分かち合い : 36
ここは大通りから外れた、住宅街の間にある、狭く真昼以外の日が射しづらい路地。
追剥にあった死体が転がり、空腹にうずくまり、家を持たない者が数人認められるこの場所。
琥珀の少女の悲鳴は木霊する。
「いったぁ?!」
「大丈夫かミルティちゃん」
上空で古の鱗が飛行していたその後。
琥珀の少女は左の首筋をさすった。その目に涙があふれている。
「まだすごく痛いけれどお大丈夫。ありがとう」
琥珀の少女と小鼻の男、鷲鼻の男は目前の、人並みの背丈をした、足まで隠す汚れた大布を被った者へ顔を向けた。
「んでもう一回言うが、黒髪、この嬢ちゃんみたいな黄色の目、傷のない色白、極東の平たい顔立ち、たぶん男、身長はオレの肩くらいだ」
小鼻の男の言語を聞き、琥珀の少女は目の前の存在へそれとは異なる言語を発する。
「場所」
「はい。古の鱗のところへ向かっているでしょう」
その性別不祥で中性的な声の持ち主は、頭部に丸屋根の鳥かごをかぶったようで、大きなうす茶色の荒い布をかぶせた風貌。
琥珀の少女以外は、それから距離を五歩ほど取っていた。
「ミルティ。なんて言っている」
鷲鼻の男の澄んだ低い声に琥珀の少女は頷く。
「うーん、センリ見つけたらミルティのとこ来て教えてくれるみたい」
「そうか」
黄髪の男は右親指で鼻を撫でた。
「疑うわけじゃないが、こいつに任せて問題ないのか。人探しの才能があるように見えない」
可愛らしい表情で琥珀の少女は応える。
「ミルティ信じて!必ずうまくいくよ。結構付き合い長いんだ」
黄髪の男は口を固く横一線にし、口を噤んだ。
「前金。はい!よろしく」
布かぶりの足元にいくらか硬貨を琥珀の少女が置くと、足元まで伸びた大布は硬貨の上まで移動。
頭らしき丸屋根の部分が揺れ、それの動きは止まった。
小鼻の男は顔をしかめて顎を引く。
「別に気色悪いとか変なやつとか言ってるつもりねぇけどよぉ……気味悪いな。なんか………鎧の亡霊見た時みたいな……?」
「そんなこと言ったらさ、言葉分からなくても普通に傷つくよ?やめたげて。仕事はできる優秀さんなんだから」
自慢気に琥珀の少女は鼻と声を高らかにした。
「で、いつになったら行ってくれるんだ」
鷲鼻の男は腕を緩く組んで言う。
「ミルティたちがここから離れたらだよ。ほら行こ?」
「照れ屋さんなんだな。わかるぜ。オレもがきの頃人前でしょんべん垂れるなんてできなかったしな」
「ふ~ん?そうなの」
琥珀の少女らは路地から離れ大通りへ向かう。
頭上からの足音に鷲鼻の男は顔を上げた。
屋根の上から人影が六人降りてきた。
「よお、いい天気だな」
聞けば直ちに誰もがわかる極西の言葉。
深い刃物による横一線の傷を様々な顔の部位にもつ男ら六人は短剣を軽く握りしめている。
「そうだな、いい天気だ」
小鼻の男は、六人のうち一人へ向けて、その者の額の傷を示すように己の額を指でなぞる。
「あんたら“白刃の傷跡”か」
「くくく………はあー!はっはっ!」
極西の言葉と、西方の言葉が鷲鼻の男から放たれると、小鼻の男は細い腹を抱えて大笑いをし始めた。
「そうだ。何がおかしい」
鷲鼻の男は鼻で含み笑いをしている。六人の賊は怪訝な顔をした。
「ベダ、教えてやれ」
小鼻の男は涙をぬぐいながら、強い西方の訛りながらも極西の言葉で応える。
「白刃の傷跡……くくく……フランカノールじゃあチンカスって意味なんだぜぇ~!だ~っはっはっは!」
賊は顔を赤くし、短剣を強く握って殺気立つ。
「ミルティちゃん。オレのかっこいいとこ見ててなぁ!」
「頑張ってぇ〜」
琥珀の少女は後ろへ下がって短剣を、鷲鼻の男と小鼻の男は前へ出て腰に下げた手斧を両手で構えた。




