漢の焼肉
「うまい! これはうまい!」
「……俺より楽しんでいるのはおかしくないか?」
「ほら、晴臣! もっと食べろ! 食べ放題だぞ!」
釈然としない。これは謝罪代わりの焼肉のはずだ。なのに何故、コイツは満面の笑みなんだ?
「いやーしかし、なんであんなにゴ治郎は強いんだ?」
「逆だ。武蔵が弱い。オークなのに」
「武蔵が弱いわけないだろ! 毎日魔石をたらふく食べているんだぞ!」
おいおい。まさかこいつ。
「鮒田。お前、買った魔石を武蔵に与えてないか?」
「俺は! 金で全てを解決する男、鮒田武だ!」
「ゴ治郎に負けただろう。解決に至っていない」
「……確かに」
「武蔵に足りないのは経験だ。本来、ゴ治郎と武蔵にあそこまでの差はない筈だ」
「そうなのか!?」
「そうだ。武蔵は相手の動きに惑わされて自分の強みを全く活かせてなかっただろ? あれは戦い慣れていないからだ」
「……うーん」
「それに、ちゃんとした装備を身につけていなかったのも問題だ。武蔵に合った防具をつけていれば攻め所は自ずと限られる。そこを意識して守ればあんな簡単には倒されない筈なんだよ」
「晴臣はどうやってゴ治郎を鍛えた?」
「決まってるだろ。ダンジョンアタックだ」
「……ダンジョンかぁ」
鮒田が遠い目をする。
「まさか、ダンジョンに行ったことないなんて言わないよな?」
「ない!」
「召喚石はどこで手に入れた? 夏休みにダンジョンを掘りまくって手に入れたんじゃないのか?」
「夏休みは投資的観点からの召喚石の魅力を父親に説いていた。いやー、苦労したぞ!」
「もしかして召喚石を買った!?」
「もしかしてではない! 当然の選択だ!」
「……ちなみに幾ら?」
ピシッと指が一本立てられる。100万ではないよな? つまり1000万!?
「これでも安かったんだぞ? 今なら1.5倍はする。そしてこれからも価格は上がり続ける筈だ!」
金に対する嗅覚。これが鮒田家の帝王学の成果なのか?
「もっとも、今となっては武蔵を売る気なんてさらさらないがな。他の奴の血で武蔵が召喚されるなんて考えられん」
それに関しては俺も同意だ。ゴ治郎を手放すなんてことはあり得ない。
「……うん?」
急に鮒田が考え込んだ。
「どうした? 何かあったのか?」
「……おかしい。貧乏人の晴臣がどうやってダンジョンアタックを行っていた? プライベートダンジョンは田舎でも結構な料金の筈」
やばい! こいつ、金の匂いに気がつきやがった!
「いやー、未管理のパブリックダンジョンが実家の近くにあったんだよ! 今は市役所に見つかってしまったけどな!」
「嘘だな。嘘ついている人間特有の早口だ」
鋭い目つきで睨まれる。
「まぁ、親友が隠そうとしているんだ。そこは触れないでおこう。ただし──」
なんだ?
「俺のダンジョンアタックに付き合ってくれ」
これは、悪い話ではないのかもしれない。





