水野ダンジョンランド
黄昏時、実家の前で俺は呆気に取られていた。母親が「水野ダンジョンランド」と言った時から嫌な予感はしていたのだが……。
以下は移動中に検索した水野ダンジョンランドのネットでの評判である。
『焼きそばのボリュームが凄い』
『召喚ヨガで5キロ痩せました』
『マスターがとても気さくでよい人です』
『ゴ治郎饅頭おいしい』
『この前、一等が当たりました!』
もうね、カオス。一体どんな運営をしているのか戦々恐々としていた。そして目の前に突き付けられる現実。
まず、家の隣の空き地が広い駐車場になっていた。まぁ、これはいい。田舎では車移動が基本だ。ただ、バスが止められるスペースまで必要か? 一体どんな集団が水野ダンジョンランドにはやってくるのだ? もうすでに恐ろしい。
「水野君、記念撮影をする顔出しパネルがあるわ……」
「……そうですね」
人間用と召喚モンスター用。二つの顔出しパネルが駐車場の脇に置かれてある。どちらもゴブリンだ。人間は分かる。ギリギリだが分かる。しかし、召喚モンスターがゴブリンの顔出しパネルで記念撮影をするのか……!?
「大人気って書いてあるわ」
「すみません……」
反射で謝ってしまった。なんの心覚えもないのに。
「とりあえず水野君、顔を出して」
「はい……」
八乙女さんの言葉に従い、俺は顔出しパネルに顔を突っ込む。当然、真顔だ。そしてスマホのシャッター音がパシャリ。無事、保存出来たようだ。何故、撮影したのかについて問うてはいけない。
「水野君、ダンジョンは?」
「裏庭です……」
垣根は取り払われ、駐車場からそのままアクセス出来るようになっている。ユーザビリティが高い。
裏庭にはプレハブ小屋があった。
そしてそこには「山盛りゴブリン焼きそば」のノボリがはためいている。
「水野君。ゴブリン焼きそばってなに?」
「分かりません……」
「まさか……ゴブリンの肉を……」
「さ、流石にそれはない筈です。麺の色が緑とか……」
「そうよね。いくらなんでもゴブリンの顔出しパネルで写真を撮ったあとにゴブリンを食べないものね」
「そう、信じたいです」
プレハブの中はキッチンになっていて、ここでゴブリン焼きそばをはじめとした食べ物を出していたようだ。
召喚者はモンスターを召喚中、とにかく腹が減る。ダンジョンに飲食店を併設するのはよい着眼点かもしれない。ただ──。
「召喚ヨガで美しい身体に……」
裏庭にカーポートのような屋根があり、その下には無垢板が敷かれていた。そしてここにもノボリ。「召喚ヨガ! 確実に痩せます」の文字。「召喚石貸し出します」ともある……。
「八乙女さん。これは……?」
「召喚ダイエットね。召喚石を貸し出して、モンスターを召喚したままヨガをするのでは?」
「ほうほう。ところで八乙女さんはヨガをやったことは?」
明日から、ヨガ教室を開催する可能性がある。俺には無理だが、もしかすると八乙女さんなら……?
「少し……なら……」
よしっ! これは勝った! なんとかなる気がする!
「とりあえず、家に入りましょうか? 夕飯を食べながら、うちのオカンからの指示書を確認しましょう」
「そうね。ところで、お父さんは?」
「あぁ、ウチの父親はいつも帰りが遅いので気にしないでください。先に食べちゃいましょう」
「分かったわ」
空は徐々に暗くなってきている。お腹も空いた。腹拵えをしてから明日の準備だ。





