その先
崩れた壁の先は今のところ真っ直ぐな一本道で、オークの武蔵がギリギリ通れるぐらいの幅しかなかった。ゴ治郎の視界はほとんど武蔵の背中だ。
「何か見えるか?」
「しばらく真っ直ぐだが、右に曲がり角が見える! きっと宝物庫だ!」
そのポジティブさが羨ましい。
「慎重に行けよ。モンスターが出なくてもトラップが──」
「ブィィ!?」
「どうした武蔵!?」
言わんこっちゃない。急に視界が開け、蹲る武蔵の背中がある。どうやら早速トラップに引っ掛かったらしい。ゴ治郎が鼻を押さえてあおいでいる。臭気のトラップなのか?
オエオエとえずく武蔵の様子を見て、嗅覚を共有出来なくて本当によかったと仕様に感謝する。
「ゴ治郎が先に行く。ゴ治郎ならトラップを見抜けるかもしれない」
「……分かった。武蔵は涙で前がよく見えない。頼むぞ」
泣いてるのか! それほどの臭いは流石に気になるぞ。
「ゴ治郎。トラップに気をつけろ。光って見えるところがあれば要注意だ」
「ギギッ!」
少し歩くとさっそく壁が光る。
「来るぞ!」
「ギギッギ!」
サッとバックステップで身を引くと、壁から飛び出した数本の矢がゴ治郎の残像を射抜く。もう、壁は光ってない。
「相当厳重だな」
「これは! いよいよ宝物庫!」
いつのまにか立ち直ったのか? ついさっきまでシュンとしていた癖に!
「ガンガンいこうぜ!」
懲りない男だ。
#
幾つものトラップを乗り越えて辿り着いたのは、今までダンジョンでは見たこともないような扉だった。非常に精巧な作りのレリーフが表面にあり、扉だけでも価値があるように思える。
「早く開けよう!」
鮒田が我慢出来ずに声を上げるが、俺だってウズウズしている。
「ゴ治郎、ゆっくり開けるんだ」
「ギギ」
ドアノブを握り、ゆっくりと回す。扉は軋みもせず、スッと開き始める。そして、徐々にその中が──。
「……誰か住んでいたのか?」
思わず声が出てしまった。まさかダンジョンの中でこんなに生活感溢れる空間があるとは。
「……なんだこれは?」
鮒田も首を傾げていることだろう。
例えるなら独身男性の住むアパート。間取りは1K。住人が突然いなくなって10年が経過したような、生々しさと古びた印象が入り混じる空間だ。
「ギギッ」
「剣か」
ゴ治郎の視線が壁に飾られた長剣と短剣に固定された。扉のレリーフと同じ意匠が柄の部分に施されている。
「見事な剣だな」
「ブイイイ」
ざっと見た感じ、使えそうなものは壁の剣しかない。あとはただの生活雑貨だ。
「どうする?」
「当然、いただく!」
鮒田は即答する。
「後で怒られないか?」
「後っていつだ! さんざんモンスターを倒して宝箱を開けてきたのに、今更だろ! 俺はRPGで躊躇なく人の家のタンスを漁るぞ!」
まぁ、そうだよな。住人が居なくなったのは随分と昔だろうし、とりあえず借りるとしよう。
「長剣の方は武蔵がもらっていいか!?」
「ああ。ゴ治郎に長剣は合わない」
武蔵が長剣を手に取り嬉しそうにしている。ゴ治郎もそれに続く。
視界に映る短剣は今まで手に入れたダンジョン産の武器とは明らかにモノが違う。早く実物を見てみたい。
「よし、今日はここまでにしよう」
鮒田も同意し、その日のダンジョンアタックは終了した。





