帰省
夏休みから年末までは怒涛の日々だった。
実家の裏庭でダンジョンを見つけ、召喚石を手に入れてダンジョンアタックを開始。東京に戻ってからも様々なモンスターと闘う日々を送る。生まれ持っての巻き込まれ体質のせいで、俺はダンジョン界隈でM氏として少し名の知られた召喚者になってしまった。全て鮒田が悪い。
ふと新幹線の窓から外を見ると、白に覆われた風景がサラサラと流れていく。東京で雪を見ることはなかったが、西日本は天気が崩れるという予報の通りになっているようだ。
実家に戻ったら何をしよう。やはりダンジョンアタックか? 地元の友達の中にも召喚石を持つ奴も出て来た。口の堅いやつになら実家の裏庭ダンジョンを教えてもいいかもな。一緒にダンジョンに潜るのも面白い。
手持ち無沙汰になってスマホでリアルダンジョンwikiを見る。完全なルーティンで1日1回は必ず開き、新着情報を確認するのだ。
ふむ。新しいプライベートダンジョンの情報か。八乙女さんもマメだな。〇〇県でゴブリン系のモンスターが出るプライベートダンジョンがオープン。詳細を開くと営業時間と料金、住所が──。
「ウチじゃん!!」
隣のおじさんが驚いてこちらを見た。
「……すみません」
でも、俺の気持ちも分かってほしい! だって実家の裏庭ダンジョンが、俺が秘匿していたあの裏庭ダンジョンが世界に向けてオープンしていたのだ!
一瞬、八乙女さんにlineeしようと思ったが今更だと思い直した。リアルダンジョンwikiで表示しなくなったとしても他のサイトで公開されている。もう遅いのだ。
しかし、ウチの両親がダンジョンをオープンさせてしまうとは……。ほとんど元手がいらないとはいえ思い切ったものだ。
新幹線が遅く感じる。早く、実家に行って裏庭ダンジョンの状況を確認せねば……。気ばかり焦る。
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「なんだこりゃ」
"水野ダンジョンパークへようこそ"の看板を見てクラクラしてきた。パークとはなんだ! パークとは!
とりあえずインターホンを鳴らす。
昔から変わらない間の抜けた音が響く。そして──。
「いらっしゃいませーって、ハル君かね! 予約のお客さんかと思ったわ」
訳の分からない民族衣装のようなものを着た母親が玄関から現れた。
「……母さん。何をしてんの?」
「ハル君。営業時間中は園長なんよね」
パークだからか!?
「とりあえず話を聞かせてもらっていい?」
「そんなに怖い顔しないでよー。お母さん、頑張ってるのよ?」
園長はどこに行った!?





