マザーの魔石
「うーん……」
「ギギィ……」
深夜のアパート。
俺とゴ治郎が腕組みをして眺めているのは、テーブルの上に置かれた虹色に輝く特大の魔石──マザーローパーからドロップした──だ。
八乙女さんからは「好きにしていい」と言われた魔石だが、一体どうしたものか。そうそうお目にかかれるものではないので、保管しておきたい気持ちもある。しかし──。
「ギィ……ギィ……」
魔石に惹かれているのか……? さっきまで普通だったのに、ゴ治郎は瞳を爛々と輝かせ始めた。今すぐにでも魔石に飛び掛かっていきそうだ。
「そ、そんなに食べたいのか?」
「……」
一度取り上げられたからか、ゴ治郎は上目遣いでこちらの様子をうかがっている。なんだか可哀想な気がしてきた……。
これだけ食べたがっているんだ。それに、ゴ治郎が必死に戦って倒したマザーローパーの魔石。ゴ治郎に与えるのが筋だろう。
「よし! 食べていいぞ!」
──タンッ! と勢いよく踏み込み、魔石に突進するゴ治郎。頭から飛び込むと魔石を両手でキャッチし、胸に押さえ込んでそのままテーブルの上をゴロゴロと転がる。
もう絶対に譲らない! そんな強い気持ちを感じた。
「大丈夫だよ、ゴ治郎。それはお前のものだ」
「ギギッギ!」
起き上がり、ピシリと敬礼するゴ治郎。
「やっぱり食べるのか?」
「ギギギッ!」
食べるらしい。まぁ、そうだよな。召喚モンスターにとって魔石はご馳走様だ。ご馳走様を後生大事に取っておくなんて考えはない。
「ギギギギギィ!」
きっと、「頂きます!」と言ったのだろう。
大口を開けて、ガブリッ! と特大の魔石に食いつく。そしてガリガリバリバリと堅い煎餅を齧るような音が部屋に響いた。
なんだかこっちまで腹が減ってきたなぁ……。カップ麺でも食べようか。在庫はあったかな?
そう思い、テーブルの上から立ち上がってキッチンに向かう。流しの下を開けると買い溜めしておいたカップ麺がまだあった。
「よーし」
やかんに水を入れ、火にかける。そして音のしなくなったゴ治郎の方を──。
「ゴ治郎!!」
赤い顔をしたゴ治郎がテーブルの上に寝転がっている。慌てて駆け寄り、見てみると……大丈夫。ちゃんと生きている。生きているし、何処か顔が緩んでいる。これはまるで……酔っ払っているようだ。
「マザーローパーの魔石はアルコール成分が含まれている? そんな馬鹿な……」
「プギィィ〜」
別に酒臭いわけではないが、酔っ払いの介抱をしているような気分になる。体は大丈夫なのだろうか? 何処か異変は……?
そう思いゴ治郎の体を指で摘んでくるりと中空で回転させた。特に異変はな……いや、あった。これまた面倒なことになりそうだぞ……。
「プギギィィ?」
赤ら顔のゴ治郎が目を開けて首を傾げている。「どうしたの?」というように。
「どうしたの? じゃないぞ。ゴ治郎。これは……また悪目立ちしてしまう……」
「プギギィィ?」
本人は気が付いていないらしい。仕方がない。教えてやるか。
「ゴ治郎、自分の右肩を見てみろ」
ゴ治郎は赤い顔で右肩を見る。
「ギギギ?」
そう。ゴ治郎の右肩にはドクロマークが浮かび上がっているのだった。





