大袈裟な召喚
連れてこられたのは取り壊しが決まっている古い講堂だった。当たり前のように鍵を開けた鮒田は中に入れと促す。
「いいのか? 勝手に入って」
「ウチがどれだけこの大学に寄付していると思っている!」
そういうところだからな。嫌われるの。
バタンと扉を閉めた鮒田は講堂の1番目立つ所へ歩いていく。流石にここまで来て引き返すのは可哀想だ。やむを得ず付き従う。
「疑いを晴らす為に、召喚してやろう!」
鮒田は大袈裟に宣い、教卓の上に召喚石のリングを置いた。
「刮目せよ!」
さっとポケットからナイフを取り出し、親指に滑らせたかと思うと召喚石に触れる。流れるような動作だ。さてはこいつ、練習したな。
「出でよ! 武蔵!!」
声と同時に召喚石の輝きは一層強くなり──。
「オークじゃん」
鮒田が召喚したのはリアルダンジョンwikiで星3つ評価のオークだった。ガッチリした身体と不敵な面構えは召喚者に似ている。
「なんだそのリアクションは!? もっとこう、なんかあるだろ! モンスターが召喚されたんだぞ! しかもオーク!」
鮒田がバンと教卓を叩くと、オークがびっくりして少し跳んだ。
「すまん。実は俺も召喚石を持ってるんだ」
「……なんて?」
「俺も召喚石、持ってる」
「馬鹿な! モブキャラの晴臣が、召喚石だと!?」
「人を勝手にモブキャラにするな」
「い、一体、何の召喚石なんだ?」
「ゴブリンだけど」
「ふはははっ! 読めた! 読めたぞ! その素っ気ない態度の理由が! 晴臣は俺様のオークに嫉妬していたんだな! ゴブリンと言えば、雑魚中の雑魚。ワールズエンド・スーパー雑魚だ!!」
んだと。
「……取り消せ」
「本物のことを言って何が悪い! あっ、ソーレ! ざーこ♪ ざーこ♪ ざこざこざーこ♪」
鮒田とオークが踊り始めたところで俺のスイッチが入った。懐から革の小袋を取り出し、その中身を手のひらに転がす。
「雑魚かどうかは、戦ってから判断してもらおうか」
「ふはははっ! 瞬殺してくれよう!!」
親指を犬歯に当て、怒りに任せて噛みしめると血が流れ出した。期待するかのように召喚石は赤く点滅している。
「後悔するなよ」
召喚石に触れて唱える。
「ゴ治郎、来い!」
手のひらに、怒りに満ちた表情のゴブリンが現れた。その頭には赤い帽子。
「さて、やろうか」
初めて、召喚モンスター同士の戦いが始まった。





