待ち構えていた男
大学の正門に奴はいた。
腕組みをして周囲を睨みつけながら、仁王立ちをしている。
学生達はその男を避けるようにして、中へと急ぐ。絡まれたくないのだろう。俺にもその気持ちは痛いほど分かる。何度も味わって来たからなぁ……。
しかし。しかしだ。これはゲームでいうところの強制イベントのようなものだ。ここで逃げても必ず後で発生するやつ。
腹を括ろう。
人影から出て、堂々と正門に向かって歩いていくと──。
「晴臣!!」
「よお。鮒田。久しぶり」
「何処へ行っていた!? しばらく大学に来なかったそうだな?」
そうだな……? 何故、伝聞? こいつも大学に来ていなかったのか?
「ちょっとな。実家に帰ってた」
「本当か……!? 俺に内緒でまたパブリックダンジョンの調査をしていたのではないのか?」
グッと顔を寄せて鮒田は俺を睨みつけた。なんでこんなに必死なんだ……?
「本当に実家に帰っていただけだよ。母親がちょっと具合悪くして」
母親の話を出すと、鮒田は急に醒めたように身を引いた。
「そうか……。済まなかった。ところで、俺もしばらく大学を離れていてな、何処に行っていたと思う?」
「パブリックダンジョンだろ? 異変が起きていた」
「なっ……!? 何故それを……!?」
「いや、思いっきり段田さんに頼んでただろ。パブリックダンジョンの調査に行きたいって」
「ふん……。流石は晴臣だ。俺のことをよく見ている」
うーん。気持ち悪い。
「で、何のようだ? 俺に用があるんだろ?」
「そうだ! いでよ武蔵!!」
鮒田はいきなり武蔵を召喚する。学生達が足を止めて、何事かと遠巻きに見始めた。
「どうだ!!」
「ブイィ!!」
鮒田の手の上でサイドチェストのポーズをとる武蔵。その肩には──。
「ドクロマーク……」
「武蔵は討伐者になったのだ!!」
見せびらかすように、回転する鮒田。めちゃくちゃご機嫌だ。
「……それで?」
「なっ! なんだその薄いリアクションは!! 知っているのか? まだ日本には討伐者の称号をもつ召喚モンスターは十体しかいないんだぞ!!」
「へぇ。詳しいな。段田さんからの情報か?」
「その通り。日本サモナーズ協会のサイトに近々掲載されるそうだ。画像付きで」
「また厄介なことを。功名心をくすぐってパブリックダンジョンの平定を進めるつもりかぁ」
「それだけじゃないぞ! このドクロマークについて分かったこともある」
ほぉ。八乙女さんはそんなこと言ってなかったぞ。鮒田独自の情報網か?
「何が分かったんだ?」
「ふふふ。それはここでは言えないなぁ」
なら、ここで待ち伏せするなよ!!
鮒田の不敵な笑みが憎らしい。結局、人前で武蔵のドクロマークを自慢したかっただけじゃないか。
しかし、討伐者については気になる……。
「何処なら話せる?」
「ついて来い!」
「ブイイブイ!」
鮒田と武蔵は声を合わせた。そして、大学の旧講堂の方へと歩き始める。
うーん……。
俺はくるりと反転し、大学の外へ向かおうと──。
「こらっ! 何故付いて来ない!!」
クソッ! 見つかってしまった。やはりこれは強制イベントだったか……。
鮒田は逃すものかと俺の腕を掴み、再び旧講堂へと向かうのだった。





