その先
やっぱりそうですよね!
さらに四叉路、五叉路を進んだ先でようやく見つけた宝箱は当然のように一つだった。壁には分かりやすく宝箱の開け方が書いてある。蓋を3回叩くと開くらしい。
チラリ、視界を戻して試験会場内をみると、女の子は困った顔をしている。それはそうだ。結局、宝箱は一つしかない。それを自分達が開けてしまうほどの図々しさは持ち合わせていないのだろう。
時計を見ると、あと10分ある。
さて、どうするか。全力で広間まで戻って誰も入っていないルートを進めばなんとかなる気がする。寝覚めの悪いのは嫌だ。別に今日がダメでもまた受験すればいい。
「どうぞ!」
「ウォン!」
俺が召喚したコボルトは、サッと身を引いて女の子のコボルトに宝箱を開けるように促した。別に下心とかではない。そもそも、女の子は誰が召喚したコボルトに付いて行ったのすら分かってないだろう。これは完全に俺の自己満足だ。
女の子のコボルトは戸惑いながらも宝箱の前に進んだ。そして壁に書いてある通りに蓋を3回叩く。もうちゃんと指示も出せるようになったらしい。なかなか成長が早い。
ピンポンピンポンピンポン!
人を馬鹿にしたような音が宝箱から鳴り響き、パカんと蓋が開いた。何が入っているか確認したい気持ちもあったが、そろそろ急いで広間に戻らないとまずい。まだ俺は諦めたわけではないのだ。
「じゃ!」
「ウォン!」
さあ、急げ! 驚いたリアクションを取る女の子のコボルトを残し、俺達は全速力で来た道を戻り始めた。
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苦しい。
コボルトに無理をさせたせいで俺のエネルギーの消耗が激しく、空腹と虚脱感でフラついてきた。基本能力の低いモンスターから限界以上の力を引き出そうとすると、召喚者が吸われるエネルギーは通常時の比ではないようだ。
それでも俺のコボルトは足を止めることはない。執念を練り込んで進め、進めと指示を出す。朦朧としてきて、ここが通常のダンジョンのように感じられる。その角を曲がると敵が襲ってくるのではないか? ふとそんな思いがよぎり、足が止まりそうになる。しかし、そんなわけないだろ。さあ、急げ!
やった! あった!
視界に入ってきたのは先程と同じような宝箱。壁には宝箱の開け方が描かれて──。
「お湯をかけて3分待つだと!?」
ふざけやがって!! もう残り時間は2分を切っている。宝箱の隣に置かれたポットを睨みつけるが、もうどうしようもない。
「とりあえずお湯をかけて!」
「ウォン!」
コボルトは器用にポットを持ってお湯を宝箱にかける。これ、3分待つ必要なんて絶対ないだろ! 気まぐれで試験内容を決めやがって!
悶々とした気持ちで立ち尽くす。宝箱はきっちり3分経たないと開かないようで人工ダンジョンの中はしんとして──。
「はーい! 試験終了でーす!!」
試験官の声が響いた。





