青梅ダンジョン第二階層
青梅ダンジョンの第二階層は、今までアタックしたどのダンジョンよりも過酷と言えた。
転移石の部屋から出るなり狭い空間の中、天井と左右の壁、三方向から三体のローパーに襲われたのだ。
壁に張り付くローパーが触手を伸ばしてモカを牽制する。とにかく窮屈で、溜めが必要なブレスを吐く隙も空間もない。
「鮒田! 気をつけろ! 剣で斬って分裂されると終わりだ!」
「分かっている!!」
ゴ治郎と武蔵が剣を諦めて格闘で挑むもリーチが違う。手数が違う。何せ向こうは何本もの触手を叩きつけてくるのだ。
「水野センパイ! まずくないですか?」
ナンナの声からは焦りを感じる。
視界の先は完全に乱戦状態。三体とも相手の攻撃を躱すのが精一杯で、全くダメージを与えられていない。
何か突破口はないのか? これが続くようなら流石に厳しい。一度召喚を解除するか──。
ウォン!!
ゴ治郎の聴覚が拾ったのは焦るモカの鳴き声。対峙するローパーの触手を躱しながら一瞥すると──。
「増援だと!?」
通路の先、天井を意外な速度で近づいてくるローパーが二体! 流石に不味い……。五体を相手するのは無理だ。
スルスルと寄ってきた増援はモカに狙いを定めたようで、夥しい本数の触手が襲い掛かる。
これは……躱せない……!
モカの脚や胴体におどろおどろしい触手が次々と巻き付く。
「ナンナ! 召喚解除を!」
「は、はい! モカ……戻っ……」
ゴ治郎の視界に映るモカは未だ召喚を解除されない。ナンナは何をしているんだ?
「ナンナ! どうした!!」
鮒田の声がテント内に響く。ゴ治郎との視界の共有を解いて見ると、アウトドアチェアの上で意識を失っているナンナ。
揺さぶっているが、目を覚ます気配はない。一体、何が起きている……?
視界をダンジョンに戻すと、相変わらずローパーに対してゴ治郎と武蔵は防戦一方。そして触手に捕まったモカはナンナと同じようにグッタリと気絶をしているように見える。
「連れて行かれる!!」
焦りを含んだ鮒田の怒声。三体のローパーが触手でモカの巨大を持ち上げ、スルスルとダンジョンの奥に進んでいく。
ナンナは目を覚さない。召喚解除が出来るのは召喚した本人だけ。
不味い。非常に不味い。
最悪、モカを失ってしまうことになるかもしれない……。
「武蔵! 魔剣に全力で力を注げ!!」
「ブイッ!!」
武蔵の持つ長剣が蒼い光に覆われる。
「潰せぇぇぇぇぇぇ!!」
「ブィィィィィィィ!!」
──ドバンッ!! と武蔵の持つ長剣の腹がローパーを叩き潰す。分裂する間もなくそのまま煙になった。
武蔵は止まらない。
ゴ治郎の相手していたローパーに飛び掛かり、大上段からまた剣の腹で叩く。潰す。
「……ふぅ……ふぅ」
「……ブィ……ブィ」
鮒田と武蔵の息が上がっている。かなり消耗したようだ。
地面に転がった大きな魔石を忌々しそうに拾い、武蔵が口に放り込んだ。
どれだけの時間が残されているか分からない。モカも心配だが、意識を失ったままのナンナも気になる。
チラリ、テントに視界を戻すと、いつもは傍若無人に振る舞う鮒田の顔に焦りが浮かんでいた。
「晴臣、モカを追うぞ!」
「分かった。急ごう」
ゴ治郎と武蔵がローパー達を追ってダンジョンを走り始めた。





