新年
「ハルくん!! どうしたらいい!?」
俺に聞かれても困る! 俺だって焦っている!
「何が起こったの!?」
分からない。分からないけど考えられるのは──。
「蕎麦アレルギーじゃねーの?」
ぼんやりとした顔で呟く父親の意見は無視出来ない。
コタツの上でひっくり返って痙攣しているのはゴ治郎とゴブ太。日付が変わって早々こんなことになるとは……。
「きゅ、救急車呼ばないと!」
「母さん、落ち着いて。ゴブリンを病院に連れて行っても診てくれないよ」
「どっちかっていうと動物病院じゃねーの?」
父親は呑気なものだ。まだ酔っ払っているのか?
「ここは一旦、召喚を解除した方がいいかも」
「えっ、そうなの? ゴブ太、戻って!」
ゴ治郎とゴブ太は召喚石に戻ったが、その輝きは酷く頼りない。ここでやることは一つ。ガッと指を噛んで、血が滴るまま召喚石に押しつける。
「母さんも召喚石に力をあげた方がいいよ」
一気に力を吸われて視界が暗くなった。いい夢見させてくれよ。
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うるさい。なんだこの地鳴りのような二重奏は。
変な姿勢で寝ていたのか、身体のあちこちが痛い。ふとスマホの画面を見ると1月1日の午前10時過ぎ。随分と寝てしまった。
居間には母親と父親が寝転がり、心配になる程のいびきをかいている。そしてコタツの上には──
「大丈夫そうだな」
いつも通りに輝く召喚石が2つ。危機は脱したようだ。
「母さん、起きて。もう朝だよ」
「……ううん? ハルくん?」
「もう、10時過ぎてる」
「えっ! ゴミ出し!」
「元旦だから、ゴミ出しはないよ」
明らかにホッとした表情の母親が身体を起こしてコタツの上を見る。
「ゴブ太! 大丈夫なん?」
「たぶん大丈夫。光り方が普通だから」
「……本当よ。いつものゴブ太だわ。もう、召喚してもいいの?」
「うーん、今日一日ぐらいは休ませてあげたら? 元旦だし」
「それもそうねぇ」
立ち上がった母親は台所に向かい、コンロに火をつける音がした。これからお雑煮でも作るのだろうが、今度は餅を喉に詰まらせてもまずい。召喚はおやすみするように誘導した。
「ハルくん、お餅いくつ?」
「5つかなぁ」
「そんなに食べるの!?」
「だってお腹空いたから」
召喚石に力を吸われたせいで腹ペコだ。お雑煮の餅はいくつあってもいい。
「そろそろお父さんを起こしてくれる?」
未だに眠りこける父親を起こすように指令が下った。とりあえず身体を揺するが効果はない。
「駄目。起きないよ」
「こーいう時は、これよ。お父さん! 駅伝始まってるよ!」
「えっ!!」
お盆を持ってやって来た母親の声に、父親がガバっと起きてテレビをつける。
「なんだ。ニューイヤーの方か。箱根かと思ったじゃねーか」
箱根は明日だ。
「さっ、食べて食べて。ハルくんはスマホ触らないの」
「ごめんごめん。ちょっと報告してた」
八乙女さんに急いでlinee──ゴブリンは蕎麦アレルギー持ちの恐れあり──を送って、新年は本格的に動き始めた。
すません! 急に短納期の仕事が入ってしまってバタバタしてます!





