始まり
「かつ..かつ..かつ..」
広い会場に足音が響く。
今日はケイオス魔法士官学校卒業日だ。
ケイオス魔法士官学校とは、毎年全国からあらゆる魔法能力において厳しい審査を乗り越えた150人が入学することができる士官学校である。
この学校の入学はエリートコースを歩んでいけることが確定しており、非常に人気の高い学校だ。
そして、3年間の教育課程を終え最後の閉めである、卒業式では卒業生の主席が毎年スピーチすることが伝統となっている。
その例に倣って、今年も主席であるブルーがスピーチするようだ。
今年の卒業生150人と在学生300人、保護者や役人200人、計650人の前でスピーチしなければならない。
世界最高峰ともいわれるケイオス魔法士官学校の卒業式であり、また他の魔法生よりも学力、身体能力、魔法能力あらゆる面で凌駕している将来有望な魔法生がいるとなれば、スピーチに対する期待もうなぎのぼりだ。
ステージの階段を上り、振り返りこちらに視線を向けている多くの人々を見る。
期待のまなざしを向けるものもいれば、嫉妬心を持った視線も冷たい視線も暖かな視線も感じる。
そのまなざしを胸に話し始める。
「人間というのは怠慢で傲慢であり無能な生き物である」
そう言い放った瞬間に会場内の空気が変わった。
床には白い煙のようなものが充満し、会場内の全員が金縛りにあったかのように身動き疎か、言葉すら発することができなくなっている。
「私はこの3年間魔法について様々な角度から研究してきた。魔法というのは現代においても研究があまり進んでいないのは皆さんを知っていることだろう。魔法の原理や魔素についてなどわからないことばかりである。それがなぜなのかをついに発見することができた。私の3年間の研究結果を皆さんに発表したいと思う。」
「結論から言うと我々が人間だからである。意味が解らないと思うが、聞いてほしい。この数百年間、世界中の天才たちが魔法の研究を続けていた。様々な説、研究が学会で議論され、魔法にとどまらず様々な分野の発展へとつながった。しかしながら、その天才たちを持っても何一つ解明することができていない。それはなぜだろうか?どうしてなのだろうか?」
「答えは簡単だ。魔法という存在そのものが人間の範疇を超えているのである。つまり、人間の脳みそではこの魔法の全容を解明することがそもそも不可能なのである。」
「今や人間というのはこの世界のトップに立つ存在であり、この世界を支配しているといっても過言ではない。現に、世界中のありとあらゆるところで生活し、今もない生活圏を広めている。人間に生存競争で勝てる生き物などいないと思っているのだろう。ただそれは錯覚である。この世界には人間のその上に立ち、人間が見えないところで操っている存在がいるのだ。そう、その存在こそが神である。皆さんも一度神という言葉を自体は聞いたことがあるのではないだろうか?小さいころに昔話で聞いたり、昔の書物に記されていたり、何かしらは知っているはずだ。しかし、神というのは物語だけの存在などではない、架空の存在などではない。実際に存在しているのだ。」
「ここで、神について簡単説明をしておこう。神というのは、この世のすべてを誕生させた存在であり、世界の支配構造の頂点に立つ存在である。人間も魔法も、その世の中の秩序も神によって作られているものであり、我々人間が作り上げてきた歴史というのは、神が引いたレールの上をただただ歩いていただけである。それ以上でもそれ以下でもない。要するに神の手の上で転がされていたのだ。ここで疑問を感じる人もいると思う。なぜ神がそんな世界を作ったり、魔法を作り上げたりできるのか。何か特殊な能力でもあるのかと。それも簡単である。神というのはあらゆる能力を超越しており、自分の能力を具現化することができる。神が空を飛びたいと思えば空を飛ぶこともできるし、人を殺したいと思えばあらゆる方法で人間を殺すことができる。つまり、何でもありだ。皆さんの問いに答えるとすると、神がこの世界について考えたからだ。その思いが具現化に今の世界を作り上げた。つまり、人間とは人間という存在そのままであり、原理や法則もない。魔法も同様である。魔法は魔法であり、魔素を消費して魔法を発動する。たったそれだけだ。原理も法則も存在しない。」
「さあここでネタ晴らしをしよう。なぜ私がこんなことを述べているのか、このようなことが解るのか。実演して見せよう」
ブルーは魔法を唱える。
すると、稲妻のような爆音と閃光が走ったかと思うと、ブルーの姿がこの世のものとは思えぬようなものとなっていた。
人の姿などしておらず、全身は黒い皮膚に覆われ、頭に角が生え、足が地についておらず浮いている。
例えるとするならば魔王のような見た目だ。
「これが3年間の研究の集大成である。私はついに種族を変更することのできる魔術を習得することに成功した。そう、私はすでに演説が始まる前から人間ではなかった。神であったのである。そして、神の具現化能力において私は魔王がこの世の中を支配する構造を考えた。つまり、私が魔王になりあなた方は支配される側になった。この瞬間から世界の支配構造が変わった。また、私は神が一人であるということも想像した。それが具現化され、もうすでに神は私以外には存在しない。厳密にいえば私は神ではなく魔王であるため、この世のなかには神は存在などしていない。」
「最後に私の最終目的を話そう。私は暇なのである。だから、誰か私と戯れてくれる人が欲しい、つまり誰か私以外に神となり遊ぼうではないか。では諸君らごきげんよう。」