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(「好き」≒「恋」≠「愛」)=感情

作者: frith

「え、と……まあ、なんというか……俺ってさ、知っての通り……ん?知っての通り、っていうのもなんか変か……まあ、そんな感じでさ。ものを伝えるのがそんなに上手くないから、まあ、その、端的に言うしかないし、これにはなんのロマンチックさもないけども……俺と、付き合ってください」


「……ん、と……不束者ですが、その……よろしくお願いします」


 とある夏の夕暮れの教室。

 誰もいなくなったその一室にて、また1組、なんとも初々しいカップルが誕生した。


 新たにカップルとなったその少年と少女は恥ずかしそうに耳を赤らめ、目を逸らした。

 しかし、チラチラと互いに目を向け、ある一瞬に目が合うと、そこからどちらからともなくはにかみ合い、クスクスと笑い始める。


 一通り笑い終えると、少年が「帰ろっか」と手を差し伸ばし、少女が無言でコクリと頷きながらその手を取り指を絡ませた。

 そのまま満面の笑みで2人は仲睦まじく帰路に付き────────




 ──────誰もいなくなった教室で、僕は(・・)1人自嘲気に乾いた笑みを貼り付けた。










 ★







 気づいたら、その姿を目で追っていた。

 気づいたら、もっと話したいと思うようになっていた。

 気づいたら、一緒にいたいと思っていた。


 気づいたら、好きになっていた。


 そんな、在り来りで、理路整然とした理由もなく、気づいたら僕の中にそんな感情(想い)が芽生えていた。

 切っ掛けもなく、さしたる接点もなかった僕が覚えた、この「好き」という感情(想い)


 そんな淡い感情を自覚して、日に日に強まるこの思いを無視することは出来なくて、でも告白する勇気もなく。


 一日に何度か話しかけてくれることに喜んだり。


 それをもっと多くしたいと願いながらも、この日常も悪くないと、そう思っていたりもして。



 気づいたら君は、僕の「好き」な人は、僕じゃない人を「好き」になってて。

 君が「好き」な人は、僕の幼なじみで、僕の親友で。


 そんな幼なじみな親友は、君のことが「好き」だったらしくて。



 気づいてた。

 君が僕に話しかける理由が、僕の親友と話したいからだって。


 耳を塞いでしまってた。

 僕の親友が最近話すことの大半は、君のことだって気づいていながら。


 見えなかったことにしてた。

 君と親友が一緒に話していると、それだけでひとつの世界として成り立っていて、僕は所詮脇役だってことをわかっていながら。



 そして、今。

 僕は、結局、これまで築いてきたものを失いたくなくて、飛び出す勇気もなかった。


 君に対する思いはその程度なのかと、誰かに嘲笑われた気がした。


 それを僕は無視して、1人、乾いた笑みを顔に張りつけながら掃除ロッカーを出て、心の穴を埋めるように歩を進めた。








 ★






「ただいま〜」


 家に帰った僕は、いつも通りに(・・・・・・)普段の自分を演じ、弁当箱を洗いながらボカロを聴くというルーチンを熟す。


 親に何かあったのかと勘づかれたくない。

 兄妹に違和感を感じ取ってもらいたくない。


 そんなちっぽけなプライドは、存外上手い演技で隠し通すことが出来た。

 でも、いづれはどこかで綻びができる。

 そこから一気に破綻して、なんの重みもない、形だけの慰めを受ける。


 そんなのは、嫌だ。


 だから、隠し通す。

 この感情(想い)が無くなるまで。

「好き」な君のことを、「好き」じゃなくなったと思える程度になってからも。


 そこから普段のルーチンワークの一環として、自分の部屋に戻っ──────



「ぁ…… 」


 気づいたら、枕に顔を押し付けて、泣いていた。

 誰にも気づかれないように、声を押し殺しながら。






 ★






「----よー……ご飯だよー!」

「っ!はーい!」


 突然の大声に目を覚ます。

 つい条件反射的に大きな声で返事をして……寝落ちしてしまう前の記憶を思い出す。

 声を押し殺しながら泣いていたところまでは思い出せるから、どうやら泣き疲れて眠ってしまっていたらしい。

 子供か、と思ってしまうが、今までの行動を瞬間的に思い出して、子供だったなと自虐的に嗤う。


 でも、幾分か寝て少しスッキリした感じがする。多分、泣いたからかもしれないけど。


「ご飯だってばー!」

「ぁ!すぐ行くー!」





 ★




「どうしたの?その目」

「へ?目?目がどうかした?」


 ダイニングルームのドアを開けてテーブルに着いたら、早速この質問である。

 多分、泣いたから目が充血でもしてるんだと思ったから、何も知らないって感じに上手く演技する。


「うん、充血してるって言うか、すんごい真っ赤っか」

「あ〜、多分埃にやられたんだと思う」

「え、そんな真っ赤になるほど部屋汚くなってたの?少しでもいいから掃除しなよ〜」

「はいはい」


 目が痒かったとか、ホコリが入ったとか言えば、埃アレルギーがまた発作を起こしたのかって納得してくれる。


(でも、掃除、か)


 少しでも気を紛らわすのには、いいと思った。






 ★






「はぁ、しまったなぁ……」


(まさか、○⚫ッ○ル・ワ⚫パーの換えがなかったとは…)


 しかも、両親ともに兄妹を連れて買い物中だったから、歩いて20分はかかるホームセンターまで行かなくちゃ行けなくなった。


「しかも曇りだし、って冷たっ」


(あー、折りたたみ傘くらい持ってくればよかったかな)


 昨日から、なんだか嫌な事が多すぎる。


「……戻って止むまで時間潰そ……」


 幸い、まだホームセンターからはさして離れてない。だから、走ればそう濡れないだろう。


「……はぁ」


 ふと見上げた空は、僕の心を表すかのように、真っ黒く曇っていた。







 ★






「……はぁ……これじゃあ、帰るまでに何時間かかるのやら……」


 ホームセンターの屋根の下で雨を避けながら1人愚痴る。

 傘は売ってないか確認したら、丁度最後のひとつを隣を歩いていた人に持っていかれた。

 どうやら在庫管理にミスがあったようで、明日にならなければ新しく入荷はしないとのこと。


「……はぁ……不幸だ……」


 つい、あのキャラクターの口癖を口にしてしまうくらいには、僕は精神的に参っていたらしい。

 僕の声を僕が聞いて、それが無意識的に出たのだと知って驚いた。


「……はぁ……」


 なんだか、昨日今日といいことがない。








 ★





(くくく、今日こそはあいつを驚かしてやる……!)


 あいつ……つまりは僕の親友は、芸人顔負けと言っていいほど、ドッキリにかかりやすくて、リアクションも面白い。

 ただし、それは僕以外がドッキリを仕掛けた場合。

 僕が何かをしようとすると必ず……『あ、ここなんか仕掛けてある』って言いながら、あっさりと回避する。

 本人曰く『勘』だそうで、『なんかお前のしそうなことだからな』。

 ケラケラ笑いながらそう言う。


 ただ、今日のドッキリは勝算があった。

 何せ……


(くくく、さすがに2日連続で同じドッキリはいくらなんでも引っかかるでしょ!)


 昨日今日と2日続けて、同じドッキリ。

 それも、わざわざ週一でしかドッキリはしないって昔に言ってたのを律儀にまだ覚えてるあいつの事だから、今日はないって完全に思い込んでるはずだ。

 若干裏切りに対して心は痛むけど、1回でも驚かせたらもうしないし、何より全然引っかからないあいつが悪い。


(とりあえずそう思っとこう)


 そうしないと僕の精神衛生上あまり良くない。


 さて、と。教室からみんなが出てったし、僕は掃除ロッカーの中で待機してるから、教室にいるのは実質あいつだけだ。

 あいつの行動パターンは熟知してる。何せ、生まれてこの方なんの呪いか17年も同じ幼・小・中・高、って通ってきたんだ。しかも全部同じクラス。

 コレで分からないはずがない。


 あいつは毎週金曜日、図書室で借りた本をかなり集中して読む。そして仕掛けるならその一瞬しかない……!


(くくく!目に物見せてくれるわぁ!)







 ★







 結局、あの後……


「……はぁ……ん?」


 ふと、聞き覚えのある声が聞こえて……


 気づいたら、雨に濡れるのも構わず、走り出していた。








 ★






「……ヘッくしゅん!」


 案の定、風邪ひいた……。

 日曜日は元気だったから大丈夫だと思ったんだけど……。


「ゲホッ!あ〜、38度5分……つらい……」

「マジで辛そうだな」

「ほんとにさ〜、頭が痛くて怠くて咳と鼻水も出るし、痰は絡むし食欲も出ないし寒気もするし……辛いさぁ……で、なんで勝手にひとん家に挙がってんのさ……」

「ん?マスクさえしてりゃいいぞってんで、お前の母さんが通してくれたぞ?」

「……で、その肝心のマスクは?ゴホッ」

「蒸れるからやだ」


 ほんとに、本当に、本っ当にこの親友は!


「で、だ。少し、大事な話が……」

「あー、ちょっと待って」

「お、おぅ」

「それってさぁ……---と付き合うことになったって話?」


 おー、驚いてる驚いてる。あ、もしかしてドッキリ大成功……?

 はぁ……こんなことで初の大成功、か……


「一昨日、ホームセンターで仲睦まじく歩いてるところ見たんだよ……ッくしょん!」

「あ、ぁ、あれ見られてたのか!?」

「ちょぴっとだけね……」


 嘘だ。本当は、怖くて逃げた。見たら、何するかわからなかったから。だけど、悟られたくない。悟らせる訳には、いかない。

 だから、嘘をつく。

 自分の心に蓋をして、表情に出ないようにする。


「手なんか繋いじゃって……」

「なんだその目は!良いじゃないか、恋人と手くらい繋いでも!」

「いえいえ〜なんでもありませんよ〜」

「嘘だっ!その目は絶対にからかいの目だ!」

「リア充にはこの風邪が移りますように〜……ゲホッ!」

「いやマジでやめろよな!マジで!」


 あぁ、でも……


「くくくッ……」

「な、なんだよ」

「いや、なんでもない」

「なんでも無いわけねぇだろ!教えろ!」

「アーアタマニヒビクー」

「いや片言だぞおい!」

「いや……実際のところ、結構頭が痛い……」

「お、おう、それは悪かった」


 こいつなら……


「というわけで、要件済んだならとっとと帰った帰った。んで、---とデートでもしてろ」

「んむ……そうか、悪いな、体調悪いのに付き合わせて」

「いいいい、どうせなら移そうと思っただけだから」

「こいつ……!」

「ほら、さっさと---と乳繰り合いでもしてこい。シッシッ!ゲホッ」

「あー!分かった!分かったから無理すんな!」


 ---を、僕じゃあできない方法で……


「あーもう、なんか今日は調子狂うなぁ……」

「そりゃよかった」

「くッ、その憎たらしい顔を今すぐにでも殴りたい……!」

「はいはい、御託はいいからとっとと帰れ。まじで移るぞ」

「分かった分かった、お大事にな」


 幸せに、してくれるんだろうな……


「じゃあね……ゴホッ!」









 ★





 いつの間にか、「好き」になって……「恋」をしていた。


 でも……その「恋」は、いつの間にか「愛」に変わった。


 やがて、その「愛」は風化していって……





 ★





「久しぶり」

「ん?お、久しぶり。20年振りだね」


「まあ、----が毎週お世話になってるし、よく話に出てくるから、あんまり久しぶりって感覚はないけど、ね」

「ああ、----ちゃんね。あいつとよく似て、活発ないい子だよ」


「迷惑はかけてない……みたいね」

「あれくらいの子は、寧ろあのくらいがちょうどいいからね」



「そっちは……相変わらず、仲がよろしいこって」

「そりゃそうだ、俺は---に一生涯惚れてるからな!」

「だったら少しは周りの目を気にすることを覚えろ……」

「無理ね」

「断る」


「はは……」





 ★





 いつしか「それ」は、眩しいものを見るような、そんな感情(想い)へと移り行く。





これと全く同じことではないんですが……まあ、ほとんど同じなのは最初の部分ですね……。

現実にこんな感じだったから、そこからネタが生まれて……こんな感じにまとめることで、悲しみと言いますか……そんなのを自分の中で完結させたかったんですよね……。

あぁ、ちなみに……「泣いて」はいないです。……ただ「叫んだ」だけです……。

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