……
「晴臣! 久しぶりだな! 探したぞ!」
やはり来たか。学食の端っこでひっそりと食べていたにもかかわらず、鮒田は目敏かった。おかずで山盛りになったトレイをドンとテーブルに置き、当然のように対面に座る。
「新年早々、鮒田か」
「ふはははは! 当たり前のことを言うな! このような豪傑が俺以外、この大学にいるわけないだろ!?」
しかし、こいつ食い意地張り過ぎだろ。4人前ぐらいあるぞ。おかずが。
「それ、全部食べるのか?」
「足りないぐらいだ! なにしろ、増えたからな!」
増えた? 何のことだ? そう思っていると鮒田はわざとらしく手を胸の前でクロスさせた。その両手にはそれぞれ召喚石のついた指輪が──。
「召喚石が増えた?」
「その通りいいい!!」
「……うるさい」
「今年の鮒田武はデュアルサモナーとして名を馳せる!!」
「……うるさい」
「ふははは!! その嫉妬、心地よいぞ!!」
「うっせえ!!」
一斉に視線が集まったのを感じる。こいつといると碌なことがない。
「その召喚石、買ったのか?」
「勿論だとも!」
だろうなぁ。
「晴臣はまだ召喚石一つで燻っているのか? もう世界は次のステージへ進んでいるというのに」
「俺は一つで充分なんだよ。それに、2体同時に召喚なんて出来ないだろ?」
「晴臣のようなモブキャラには無理だろうな!」
「……ほう。見せてみろ」
「よかろう。食事が終わったらな」
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もう使われていない古い講堂の鍵を開け、鮒田は当たり前のように入っていく。それに続くと中はひんやりとして、鳥肌を誘った。
鮒田は教卓について大見得を切る。
「晴臣、お前は幸せものだ! デュアルサモナー誕生の瞬間に立ち会えるなんて」
「御託はいい。早くやれ」
「言われなくとも、召喚してやろう」
鮒田はフーッと息を吐いて構えてから2つの指輪を教卓に置いた。そしてババっと腕を動かして血の滴る指を召喚石に押し当てる。
「出でよ! 武蔵、十兵衛!!」
十兵衛? 剣豪シリーズか。眩い光が召喚石から放たれ、そこに現れたのはハイオークとオーク。鮒田を含めてまるで三兄弟のようだ。
「お前、オーク好きだな」
「……お、オークは可愛いからな」
鮒田の様子がおかしい。教卓に手をついて、青い顔をしている。これは、今まで散々やられた仕返しのチャンス?
「そうか。せっかくのデュアルサモナーの誕生だが随分と辛そうだぞ」
「……う、うう」
ガタッと音を立てて鮒田の身体が沈んだ。武蔵と十兵衛が心配して教卓の端まで走る。
「おい、デュアルサモナー。どうした? まさか、2体同時に召喚したのは初めてだったのか?」
「……俺は本番に強い男、鮒田武だ……」
いや、どう考えても失敗だろ。
「さっさと召喚を解除したらどうだ?」
「……お、俺は負けん」
何と戦っているんだ。こいつは。
「……俺はデュアルサモナーにな──」
糸が切れたように鮒田は崩れ落ちた。教卓の上では召喚解除された2体のモンスターが召喚石に戻る。
「これ、俺が面倒見るのか……」
新年早々の面倒事に頭を抱えるのだった。





