新しいバイト
あのエキシビションマッチがYoutobeのSMC公式チャンネルで配信されて以降、俺を取り巻く環境は少しだけ変わった。
まず、立会人兼客寄せパンダとしてSMCで雇われることになった。バイト先が一つ増えた感じだ。週末は必ず出勤して欲しいと段田さんに強くお願いされている。SMCがオープンして以降、段田さんは人が変わったようだ。なんだか生き生きしていて、少しだけ強引。
ただ、このバイトには素晴らしい福利厚生がある。なんと週に一回、段田ダンジョンに入ることが出来るのだ! 素晴らしい! 最高! よっ、名オーナー!
正直なところ、自腹でプライベートダンジョンに潜るのはかなり辛い。今までは鮒田の付き添いと言うことでダンジョンに潜っていたが、武蔵は充分に成長した。俺とゴ治郎が同伴する必要はない。これからどうやって入ダン料を稼ごうか悩んでいたところでの段田さんからの提案だった。断れるわけがない。
週に一度の段田ダンジョンだが、一応遠慮して最も人気のない日曜深夜の枠でお願いした。なので月曜日は死んでいる。大学の一コマ90分はちょうどよく眠れるのだ。
そして今日は土曜日。SMCでバイトの日だ。秋葉原の駅前でさっとカレーを平らげて開店前のSMCに行くと、既に段田さんは仕事を始めていた。
「すみません! ギリギリで」
「あぁ、気にしなくて大丈夫ですよ。他のバイトもまだですし」
段田さんは鷹揚に答える。
「今日も忙しくなりそうですか?」
「水野さんのお陰でね」
「ゴ治郎ですよ」
実際、立会人の仕事の合間に対戦を求められることは多い。ゴ治郎を召喚するとスマホで動画を撮る人も居たりする。ちょっとした有名人? なのだ。
「ゴ治郎は凄いですね。SMCでは無敗ですよね?」
「今のところ」
「ずっと気になっていたんですが、ゴ治郎って本当にゴブリンなんですか?」
うーむ。どう答えるか。なんとなく今まで誰にも言ってなかったけれど、絶対に秘密ってわけでもない。
「……元は普通のゴブリンです」
一瞬、段田さんの目付きが鋭くなる。
「今は?」
「ゴ治郎の頭の赤いの、実は帽子じゃないんですよ」
「えっ?」
「あれ、体の一部なんです。ゴ治郎はゴブリンとは別の何か。俺はレッドキャップと呼んでます」
「最近話題になっている、進化ってやつですね?」
「たぶん」
「ということは進化アイテムがドロップしたと?」
「です」
「あとでその時の状況について詳しく教えてもらえませんか? もちろんお礼はします」
「お礼って?」
「来週、段田ダンジョンの深夜枠に一つ空きキャンセルが出たんですよ」
「お話ししましょう」
こうやって情報は拡散していくのである。





