取引
「ふん。ゴ治郎もか」
「……というと、武蔵もなのか?」
「そうだ。武蔵を虜にするとはとんでもない召喚モンスターだ」
バイト上り。SMCのスタッフルームで鮒田と話していると、例のサキュバスの話になった。
「いや、武蔵は割と女に弱そうだけど」
「そんなことはない! 武蔵は男女平等に殴るタイプだ」
サモナーズ・フィールドでラミアをぶん殴っていたシーンを思い出し、なるほど。
「とは言え、武蔵の初恋だからな。俺様も全力で応援している。もう有料メンバーにもなっているぞ!」
「有料メンバー?」
「ふははは! 出遅れているぞ、晴臣!! あのサキュバスはYoutoberとしても活動を始めたのだ! 有料メンバーに登録すればライブの情報がゲット出来る!!」
慌ててスマホで調べると確かにサキュバスのチャンネルが出てくる。
「サキュバス・メグちゃん?」
「そうだ! チャンネルが出来たのは3日前だが、もう既に登録者が50万人を超えているのだ!!」
「……そんなに人気なのか?」
「あのソシャゲの広告がバズったからな! もうライブのチケットは難しいかもしれんぞ!! どうする、晴臣!?」
クソ! 煽りやがって! 俺だってゴ治郎のために有料メンバーにぐらいなってやる!! 今まで一度も押したことのなかった"メンバーになる"のボタンをタップする。
「おぉ、メンバー限定の動画だ……」
「その動画の概要にライブ告知のリンクが貼ってあるのだ! そこからチケットを予約できる!!」
新しいタブにはライブ告知が表示された。どうやら新宿の有名なライブハウスでメグちゃんは歌うらしい。しかし──。
「ソールドアウト……」
「ふはははは!! 遅かったな!!」
「……」
「ゴ治郎は残念がるだろうなぁ。晴臣」
メグちゃんを眺めるゴ治郎の綻んだ顔を思い出す。今まで戦いだけに身を投じてきたゴ治郎が初めて見せた表情。なんとかしてやりたい。
「しかーし、 晴臣! 俺様は! メグちゃんのライブのチケットを何枚もゲットしている!!」
「……本当か!? 譲って──」
「甘い!!」
ピシャリと鮒田が言い放った。
「チケットは俺が苦労してゲットしたものだ! 分かるだろ?」
回りくどい言い方しやがって!
「……なんだ?」
「実は困ったことがあってな。もし相談にのってくれるなら──」
「分かった! 何があったか知らないが俺に出来ることはする!!」
「よし!! 流石は晴臣だ。ちょうどいい時間だし早速現場に行こう」
……現場? 何か事件でもあったのか? 関わってはいけないものに関わろうとしているのではないだろうか。スッと立ち上がった鮒田の背中に不穏なものを感じながらも、俺は後に続いた。





