一日目夜 2
はっ、と目を開く。
ここは何処だろう?
私は……と考えていると、急に体が勝手に動いた。
ナニコレと戸惑う頭とは裏腹に、体はきびきびと動いている。
布団をたたみ、用を足し、洗面所にて歯を磨いて顔を洗い、迷いなく歩を進める。居間と思しき部屋に入ると足が止まる。
母さん、と声をかけた先には少しやつれているが美しい女性がいた。
彼女は、私に向かっておはよう月光、と挨拶をしてきた。
月光。
私の口は勝手に動き、おはよう母さん。あー、友達ができるか緊張するー。昨日、宵闇という可愛い女の子が話しかけてきてくれたから、大丈夫かな?と、なんとも可愛らしい不安を目の前の女性へ矢継ぎ早に話している。
あなたなら大丈夫よ、月光。と優しく頭を撫でられる。
早く朝ごはんを食べて学校に行きなさいと促され、体は素直に頷き、朝食をとって学校へと歩き出す。
私の舌は、サンドイッチの味を確かに感じていた。
足が地面を踏みしめ進む感触も、体を動かす度に髪の毛が肌に触れる感触も、手に持っている鞄の重さも、何もかもが感じられるのに。
ただ、体の自由だけがなかった。
勝手に動くのに、感触だけはある。
実はまだお腹がすいていることも分かる。
変な感じ。
そうこう考えているうちに学校へ到着した。
先程の会話から察するに、今日は二日目なのだろう。
二日目といえば、選択肢を間違えるとバッドエンドになる会話があったはず。
最初はなんでだよ!と憤ったが、今では序盤で一つ選択肢を潰せてラッキー!と手のひらを返した。
月光ちゃんだって何度も死にたくないだろうし、これは絶対に間違わないようにしないとと、メモったからよく覚えている。
そこで、ふと思った。
もしその選択肢を選んだ場合、私はどうなるのだ?
「おはよう、月光さん!」
「おはよう、宵闇さん」
声が、聞こえる。
宵闇くんの声。
ハスキーで中性的な美声。
『そういえば、宵闇さんって男の子みたいな声ですね』
私の口が、勝手に紡いだその言葉は。
ドンッと背中を押された。
足が宙を舞う。
何かを考えることなど出来るはずもなく、一瞬で階下へと落ちた。おちた。おち、た。
いっ、ぎゃああぁぁぁあああ!!?
いたい!いだあ、あっ、うでが!あしも!く、びっ、え、くびが?!あっあああ!?
死ぬほどの痛みでパニックになっている耳に、何かが聞こえてきた。
「なんでそんなこと、いうの?」
目が覚める。