鬼が笑われる
すっごい雨
"なんだよ、鬼こねーじゃん!"
"SMCめっちゃ混んでる! 今日はこのままオーガ来ない?"
"ゴブリンにビビるオーガwww"
"やっぱり召喚モンスターに犯罪させるような奴はしょっぱい"
"笑う鬼、見てるー??"
"こんだけ煽られて出てこないってwww"
"ダサい通り越して可哀想になってきたw鬼w"
「クソッ! 好き放題書き込みやがって! ゴブリンなんかにビビるわけないだろっ!」
むしゃくしゃしてスマホを投げつけたくなるのをグッと我慢した。どいつもこいつも全く分かってない!
「タクヤ、ダサい」
「ナニ!?」
聖子が紙タバコの煙を吹きかけてくる。
「だって、やられっぱなしじゃん」
「誰が! いつ! やられたって!?」
「現在進行形でボロクソじゃん。Twittorでも掲示板でも。せっかくさー、"笑う鬼"が噂になってきてたのに」
「"笑う鬼"は急速に広まっている!」
「今は馬鹿にされてるだけじゃん? 自分だって見たでしょ?」
「……」
聖子がソファーから俺が腰掛けるベッドに移り、身を寄せてきた。
「ねぇ、SMCに行って噂のゴブリンをやっつけてよー」
「そんなことをしたら捕まるかも知れないだろ!」
「未成年だから平気だってー。それにさー」
聖子の息が耳にかかる。
「それに?」
「別に悪いことをしたって目立てばいいんだよー。捕まったってさー、目立てば勝ちなの。タクヤはさー、アウトローに憧れてるじゃん? 今の状況ってめちゃくちゃチャンスだと思わない?」
「チャンス?」
「SMCに行ってゴブリンと闘えば、タクヤは一瞬で超有名人になれるの。日本中で話題になるのよ?」
「日本中で話題に……」
「そう。テレビもTwittorも何もかもが"笑う鬼"のことで持ちきり」
「……いや、駄目だ! やっぱりこんなところで捕まるわけにはいかない!」
俺の反応に聖子の表情が冷たくなる。そしてくっついていた柔らかい身体がさっと離れた。
「じゃあ、このままでいいの? 今、ここで逃げたらずっと引きずることになるわよ?」
「……なにか、なにかやり方がある筈だ! ゴブリン野郎がやったように、世間を動かせば……そうだ! 俺も掲示板を使ってやり返す! 奴の薄っぺらい正義に嫌気がさしてる奴等だっている筈だ! そいつらを動かす!」
「あっ、それ面白そう! 頭脳派のアウトローって感じがするー」
「だろ?」
聖子の柔らかい身体が戻ってきた。
「その上で、ゴブリン野郎を打ち負かす! 普通に闘えば俺達が負ける筈はないからな!」
「それでこそタクヤよ」
柔らかい唇が頬に触れ、俺の決意は固まった。見てろよゴブリン野郎。





