プロローグ
その乙女ゲームは、まさにクソゲーと呼ぶに相応しい出来であった。
まず、攻略対象が一人だけ。
これはまあ良い。ただ一人と真剣に付き合いたいという層にはバカウケしたのだから。
次に、主人公の名前が固定。
これは嫌がる人はかなり嫌がる。だが名前を考えるのが面倒な人や、固定カプが好きな人には難なく受け入れられたのでそういうもんだろう。
さて、ここからである。
次いで、何故か舞台が田舎なのに攻略対象が男の娘なのだ。特殊すぎる。しかもなにやら謎と闇と病みとカワイイが絡み合って設定が渋滞起こしてる。どれか一つでいいから減らしてくれ。
さらに、選択肢が多すぎる。
一日だいたい五回の会話があり、それが約三年続く。
高校の同級生という設定なので、まあそんなもんかと思ったが、これがまあ鬼畜設定であった。
何故なら。
最後に、一つでも選択肢を間違えるとハッピーエンドに辿り着けないクソ仕様なのだ!!!
一日五回の会話×選択肢三つ×約三年=分かるか!!!
ということである。
ちなみに、一度でも選択肢を間違えるとハッピーエンドに辿り着けないと最初に公式で発表されているので、これは間違いない。
とあるガチめの乙女ゲーマーでさえ、ムリだコレと匙を投げたほどなのだから相当の鬼畜仕様である。
発売されてから三ヶ月経ったが、未だに攻略されていないらしい。嘘だと思いたいが、ガチなのだこれが。
アプリ形態で発売されており、開発者が説明文に
『ハッピーエンドまで辿り着けた人が出た時、このゲームはサービス終了します。この事をご了承の上で購入して下さい』
という挑戦的な文言が書かれてあるのだ。
なので、まだ私がプレイ出来るイコール誰もクリアーが出来ていないという式が成り立つのである。
なんでこんなクソゲーに手を出しちゃったかなー?と首を傾げてみる。目も瞑って考えてみる。
絵が綺麗だったから。
これに尽きた。
主人公の夜乃森月光ちゃんがまずどえらい美人である。
黒髪ロングで涼しげ目元、小さなお顔に柔らかそうな唇。紛うことなきお人形系美少女なのだ。
そして攻略対象である深海宵闇くんが、これまたどえらい美形なのである。
名前と真逆な白髪で、大きな瞳と口角の上がった愛らしい口元、まさにアイドル系美少女な男の娘なのだ!
可愛いが過ぎるため、何も知らずに公式サイトのトップ画像を見ると百合ゲーかな?と勘違いする。私もした。
内容は至って普通の高校生同士の恋愛のはず。多分。いやごめん嘘ついた。普通ではない。
まず日本の田舎で高校生が女装して学校に通ったりなどしない。最先端が極まりすぎている。
それに一年経ってようやく知らされる彼の秘密がえげつなさすぎるのだ。
名家の御息女だが、実は母親の浮気相手の子であり、その事がバレたら島流し(物理)にされるからバレてはならぬ。しかもその浮気相手が夫の父親、つまり彼の戸籍上は祖父にあたる人なのだが、もし息子が産まれたら実子として引き取るがお前はいらんから即刻ここから出ていけと母親に言ったらしく、何がなんでも女の子として育てなくてはいけなかったらしい。よく隠し通せたなオイ。凄すぎるだろ。
ちなみに父親は普通にクソ野郎で浮気三昧、DV、隠し子問題、etcである。コネで入った会社でも納得の窓際部署。その事に気付かず嫁を馬鹿だの愚図だの言っているらしい。クソ野郎め!!
だがその事がもろもろ全部バレてなぜか月光ちゃんが死ぬ。なんでだよ。
ここが第一関門である。
死なずに二年目に突入できるか、これがまずハードルがバカ高すぎるのだ。
だが、虱潰しに選択肢を網羅し、ようやく越えたと思ったらこんなん序の口でしたというハード通り越したルナティックモード突入なのである。鬼だ。
実はここ、何通りか正解があり、よっしゃ突破したぞー!と意気揚揚と進めたら第二関門の三年目突入時にバッサバッサと振るいにかけられみんな落ちていくのである。修羅かよ。
そして未だにここを突破した人はいない。
これが、クソゲーと呼ばれている所以である。
ぐうの音も出ないほどの正論だ(※個人の見解です)。
そんなクソゲーを、私は今日もノート片手にプレイしているのであーる。