ある観察者の失態
眠い! けど明日休みなので!
「ふははははっ!!」
遠慮のない高笑いが庭から聞こえた。あのオークの召喚者でしょう。進化アイテムのドロップに浮かれている様子が手に取るようにわかる。
視界に映るオークはハイオークの牙を手に取り、誇らしげにレッドキャップに見せている。あの召喚者にしてこの召喚モンスターね。
そんなことを思っていると、オークがハイオークの牙を口元に持っていき、俄に全身が発光し始めた。
あり得ない。わざわざダンジョンアタック中に進化アイテムを使うなんて……。当然のごとくオークは倒れ込み、何も出来なくなる。
「やばいやばい!! 武蔵、もどれ!!」
慌てて召喚を解除する声が聞こえる。進化するには召喚者の大量の血液が必要。さっさと家に戻ってもらいたいわ。
レッドキャップの召喚者、水野晴臣が助言したのでしょう。視界の共有を解除して窓から庭を覗くと、オークの召喚者──鮒田だっけ?──がテントから這い出し、おっとり刀で出て行ってしまった。
視界をダンジョンに戻すとレッドキャップが茫然としている。それはそうよね。ランダムダンジョンに一体で残されるなんて……。今日は諦めて帰るしか──。
いや。レッドキャップは次の部屋に向かって歩き始めた。一体、何を考えているの? 弱いモンスターが出ることを期待しているのかしら? ランダムダンジョンは奥の部屋に進むにつれて強いモンスターが出現する可能性が高い。1番目の部屋で星4のハイオークが出た意味をわかってないの?
2番目の部屋に入るや否や、魔法陣が地面に描かれる。かなり大きい。これは、大物が来るわ。
ズドン! と雷の柱が魔法陣に落ち、その姿が露わになる。獅子の頭、山羊の胴、尻尾には蛇。キマイラ。呪うようなうめき声が山羊の頭から漏れ、それを獅子の咆哮がかき消す。今まで見たモンスターの中でもトップレベルの迫力。これは逃げるしか──。
ダンッ! と踏み込む音が部屋に響き、それと同時にキマイラの尻尾が宙に舞った。何が起きたの!? 青白い光がひらめき、蛇が更に3つに分かれた。そして2つの悲鳴が遅れてやって来る。
怒り狂った獅子の口から炎がぐるりと吐き出された。しかし今度は山羊の頭がくるくると中空で回っている。なんなの!? 手品でも見ているのかしら?
獅子が地面を踏み締め、ブンッ! と飛び出すと、また青白い光がそれを叩き落とす。前脚を失ったキマイラが情けなく地面に崩れ、姿を現したレッドキャップがスッと獅子の額に短剣を刺し入れた。
終わり。あまりに呆気ない。キマイラが弱い? まさか、そんな筈はない。見ればわかる。あのレッドキャップが速すぎたのよ。そして、あの短剣の切れ味。
キマイラが煙になった後は見たこともない大きさの魔石が残された。満足気にそれを拾ったレッドキャップはくるりと振り返る。そして、短剣がこちらに向けられた。





