ディセンバー・ジェノサイド ー前編ー
東暦1237年 12月24日。 今日はクリスマス・イブだ。
私には彼氏がいない。だが他の連中の声からは彼氏だの彼女だの
ダーリンだのマイハニーだの癪に障る言葉が飛び交っている。
最近そろそろ退職金をもらって、姉妹と山奥に隠居でもしようかと考えている
所だった。
とはいえ、最近ゲリラの活動が活発になってきており、
それを片付けてから退職しようと思っていたのだ。
それで、ここのうるさく愉快な仲間たちとはオサラバだ。
「よう嬢ちゃん。彼氏いないのかい?何ならワシが付き合ってもいいが?」
「うるせぇくそ爺。大体あんたにゃ女房いるだろ。」
「冗談じゃよぉ、本気にせんでくれ。」
この爺は、私と同じ階級の老年の兵士だ。
まぁ、何で同じなのかと言えば、私がここまで這い上がってきたのが
理由だが。
「次の作戦内容は、ここいらに潜伏しているゲリラ兵の排除じゃ。」
「へぇ・・・私も参加するってこと?」
「そうじゃよ。最近物資が連中のせいで、配給が滞っているんじゃ。」
補給物資や輸入品が襲われているのなら、それはそれで厄介な話だ。
帝国上層部も、そんなことをみすみす見逃すわけにもいくまい。
よりにもよって、我々のような特殊師団``第九戦術師団``に
要請をかけるとは、上層部は相当躍起になっているらしい。
「今回の作戦は、``第七偵察師団``および``第三突撃中隊``との
共同作戦になる。戦績が良かったら、特別ボーナスもあるそうだ。」
``ボーナス``。その言葉が出た瞬間、辺りの連中が一斉に
老年兵士、通称``少佐``と呼ばれる人物に視線を向ける。
「少佐、ボーナス出るって、本当ですか?」
「ああ、戦績が良かったらな。」
その瞬間、辺りの空気感は一変。歓声が沸いた。
が、さすがにうるさかったのが癪に障ったのか、
「貴様ら!こんな夜中に大声出すとは、
いい度胸してるな!叩き切ってやろうか!?」
赤い制服を着た女騎士、騎士団のナンバー2が
やってきた。
正直あいつは口が汚いが、悪いやつではない。
手を出すとこっちが悪者扱いされる可能性があるので、
手を出せないのが憎たらしい。
「まぁ、そうカッカなさんな、ここは昔のよしみとして、
見逃しちゃくれんかのぉ?」
「うう、いえ、そういうわけには・・・」
「そう言いなさんな、ワシらの仲じゃろう?
かつてワシの部下との真柄だったじゃないか。」
「いや、それとこれは別な訳で・・・」
少佐の前では敬語でおどおどした態度で接するのには理由がある。
入団当初は彼の部下として働いていたと言う。
その間に大量の借りを作ってしまったらしく、
彼女は彼に口出しが出来ないでいる。
とはいえ、その過去こそが、現在の彼女の
実力をつけたと言っても過言ではない。
当初彼女は騎士団で言う紅一点だったが、次第に彼女が
実力をつけていくうちに、次々と彼女に憧れを抱いた
女達が騎士団に参入した。おかげで今騎士団は
女が半数を占めている。
そのため、今の騎士団はとてもフレンドリーで、
ガチのアットホームな職場となっている。
アットホームって聞くとつい不信感を抱いてしまうが、
本当に明るい職場となっている。
「あ、そうだ、お前の部隊は今暇か?」
「ああ、はい、今は仕事がなくて、
そろそろ腕が鈍りそうな感じでしてね。」
少佐が顔をこっちに向けた。
どうやらそういうことらしく、
今回の作戦は第九戦術師団、第七索敵師団、
第三突撃中隊、そして、第二騎士団、通称’’オルカ’’の
共同作戦とかいう、最早ただの虐殺に近い
戦いだった。
同年、12月25日、午前2時23分。
雪が降っていた。先程の騎士団参戦のやり取りから
約4時間程が経過した頃のことだ。
「クリスマス、今日だったっけか。」
「ええ、本当は、女房と息子達と、
過ごしたかったんですがね。」
私の独り言に、回答してくれた人物がいた。
第七索敵師団の団長だ。
「おや、私の独り言に答えてくれたのか。」
「ああ、独り言でしたか。すいません、私、
自分で言うのもなんなんですが、自意識過剰でして。」
「うん、たしかに、自分で言うことじゃないね。」
彼は私が入る三年前から軍に所属しており、
私よりも戦歴が長い。
高学歴だったこともあり、
偵察司令官としての才能を発揮。
索敵班を立ち上げ、その行動が大金星を挙げたこともあり、
師団の立ち上げを許可され、7番目の師団である
第七索敵師団を立ち上げた人物でもある。
ちょっとひょうきんな奴だが、意外に優秀な人材
なのだ。
「ついに、始まるんですね。処刑が。」
「ああ、物資を根こそぎ奪ってくれたゲリラどもプラスアルファ、
こいつらの処刑が今回の作戦内容だ。」
実は、我々の中に、裏切り者がいるという報告があった。
その人物を殺すために、皇帝陛下直々に命令が下されたのが、今回の
任務である。
言ってしまえば、ゲリラどもの殲滅はオマケ程度にすぎない。
それだけ、ソイツの握っている情報が機密事項ということなのだろう。
「飛行偵察部隊は、使えそうか?」
「いや、ダメですね。こんな吹雪に近い雪じゃ、
飛龍達の羽根に傷がつきます。それで墜落して見つかったら、
たまったものじゃありませんから。」
その代わり、地上偵察班は数班出撃させて、位置を特定しておきました。
と、補足が入る中、もう時間がない。
作戦開始、現在時刻午前2時30分。
「我々’’オルカ’’の突撃部隊と、第三突撃中隊が先行して
敵部隊に攻撃を仕掛ける。残りの部隊(以下、後衛突撃部隊)は、4割を残して
全部隊を突撃させろ。以上だ。」
「りょーかい。だが、本当に4割で足りるんかね?
抜けられるかもしれんぞ。」
「我々が抜かさせなければいいだけだ。」
流石はナンバー2、言ってることが一般兵とは段違いだ。
やはり兵士はこうでなくては。
退役しようかとは考えていたが、全身の血が疼く。
信じられないことに、とてつもない量のアドレナリンが
体中から分泌されているのがわかる。
周りの兵士もそうだろう。
「よし・・・突撃部隊!突撃ぃぃぃぃぃ!!」
「うぉぉぉぉぉ!!!」
あの女騎士の掛け声で、周りの部隊の士気は鰻登りだ。
人望アツいね。あの子。
「武器を構えろ!邪魔する奴らは薙ぎ払え!蹂躙せよ!」
「皇帝陛下に栄光あれ!!!」
皇帝陛下に栄光あれ。この言葉を必死に叫びながら、兵士達は
突撃していった。普通に考えれば騒音被害も甚だしい限りだが、
奴らにとっては
それが一番の幸福なのだろう。だってみんな
狂ったような笑顔で叫んでたもん。正直怖い。
「さて、わしらも行くかのう。」
「オッケイ!後衛突撃部隊!続け!私達に続け!」
そうして私達は、一部は馬で、又は徒歩で
敵部隊がいるとされる地点へ向かった。