正念場
武蔵はモカを背負い、自分で切り拓いた道を戻る。ゴ治郎はそれを援護するために魔剣に力を込めて蒼く発光させた。
ローパー達はゴ治郎のことを最大の脅威と認識したらしい。
一斉に伸びてくる触手をすんでのところで躱すと、触手同士が複雑に絡み合い、ローパー達から悲鳴が上がる……。間抜けな奴らだ。
次々と襲ってくる触手も、これだけ広ければゴ治郎にとって躱すのは簡単だ。
地面に壁に天井に、ゴ治郎は飛び回る。
「晴臣! あのデカいやつをどうするつもりだ!?」
テントの中から鮒田の声がした。
武蔵はもう大広間にはいない。ダンジョンの出口に向かって急いでいる筈だ。
「どう考えても、あのデカいローパーが今回の騒動の元凶だろ? ならば──」
タンッ! 大広間の入り口にゴ治郎が着地した。
「倒すしかないだろ!!」
「ギギギッ!!」
武蔵の最大の武器は馬鹿力だ。振り回していた棍棒のような岩はきっと、魔剣でダンジョンの壁から切り出したものだろう。全く……無茶苦茶なコンビだ。
では、ゴ治郎の最大の武器は……? それはやはりスピード。今、出来ることは速さと手数で圧倒すること。
「ゴ治郎。やれるな?」
「ギギッ!」
視界に映るサムズアップ。そして魔剣が輝きを増した。俺の身体から、ズルズルと音を立てて力がゴ治郎に流れていく。
正念場。
ガツガツとチョコバーを無理矢理口に押し込み、ドーピングは完了した。グッと腹に力を込める。
「いくぞ!!」
「ギギッ!!」
──ドバンッ!! と踏み込みの音が空間を揺らす。眼前に迫っていた数多の触手を一瞬で後にする。
「次っ!」
「ギッ!」
──バキンッ!! と空気を踏みつけ更に加速する。もう一度、更にもう一度。視界は狭くなり、特大のローパーが迫る。
ゴ治郎の胴程ありそうな巨大な触手が唸りを上げて降ってくる! しかし……。
──ギュン! と直角に曲がったゴ治郎はそれを避け、壁に着地した。そして光が鏡に反射するかの如く、魔剣を閃かせて特大ローパーを突撃する。
「キョワワワァァァァァ!!」
特大ローパーの悲痛な叫びが大広間を揺るがす。
予想通りに柔らかい体を突き破り、ゴ治郎は反対側の壁に着地した。そしてまた反射。蒼く光る魔剣を掲げ、スクリューのように回転しながら何度も何度も特大ローパーの体を抉る。
ローパーの悲鳴が次第に断末魔の叫びに聞こえてきた。
この広い空間がゴ治郎に味方した。つまり──。
「完! 勝!」
「ギッ! ギッ!」
壁を覆うほどあった巨体は穴ぼこになり、特大ローパーは動きを止めていた。それ以外のローパーも死んだように静かだ。
──バフフウゥン! と部屋全体が煙に包まれる。そして残るのは特大の魔石が一つ。虹色に輝いている。この大広間にいたローパーは全て特大ローパーの分体だったということか……?
「ゴ治郎! 魔石を確保しろ! 流石に限界だ」
「ギギッギ!」
召喚解除と共に視界は暗転する。目を開けると、テントの中のLEDライトの光が眩しい。
「晴臣! どうだった?」
「……倒したぞ。デカいやつを」
鮒田は安堵した表情でナンナを見つめる。武蔵とモカはまだダンジョンの中のようだ。
「……うっ」
「ナンナ! 大丈夫か!」
特大ローパーの討伐に呼応するようにナンナは薄く瞼を開いた。
「……鮒田先輩? どうしました?」
まだ意識が曖昧なのか、ナンナはぼんやりとした声だ。
「ナンナは気を失っていたんだぞ! さぁ、早くモカの召喚を解除してやれ!」
「えっ、あっ、はい。戻ってモカ!」
鮒田の剣幕に押され、ナンナは慌ててモカの召喚を解除した。召喚石は点滅しているので、なんとかモカも無事だろう。
「はぁ……。生きた心地がしなかったぜ」
そう言いながら鮒田は武蔵の召喚を解除し、ドカッとテントに寝転ぶ。随分と疲れているようで、早くも寝息が聞こえてきそうだ。
「あの……ごめんなさい! 慌てちゃって……」
ぴょんと立ち上がったナンナが頭を下げる。
「ナンナが無事なら……それでいい」
あまりに素直な鮒田のセリフに、俺とナンナは顔を見合わすのだった。
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