やがて、足音は遠のき、どこかへ行ったようだった。安堵して立ち上がろうとしたとき、床に落ちていた古びたボールペンを見つけた。 木月、と書いてあった。珍しい名字だな。
にしても、さっきのは誰だったんだろう。止まない心臓の音に、俺は少し意気地無さを感じつつ、学校を出て、そのまま帰り家についた。




