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8.「わたしたち相手に虚勢を張ろうなんて10年早い」

新キャラ本格登場。

あと短いです。

「あー、腰が痛い」

「椅子にずっと座ってた人間がそんなこと言ったら恨みを買うぞ」


 電車に揺られ続けて30分。俺たちは無事に目的の駅にたどり着いた。

 この辺りでも最大級の駅なだけあって見事に人でごった返している。人嫌いならもれなく発狂、そうでなくとも問答無用で酔ってしまいそうな人の数だ。


 俺たちは速やかにこの場から離脱するべく人混みの間を縫って改札を抜けた。しかしこの駅は地元民にはダンジョンと呼ばれるほどに複雑な構造をしている。しかも現在進行形であちこちで工事をしているわ、ついこの間セーブポイントと慣れ親しまれていた噴水も撤去されるわで、未だにその構造を変え続けている。

 リアル不思議のダンジョンと言っても差し支えないだろう。


 ここに来たのはこれで数十回目だが、それでも外に出るのはなかなかに労力を擁する。建物の中だからスマホの地図も使えないし、道案内の看板も一つ一つの情報量が多いから、見てもどこかピンと来ない。

 結局、直感とおぼろげな記憶便りに進んでいくしかない。


「ここに来るたびにわたし思うんですよね。自分が方向音痴じゃなくて良かったって」

「まあここほど方向音痴にとって辛い場所はないよな」

「でもたまに居ますけどね。あんな風にさまよいながら歩いている人」

「バカ、知らない人に指差すんじゃ無いよ」


 明日香の視線の先には確かに周囲をきょろきょろと見回して、いかにも困っていますというポーズの少女がいた。

 雑踏の中なので際立った特徴でも無ければ目立たないが、そういう意味ではその少女はその辺りの条件を完全にクリアしていた。行動の全てがオーバー気味で、着ているのはキャラもののTシャツ。そして身長は周囲よりも一回り小さい。


 さて、どうして俺はその少女の外見をこうも注意深く見てしまったのか。

 その理由は当然一目惚れなどではなく、そいつに見覚えがあったからだ。


「なあ明日香? お前視力いくつだっけ?」

「はい? この間測ったときは1.2でしたけど? ……もしかして先輩視力が下がって映画見れないとか言いませんよね?」

「バカ言ってんじゃねえよ。俺は天下無敵の2.0をキープしたまま。それよかお前がさっき見つけた女をもう一回よく見てみろ」

「え? …………ああっ!!」

「声がでけえ!!」


 明日香が思いっきり叫び、俺もつられて大声で叫んだものだから周囲の注目はものの一瞬で集まった。その中には当然、俺たちが観察していた少女も入っている。

 というわけで、バレちゃった。


「大神センパイに鷹崎センパイ! こんなところでどうしちゃったんですか!」


 何故かみてるこっちが不安になるくらいに弾けまくった笑顔を携え、放っておいたらすっぽり取れそなくらいの勢いで手を振ってくる少女がそこにいた。


 その名は松田梨央。俺と明日香の中学時代の後輩である。俺たちの間の呼び名は動物、もしくは小動物である。


「こんなところで何やってんだお前は」

「いやー、すっかり道に迷ってしまって。都合よく道が聞けそうな優しい人居ないかなーって思って周り見てたらお二人を見つけて安心しました!」

「わたし中学の頃、散々あなたに教えなかった? あなた方向音痴なんだからデカイ駅を歩くときはまずは駅員さんに道を聞けって」


 明日香はなかなかお怒りな様子だった。

 中学の頃は松田を一人前にしようと随分と面倒を見ていたのに本人がこの様子だから呆れるのも仕方ない。


「いや、話を聞いてくださいよセンパイ。その駅員さんがどこにもいないんです!」

「居るでしょあそこの案内カウンターに」

「あれ? あんなところにいつできたんだろう」

「ずっと前からよ」


 ここまでくると明日香の目は完全に据わっていた。俺も言葉が出ない。


「お前おっちょこちょいが酷くなってないか?」

「違いますよ。中学の頃はわたしと先輩で頑張ってフォローしてたからマシに見えてただけです。本性はこんなものですよ」

「お二人とも辛辣すぎます! 私だって怒るんですよ!」

「こいてんじゃねえよこの動物が。困り果ててたくせに」

「うぐぐぐ……」

「わたしたち相手に虚勢を張ろうなんて10年早い」


 かわいそうになるくらいメンタルをボコボコにされた松田だが、ここで手を緩めないのが俺たちのやり方。

 というか少しでも隙を見せたらこいつはすぐに調子に乗る。


「それで右も左も分からないクセしてこんなところに何しに来たんだよ」

「いくらなんでも乗る電車間違ってここに来たってのだけはやめてよ」

「違いますよ! 私は映画を見て、ついでに買い物するためにここに来たんです!」

「映画……?」

「そうです。あ、良かったらお二方もどうですか! 絶対に後悔させませんから! 何せ今から私が見るのはあの10年続いた人気シリーズの――」

「ストップ! 一回そこで喋るのストップ!」

「へ?」

「悪い松田。ちょっとばかしその場でステイしといて。こっちの話聞くんじゃねえぞ!」


 俺と明日香は完全に困惑している松田をその場で停止させてちょっとばかし距離を取る。小声で話せば耳に入らない程度の距離だ。


「(先輩、嫌な予感がするんですけど。見る映画はたぶん同じとして、劇場まで一緒って事無いでしょうね)」

「(普通に考えたら被らないはずだけど相手はあの動物だからな。意外性じゃあ右に出る者は居ない)」

「(じゃあ思い切って聞いてみます?)」

「(それで同じだったら最悪こっちが適当な理由つけて場所変えれば良いからな)」


 とにかくこのまま一緒に行動するのは一番ダメだ。付き合いがそれなりに長いこいつが相手じゃその内偽装がバレてもおかしく無いし、何より偽装でもコイツには俺たちが付き合ってることは知られたくない。

 理由はシンプル。何かムカつくから。しかも俺が松田ならこの事実を起点にしてこれまでイジられてきた分を仕返しする。

 どう転んでも俺に得は無い。


「(でも先輩。もうチケットの代金支払ってるから映画館は変えられません)」

「(あら?)」


 思わず松田の顔を見た。よく分かってない様子でこちらを見つめている。


「ねえ莉央。あなたが今から行く映画館ってさ、もしかしてここ?」


 明日香はスマホの画面を見せた。そこには映画館のホームページが表示されている。


「うん? ……あ、ここですここ! 何で分かったんですか!?」


 はいビンゴ。

 なんと映画館まで同じだった。こうなってしまうと退路は断たれた。

 ここで解散して映画館でまた鉢合わせると気まずいことこの上無い。つまり俺たちがとれる行動は。


「ここ、ちょうど俺たちも行こうとしてたんだよな」

「良かったら一緒にどう?」

「本当ですか!?」


 嘘ならどれほど良かっただろうか。多分心の中でファンファーレが鳴り止まなかった。


「まさか道に迷ってたらセンパイ達と会えるなんて! 星占い一位は伊達じゃ無いってことですね!」

「ちなみにその占い、牡羊座は?」

「12位でした」

「じゃあ、獅子座は?」

「11位です」

「「そりゃあツキが無いわけだ」」


 俺が牡羊座、明日香は獅子座。二人ともボロボロの順位なのが並んで歩いてれば不幸だって起きる。

 今度本気でお祓いでもいってやろうか。

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