段田パニック
タクシーで段田ダンジョンまで行き、段田さんを降ろしたまでは良かった。しかし、それからが大変だ。まず家の鍵が見当たらない。ウェストバッグの中にはスマホと財布のみだ。となると、探す場所は限られてくる。
「鮒田、段田さんのズボンのポケットをまさぐってくれ」
「断る! 俺はそんな気持ちの悪いことはしない! ダンジョン横のテントに放り込んで帰るぞ!!」
「夜はもう寒い。段田さんに風邪でもひかれたら後味が悪いだろ?」
「ならば、武蔵にやらせよう!」
そんなことを召喚モンスターに!? いやしかし、意外と名案かもしれない。
鮒田は慣れた動作で召喚し、武蔵に命じる。
「ダンジョンオーナーのズボンのポケットに入っているものを引っ張りだせ!」
「ブイ!」
威勢よく返事をした武蔵は、玄関前で眠りこける男のズボンのポケットの中に入っていく。
先ずは左前ポケット。引っ張り出されたのはクシャクシャになったレシートと糸くずだけ。ポケットの中を小さなオークが這い回る様子は少々気味が悪い。
次は右前ポケット。武蔵が潜っていくと金属音がした。ここに鍵があるに違いない。が、しかし何処かに引っ掛かっているようで直ぐには出てこない。外から見ていても武蔵が苦戦している様子が分かる。
「頑張れ、武蔵! もうちょっとだ!」
鮒田が応援していると、ぴくりと段田さんが動いた。
「……うん? あれ? ここは」
地面の冷気で目が覚めたのだろう。頭を押さえながら段田さんが半身を起こす。
「段田ダンジョンですよ。酔い潰れていたのでタクシーに乗せちゃいました」
「……申し訳ないです。つい飲み過ぎてしまって……」
まだ酔いが覚めきっていないのか、頭はふらふらと揺れている。そしてズボンの右前ポケットでは──。
モゾモゾモゾモゾ
「ヒッ! 何かいる!」
突然、段田さんが取り乱した。ポケットの中の異変に気が付いたのだ。
「あっ、落ち着いてください! 大丈夫です!」
「ヒィィ、嫌だ!!」
「待ってください! 大丈夫ですからズボンを脱がないでください!」
「ヒイイィ、何か動いてる!!」
パニック状態の段田さんはズボンを下ろし──。
「君達、何をやっている。近所から苦情が来ているぞ」
俺達を照らしたのは強力なLEDライト。そしてその先には自転車に乗った警察官。
「……これには深い理由がありまして」
「聞かせて貰おうか」
こってりお説教を受けました。





