和也視点:報告
和也「ハッ、最後までうざってぇやつだったな。見苦しったらありゃあしねぇ」
百合「ほんとよね。しかも和也を殺すですって?思わず笑っちゃったわよ。《作成師》風情が《英雄》である和也に勝てるわけないのにねー」
天宮絆がトラップで転移させられた後、和也と百合は悪びれるどころか天宮絆が死んで当たり前かのように振舞っている。
香織「ふざけたこと言っとるんやないよ!アンタら自分が何したか分かっとるんか、人殺しやよ!?」
羽夏「そうです!ダンジョンのトラップを使用し、故意に人を殺める事はギルドで正式に禁止されています。この事はギルドに報告させて貰います!」
西山姉妹が声を荒らげ、そう和也と百合に告げる。
実の所、西山姉妹は天宮絆に少なからず好意を寄せており、まだ死んだ訳では無いがもう二度と絆に会えないことにかなりショックを受けている。
そのため、人見知りで普段あまり喋らない羽夏までも姉と一緒に怒っている。
そんな姉妹に無情な事実が告げられる。
「あ?ああ、お前らは知らないもんな。言っとくがギルドに言っても無駄だぜ?ギルド側も絆がいるせいで《英雄》の俺様のパーティランクがEからなかなか上がらず、鬱陶しがってたからな。簡単に買収できた上に《聖女》までくれるってんだぜ?」
衝撃の事実に姉妹は唖然とした。
それもそうだろう。ハンターギルド職員がそこまで腐ってるとは思いもしていなかったからだ。
和也は上機嫌に続ける。
「それと俺様のパーティを抜けようとしてもむだだからな。《英雄》のジョブ持ちは気に入った人をパーティメンバーに留めておける権限があるんだよな。だからお前たちが辞めたいって言っても俺が許可しなきゃお前たちはパーティを抜けることも出来ないんだよ。まあ別に抜けさせてやってもいいんだぜ?ただし、追放と言う形にさせてもらうけどな。」
さっきは抜けられないと言っていたのに、今度は追放と言う形でもパーティを抜けてもいいと言われ、疑問に思い香織が問う。
「さっきは抜けさせんと言っとったけど今度は抜けさせるって何がしたいんよ」
「きまってるだろ、《英雄》パーティから追放されるって事は足でまといって言ってるようなもんだよ。つまりな、お前らが俺様のパーティを抜けたら今後、ギルド内では雑魚探索者扱いされてパーティも組めず、まともなダンジョン探索は出来なくなるって事だよ」
「なっ···」
仇討ちしか考えてなかった香織たちは、和也のパーティを抜けたらまともなダンジョン探索が出来なくなるなんて考えが回らず、絶句する。
「気が済んだか?それじゃあギルドに報告しに行くから口裏合わせろよ。転移トラップ見学中に魔物が襲ってきて絆だけがトラップに押し倒されたって事にするからな。ま、ホントの事言いたきゃ言えばいいさ。その代わり、お前らのくだらねぇ仇討ちも出来なくなるけどな。それが嫌なら素直に従っとけばいいんだよ」
「っ!」
香織としては仇討ちが叶わなくても構わないと思っているが、ハンターとして稼げなくなると生きて行けなくなるため、事実を言いたくても言えなくなっている。
なぜなら香織たちは中学を卒業してからハンターギルドに登録したため、高校を卒業した訳では無いからだ。
昔なら中卒でも就職できたが、今は最低でも高卒でないとまともな職場には雇って貰えないからだ。
もちろん中卒でも雇ってくれる職場はあるが、そういうのは自身の体を売るような職業がほとんどのため、香織としてはそんな職には就きたくない。
羽夏も同じ思いのため何も反論できず、そのままダンジョンを撤退して行った。
戻ってくる途中に口裏を合わせ、ギルドまで戻ってきて和也が報告のため受付に向かう。
「よぉ浜岸、例のことで報告があるんだ。絆が後ろから襲ってきた魔物のせいで例の転移トラップにかかっちまった。だから俺様のパーティから除名と《聖女》の件、進めておいてくれ」
「ああ、分かった。しっかし、ようやくあの足でまといの寄生野郎がいなくなんのか。俺の担当のパーティで更に《英雄》のお前のパーティが今までEランクだったから俺のサポートがだめなんじゃないかって上からグチグチ言われてウザかったから清々しいぜ」
「おいおい、そんな愚痴っていいのかよ。ま、いいけどさっきの件頼むぜ」
「りょーかい。八賀さーん、ちょっと来て貰えますかー?」
浜岸が八賀という人を呼ぶと受付の奥から左腕がない30代後半はどの男が現れる。
近づいてきて左目も潰れてる事に気づいた。
「なんだー浜岸、こう見えて俺も忙しいんだが?片腕しかないからなかんか書類仕事が片ずかねぇんだよ」
「八賀さんが引っかかった転移トラップに銅堂のパーティに所属していたメンバーが1人かかったってことです」
「はあ!?」
「ちょっ!声が大きいです。もっと下げてくださいよ」
「お、おう、わりぃな。しっかし、こんなことになるんだったらあの事もちゃんと言っとけばよかったな。」
「あの事ってなんですか?」
「ああ、俺が飛ばされた後に脱出するためそのエリアを魔物から逃げながら探索してたんだよ。何故かバレットが効かない魔物だったからひっしだったさ。で、しばらく彷徨ってたらどこからか女の歌声が聴こえてきてその方に魔物の気配がなくてな、それでそっちに向かってったんだ。んで、その方向に向かった途端、魔物と遭遇しなくなって気が緩んでたせいでとある魔物の不意打ちをくらって今のこの姿よ」
「へー、そうだったんすか。でもそれを知ってたところで転移させられたのは最弱《作成師》なんで結局生き残れませんよ」
「あーマジか、それじゃあ生存は絶望的だなぁ。こんな事になるんならさっさとトラップエリアを封鎖しとけば良かったな。つーかサブマス権限で今すぐやるか」
「いや、ダンジョン関係のをすぐさま決めないで下さいよ。それにサブマス権限だけじゃ決定出来ませんから」
まともな人物が出てきて浜岸を買収したことがバレないかヒヤヒヤしていた和也は、何事もなく絆のパーティ脱退が済み一息ついた。