試合の行方
「武蔵! よくやった!!」
ハーピーをぶっ飛ばし、自分も倒れてしまった武蔵に声を送る。隣を見ると鮒田が顔に玉の汗をかいていた。
「鮒田、どれぐらいで武蔵は起き上がれる!?」
「……視界がグラグラだ。立ち上がるまではもう少しかかる。ゴ治郎はどうだ?」
「まだ影の中だ。視界は安定したが、どちらが敵陣かまるでわからない」
ナンナは……駄目だな。床にしゃがみ込んでいる。ただでさえオルトロスの2つの視界を共有するのはキツいのに、あのハーピーの攻撃をモロに食らったんだ。
「案ずるな、晴臣! 武蔵が復活すれば俺達の勝ちだ!! この薄汚れた鳥女と蛇女から魔石を奪ってやる!!」
鮒田が煽るとスーパー・サモン・シスターズの雰囲気が変わった。リーダーの六車凛がキッとこちらを睨みつけてから何かを呟くと──。
ワッ! と歓声があがり、コロッセオから影がなくなる。そして、ゴ治郎の視界の端に実体化したヴァンプの姿が見えた。
「ナンナ! 来るぞ!!」
「えっ」
フラフラと頼りないオルトロスの背後にヴァンプが現れ、スッと影に溶け込む。
「下だ! 飛べ!!」
「モカ!!」
驚いたオルトロス──モカ──が飛び上がるが、もう遅い。影から伸びた手が魔石のついたネックレスを掴み取る。
ォォオオオ!!
「段田選手、退場!」
立会人が声を張り、ナンナが項垂れる。ヴァンプ──名前はシシーだったか──はネックレスを手で弄んでニヤニヤしている。ふん、大した余裕だな。だが、忘れてないか? この試合はポイント制。お前達はまだ50ポイントを手にしただけってことを。
「ゴ治郎、走れ! 石碑を狙うんだ!!」
「ギギッ!」
ダンッ! と地面を踏み付けてその力を推進力に変える。森の木を縫うように細かく方向転換しながら前へ前へ。
モニターには悩む六車の表情が映され、実況ががなり立てる。ゴ治郎を追って得られるのは最大50ポイント。武蔵と石碑を狙えば最大150ポイント。しかし、武蔵までは距離が遠い。残り時間は3分もない。
ォォオオオ!!
「ヘム選手、退場!」
四つん這いでラミアに襲いかかった武蔵がネックレスを奪った! なんという執念!! これでポイントは並んだ!! 中指を立てて悔しがるヘムを無視して、鮒田はハーピーに狙いをつける。
そしてシシーが動いた。影から影へ転移するようにしてゴ治郎を追いかけ始める。しかし、追いかけっこはこちらの領分なんだよ。
ゴ治郎は付き纏う影を避けながらどんどん石碑に近づいていく。観客はここをクライマックスと認識して大盛り上がりだ。せいぜい楽しんでくれ。
「避けろ!」
「ギギッ!」
シシーの体から何本もの黒い槍が伸び、ゴ治郎の脇を掠める。影転移しながら更に大技。六車を見ると辛そうな表情でやっと立っている状態だ。召喚モンスターのスペックに召喚者側がついていけてないようだな。
「ゴ治郎、飛べ!!」
「ギギッギ!!」
ゴ治郎が両足で踏み切り、大きく跳躍する。黒い槍が追い縋るが、それはどんどん細くなりもはや力はない。そして石碑が視界に入る。
ドンッ! と石碑に着地するとその勢いのまま倒してしまった。
「ゴ治郎、魔石だ!!」
「ギギッギ!!」
ゴ治郎が石碑から魔石を外し、天に掲げる。力尽きたのかシシーの姿はない。そして、そろそろ時間だ。
カンカンカンカンッ! と乾いた音が響き渡る。
「試合終了!! 150対50。勝者、SMCオールスターズ!!」
終わらない歓声にただ立ち尽くした。





