成長
キンッ! と高い音が闘技場に響き渡り、観客が息を飲んだ。ゴ治郎の初撃を武蔵が受け止めた音だ。武蔵は瞬きもせずナイフを押し返し、ゴ治郎は飛び退く。
目にも止まらぬ斬撃と、それをしっかりと受け止める城壁のような姿はこれまでの闘いとは次元が違う。
「行け!!」
「ブイ!」
着地のタイミングを狙って武蔵の巨体がズンッ! と前へ出た。無闇にハンマーを大振りするようなことはない。ゴ治郎の嫌がる所へ的確に撃ち込んでくる。徐々に回転が速くなり、闘技場には暴風が吹き荒れる。
武蔵はどんどん成長している。ダメージはないが防戦一方はまずい。
「流せ!」
「ギッ!」
少しだけ大きくなったハンマーの打ち下ろしを受け流すと、武蔵の体が泳ぎ、すれ違うようにゴ治郎が腹部を斬りつけた。革の鎧に傷は入るが、武蔵の動きを止める程ではない。ゴ治郎も警戒しているのかスッと距離を取った。
息もつかせぬ攻防の後の静寂。それを破ったのは遅れてやってきた観客の大歓声だった。オークの圧倒的な暴力に慄き、疾風の如く動くゴブリンに喝采を浴びせる。悪い気分ではない。
しかし本当に欲しいのは勝利だ。まだまだ武蔵に負けるわけにはいかない。そろそろ仕掛けよう。
「ゴ治郎!」
「ギギッ!」
俺の合図でゴ治郎はナイフを一本、投擲する。そして──。
ダンッ! と足音を残してゴ治郎が消えた。多方向からの攻撃にどう対処する? 武蔵、そして鮒田よ。
「ぶん回せ!!」
「ブイッ!!」
武蔵は正面のナイフを打ち返すように対処するとそのままぐるりと一回転し、背後から迫る殺気に対してハンマーを振るった。しかし、
「またナイフ!!」
そういうことだ。完全に意表を突かれた武蔵は無防備な背中を晒す。土煙と共に現れたゴ治郎に。
ゴ治郎が背後から飛び付き、細長い腕を首に巻き付ければ、如何に武蔵が強く逞しくても窒息は免れない。召喚モンスターとはいえ首を絞められると苦しいのだ。
なんとか振り解こうと暴れるが、それで苦しくなるのは自分。徐々に動きが鈍くなり──。
「……参った」
絞り出すような声が鮒田から発せられた。
「勝者、ゴ治郎!」
そして割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる。決して派手な決着ではなかったが、観客の心はしっかりと掴んだようだ。
「本日のエキシビションマッチはゴブリンのゴ治郎の勝利となりましたが、オークの武蔵もその強さを十二分に伝える素晴らしい闘いでした。この2体と闘いたいという挑戦者は是非、 SMCにいらして下さい! それでは、本日の配信はここまでにさせて頂きます! どうも、ありがとうございました!」
えっ、段田さん。配信ってなんのことですか?





