結果発表ぉぉぉ!!
あけおめ!
試験結果が表示される電光掲示板をぼんやりと見つめながら、随分とくたびれたロビーチェアに腰を下ろす。もうクッションが駄目になっているようで、抵抗なく身体が座面に埋まってしまった。
あまりの空腹にリュックからSMC特製のハイカロリープロテインバーを取り出し、人目も憚らずボリボリと貪る。ペットボトルのホットコーヒーで流し込むと、やっと身体が落ち着いた。
はぁ。やってしまった。
間に合うと思ったんだけどな。まさか、カップ麺方式の宝箱があるとは思わなかった。
「おい、セイコ! M氏の顔を見てみろ。駄目だったみたいだぞ!!」
顔を上げると試験前に絡んできた高校生カップルがいた。男の子の方は何故か得意気だ。女の子が腕を引っ張り、諌めているがお構いなし。
「有名な召喚者って聞いてたけど、大したことないな! あんな簡単な試験も突破出来ないなんて!」
好きに言えばいい。俺はもうクタクタだ。この男に伝えることは何もないし、なんなら口を開くのも億劫だ。
「おいおい、高校生に馬鹿にされて悔しくないのか!? 情けない──」
「うるさいわね!!」
えっ。背後から急に女の声が飛ぶ。
「糞ガキが事情も知らないのにグダグダ言ってるんじゃないわよ!! 調子に乗って彼女の前で意気がってるけど、そーいうの全然カッコ良くないし、自分の株を下げてるだけだから!! ねえ、彼女さん?」
振り返るとそこに居たのは、実技試験で俺の後を付いて来た女の子だ。高校生カップルの男の子の方は何も言えなくなり、女の子に腕を引かれて遠ざかっていく。
「……どうも」
「さっきはありがとう! あなたでしょ? ダンジョンで私を案内してくれたの」
何でもないことのように、女の子は俺の隣に腰を下ろした。あまりに自然な仕草にすっと受け入れる。
「えっ、なんでわかったんですか?」
「そりゃ、わかるでしょ! 宝箱の中身を回収出来なかったの、あなただけだったもん」
はい。その通りです。私以外は皆、無事に宝箱の中身を回収してました。
「ごめんね。私が付いて行かなければ、簡単に合格出来たのに。私、テンパっちゃって……」
女の子は申し訳なさそうに、眉尻を下げる。
「気にしないで下さい。ただの気まぐれです。また受験すればいいだけなので」
「じゃ、私が受験料を払うわ!」
お、おう。結構グイグイくるな。本当に気にしてないのに。
「はははは。大丈夫です。しっかりバイトで稼いでいるので」
「そうなんだ。偉いね! 実は私もバイトを始めようと思って召喚免許を取りに来たのよね」
召喚免許のいるバイト? なんだろうな。
「ウチ、お父さんがプライベートダンジョンを経営してて」
「あー、なるほど。それなら召喚免許はあった方がいいかも。でも、実家がプライベートダンジョンなのに、召喚石を持ってないんですね?」
「あはは、実はつい最近まで両親が別居してたのよねー。私は母親の方に居たから」
女の子はあっけらかんと笑いながら話す。これは、地雷を踏み抜いてしまったのか? 大丈夫か、俺!?
「それにダンジョンだけじゃなくて、召喚モンスターの闘技場みたいなのもやってるらしくて」
……。
「つかぬことをお聞きしますが……」
「えっ、なに? どうしたの?」
俺の雰囲気が変わったことに警戒し、女の子は眉間に皺を寄せる。
「苗字は段田ではないですか?」
「なんで分かるの!?」
「召喚モンスターの闘技場、俺はそこでバイトして──」
俺の声を掻き消すようにワッと歓声が上がった。電光掲示板に合格者の受験番号が表示されたのだ。段田さんの娘さん? も勢いよく立ち上がり、番号を探し始める。
「やった! あった!」
胸の前で手を握って、嬉しそうに声を上げている。うむ。かわいい。段田さんには似てないから、母親似なのだろう。かわいい。
「ありがとう! あなたのおかげよ!」
段田さんの娘さんは少し瞳を潤ませる。
「うーん、違うと思いますよ? 段田さん、途中からちゃんとコボルトと感覚の共有出来ていたじゃないですか。指示も届いていたし」
「その辺もあなたのおかげ!」
「あっ、はい」
「ところで、さっき言いかけてたけど闘技場で──」
掲示板にある数字を見つけて思わず立ち上がってしまった。言葉が耳に入らない。
「どうしたの?」
「ありました!」
「えっ?」
「俺も合格してました!!」
「おめでとう!!」
変なテンションでハイタッチを交わしてから、受験票を見直す。大丈夫だ。合格している。そして改めて──。
「段田オーナーにはお世話になってます。水野といいます」
自己紹介をするのだった。





