鮒田の詰問
「晴臣! 詳しく聞かせてもらうぞ!」
SMCの営業終了後、我が物顔でスタッフルームに入ってきた鮒田が声を上げた。丸いスツールに座ってお茶をしていた段田さんとナンナが「あぁ、やっぱり来た」と、顔を見合わせている。
「なんの話だ?」
とりあえずスツールを勧めると、鮒田はひったくるようにして座る。そして腕を組んで朗々と喋り始めた。
「とぼけるな! ドクロマークの件に決まっているだろう! 最近、ゴ治郎の装備が派手になってきているから、風紀の乱れを正さなくては! と武蔵と話していたところだったのだ! しかし、いきなりタトゥーを入れるなんて……」
「いや、タトゥーじゃない」
「ならばシールなのか……!?」
鮒田の鼻息は荒い。こいつ、ネットの情報に踊らされ過ぎだろ。
「シールでもないんだなぁ〜。これが」
「じゃぁ、なんなのだ! さっさと教えろ!!」
ドンッ! とスタッフルームの長机を叩く。ナンナがびっくりして睨むと、一瞬鮒田が申し訳なさそうな顔をしたが、すぐに元に戻る。
「青梅ダンジョンに行っただろ?」
「あぁ」
「あのデッカいローパーの魔石、しばらくは保管しておいたんだが、ゴ治郎がどうしても食べたいっていうから……」
「……ちょっと待て。まさか魔石を食べたら肩にドクロマークが浮かんだって言いたいのか!?」
「そうだ」
この話は段田さんにもナンナにも既に共有済みだ。だから二人はつまらなそうに、スマホを弄っている。
「めちゃくちゃではないかっ! それで、ゴ治郎に何か変化はあったのか?」
「今のところ、何も」
「そんなわけないだろ! ドクロ……そうだっ! アンデッドに特攻がついたとかは? もしくは毒を吐けるようになったとか!?」
「どちらもないっ! ちょっと落ち着け」
拳を握って興奮する鮒田を諌める。
「オーナー! 晴臣の言っていることは本当かっ!? 俺様に内緒にしているのではないのか!?」
一見孤高を気取っているように見えて仲間外れにされることを酷く恐れる鮒田らしい言動だ。
「水野さんの言っていることは本当です。それに実はドクロマークが現れたのはゴ治郎だけじゃないんですよ」
「なにっ!? 他にも!?」
ほう。それは初耳だ。
「ええ。プライベートダンジョンのオーナーが集まったグループチャットでつい先程話題になってました。マザーモンスターからドロップした魔石を食べた召喚モンスターの肩に、ゴ治郎と同じドクロマークが現れたそうです」
「ということは、ドクロマークはマザーモンスターを倒した証ということか!」
鮒田が悔しそうにする。俺に手柄を取られた気分なのだろう。
「ですね。早くもドクロマーク持ちのことを【討伐者】って呼び始めています」
「へぇぇ。討伐者ってちょっとカッコイイ!」
おい、ナンナ! それ以上はやめろ! 鮒田がムキになるだろ!!
「ゴ治郎だけが討伐者の称号を……。進化をしてやっと追い付いたと思ったのに……! オーナー!! どこかマザーの討伐に手間取っているダンジョンはないのか?」
あーぁ。言わんこっちゃない。こいつ、意地でも武蔵に【討伐者】の称号を与えるつもりだ。
「それは沢山ありますよ。鮒田さん。行くつもりですか?」
「当然だ!! 今すぐ行ぐ!!」
立ち上がりそう宣言するが──。
「いや、それは無理ですよ。マザーが発生しているのはどれもパブリックダンジョンですから。その管理者に許可を取らないと入れませんから」
──段田さんにあっさり却下される。
「ぐぬぬぬ……。オーナーのつてでなんとかならんのか?」
「サモナーズ協会経由で聞いてみますね。少し時間がかかると思いますけど」
「仕方がない……」
鮒田は意気消沈しながらスタッフルームから出ていく。それを三人で見送り、少ししてそれぞれ帰路に着いた。
この騒動のせいで、俺はスマホの着信に全く気が付いていなかった。電車の中で見たスマホには不在着信の履歴が七件。
掛け直すまでの間、俺は妙な胸騒ぎを感じ続けるのだった。





