SMC
「晴臣、今日オープンだぞ!」
講義が終わり、ゼミ部屋に寄って教授と雑談をしていた時だ。ノックもせずに入ってきたのはやはり鮒田だった。鮒田はいつも大袈裟な足音を立てて歩くので、事前に察知することが出来る。そして同じゼミの女性学生はこの足音を聞くと、露骨に嫌な顔をする。
「ノックをしろと何度言えば……」
「それどころではない! 今日、オープンなんだ!」
教授は鮒田のこのような振る舞いに慣れているので驚かない。どうぞお好きにしてくださいの境地。仕方がない。聞いてやろう。
「何の話だ?」
「SMCのことだ!」
エスエムシー? なんだ? 何かの略だろうけど全く分からない。実は知らないと恥ずかしい類のものなのか? 鮒田はさも当然のように話している。
「……あぁ、エスエムシーか」
「あぁ、じゃない! 今すぐ行くぞ!」
エスエムシーとはそんなに大切なものなのか? 未だ全く分かっていないが、鮒田の気迫におされて立ち上がる。
「すいません。失礼します」
「教授、またな!」
どこまでいっても不遜な男だ。
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鮒田に連れてこられたのは秋葉原だ。電車を降りると電気街へ向けて迷いなく歩き始める。
秋葉原でオープンするエスエムシー? 駄目だ。さっぱり分からない。アイドルやメイドに関係する何かなのか?
「エスエムシーはこの近くなのか?」
鮒田はどんどん進んで行き、表通りから一本奥へ入った。周囲は雑多なビルが多く、デジモノを物色する人々で混み合っている。
「もうすぐだ! ちゃんとポーズは考えてきただろうな?」
ちょっと待ってくれ。ポーズってなんのことだ? エスエムシーはポーズが必要なものなのか? エス・エム・シー。S・M・C。SM? SM CLUBのことか!?
「ちょっと待て、鮒田! 俺は行かないぞ!」
「ここまで来て何を言っている! 一緒に戦おうじゃないか!」
「嫌だ! そもそも戦うってどういう意味だ!」
「そのままの意味だ! 実はエキシビションを頼まれていてな。相手になってもらうぞ!」
エキシビション!? SMクラブのエキシビションってなんだ!? 人前でやるのか?
「ほらっ、来い!」
鮒田はオーク顔負けの腕力で俺の腕を掴み、引き摺るように歩く。
「ほら、ここだ!」
ある、こじんまりとしたビルの前で止まった。見上げると2階に真新しい看板がかけてある。
『Summoned Monsters Colosseo』
エスエムシー。サモンド・モンスターズ・コロッセオ。召喚モンスターの闘技場だ。





