お土産と
「さて、八乙女さん。軽いお土産と重いお土産。どちらがいいですか?」
八乙女さんの家に招かれたからにはお土産を渡さないわけにはいかない。テーブルに出されたお茶を一口啜った後、俺はそう切り出した。
「えっ! 軽いお土産と重いお土産? どちらかを選ぶの?」
「はい。選んでください」
眉間に皺を寄せて唸る八乙女さんは可愛い。いつも通り全身黒で統一されたクールな印象が困り顔一つでガラッと変わる。
「重いお土産って……まさか、ちょっとそれは……」
一体何を想像しているんだ?
「……私もいい歳だもんね。いいわ。水野君、重い方を出してちょうだい」
急に神妙な顔つきになった八乙女さんは重い方を選んだ。ちっ、羽飾りの帽子を押し付けようと思ったのに……。リュックから山咲18年を取り出してテーブルにドンと置く。
「……山咲の18年」
おお。流石に驚いているな。ポカンとしている。
「……重いお土産ってこれのこと?」
うん? なんだか雲行きが怪しい。封が開いてるのが気に障ったかな?
「あっ、はい。実家からもらってきたんです。一緒に飲めたら楽しいかなって」
「……そうね。飲みましょう」
おかしい。顔が怖いぞ。
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「水野くんはさぁー」
八乙女さん、結構酔っ払ってる。
「私が一人でこの家に住んでて、一人で年末年始を過ごしてたこと知ってるわけよね?」
「あっ、はい」
「久しぶりに会ったんだからさ、もうちょっとなんかあってもいいんじゃない?」
完全に絡まれてる! これは話題を変えないと!
「あっ! そういえばなんで八乙女さんは召喚免許制のことを知ってるんですか? ニュースとか見ても別にやってないのに」
「それはね、リド──」
テーブルの上に小さなトカゲが現れる。八乙女さんの召喚モンスター、ファントムリザードのリドだ。
「ずっと召喚していたんですか?」
「そうよ。ちょっと年末年始に食べ過ぎちゃったから、ダイエット中なの」
女性召喚者の間では召喚ダイエットが一般化しているようだ。これは新たな召喚石の需要に繋がるな。
「って、リドに探らせていたんですか? 国の動向を」
「関係者からのリークがリアルダンジョンwikiの方にあってね。それで覗いてみたのよ。お役人が年末年始の休みを返上して方針をつめていたわ」
「なるほど」
八乙女さんはクイッと飲み干したロックグラスに向かってボトルを傾け、山咲18年はどんどん減っていく。これ、15万ぐらいするんだっけ?
「気をつけないとよー」
「えっ、俺ですか?」
「ゴ治郎の方。モン検の話、ジョーダンじゃないからね。レアなモンスターはしっかりチェックされると思った方がいいわよ」
「それならリドも気を付けないと」
「ふふふ。リドは登録しないわよ。ヤバすぎだもん」
まぁ、そうだよな。姿を消せるモンスターの価値は計り知れない。
「登録してないモンスターを召喚したら罰則ですかね?」
「そうなるでしょうね。よほどやましいことがない限り、登録する方が無難よ」
よほどやましいことをしている八乙女さんがさらりと言う。
「ゴ治郎は眼のことを知られないようにね」
「ですね」
「じゃ、今度は水野君が実家で起こったことを話してちょうだい」
そう言われて、俺は年末年始のバタバタについて話し始めた。話を聞く八乙女さんの顔がすぐに優しいものになったのは幸いだ。





