第七話 ギルドマスター
テンポが悪くて話が全然前に進まない・・・・
誰か私に文章の書き方を教えてください。
ユキ達は「ギルマス」の後ろについて行き、冒険都市アドミレスに入る。門で並んでる冒険者達は先ほどの騒動を見ていたようで、話し掛けてこそ来ないが興味深げな視線があちこちから飛んできた。
街の中は、レンガ作りの所謂中世風の建物が並んでおり、地面にはしっかりとした石畳が敷かれていた。ただ恐らく門の近辺は冒険者が森で飼ってきた獲物を持っているせいか、血痕のようなものがそこかしこに見て取れた。また建物も街の奥のほうに比べて汚れが目立つ。ぶっちゃけ言えば汚い。
そして「ギルマス」は、その汚い建物達の中で妙に真新しく、そして不自然に他に比べて大きい建物の前で止まった。
「これが私達のギルドだよ♪」
「へ~これが冒険者ギルドか~」
「私も初めて見ました~。」
「ギルマス」は誇らしげに胸を張って冒険者ギルドを紹介した。ユキはそれに素直に関心し、テミスレーナも冒険者ギルドに来たことは無かったようで、その迫力に気圧されている。
「冒険者ギルド!?わーー、んぎゅっ!」
「やめい。」
そしてハルは先ほどの事はもう忘れてしまったのか、興奮して勝手に中に入って行こうとする。さすがにユキはハルの行動を先読みし、行ってしまう前に首根っこを掴んだ。
「アハハっ☆そちらの狐ちゃんは人間の街珍しいのかなぁ?」
「ギルマス」はハルの行動が面白かったのか、その行動を笑い飛ばしているが、後ろからついてきていたボロスはまた問題行動をしようとしたことに眉を顰める。ユキとしても正直これには罪悪感が強まった。
「あ!ボロス君。もうここまででいいよ♪」
「ですが……」
「大丈夫!君も早くアンリちゃんのとこに行きたいでしょう?」
「…………すいません。お願いします。」
ボロスは「ギルマス」の言葉に不安そうな顔をしたが、どうやら他に気になることがあるようで少し迷った後、また身体中に黒い痣を浮かべると跳んだ、いや、もはやそれは飛んだと言った方が正しいかも知れない。
ボロスが膝を折り曲げると、石畳に罅が入り、そして目にも止まらぬ速さで跳躍したかと思うと、周囲に反動の風が吹き荒れた。風が止んだ後に目を開ければボロスと思われる人影は空高くにあった。
「うわっ!凄いな。最初来た時も空から落ちてきたけど、もしかしてあの城壁を飛び越えて来たのか?」
「そうだよ~。ボロス君の身体能力はこの冒険都市でも一番だからね☆」
「でも身体能力が一番だからと言ってイコール最強じゃない。ですよね?『ギルマス』さん。」
「…………ふふっ。どうかな?」
ボロスの事をまるで自分のことのように自慢していた「ギルマス」は、ユキの発言を聞くと今までの嘘くさい子供のような笑顔ではなく、闇を含んだ顔をして笑った。
「ま、取り合えず入りなよ♪話は中で聞くよ?」
「わーーい!冒険者ギルドだーー。」
「あ!おい、こらっ!」
「ま、待ってくださいぃ」
だが、その顔も一瞬で引っこめるとズカズカと中に入っていってしまう。そしてハルも、まるで「待て」で待たされていた犬のようにユキを振り切り先に中に入って行く。ユキとテミスレーナも、その後に続いてギルドの中に入って行く。
砕けた石畳が一人でに修復されていくのを見た人間はいなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ギルドの中の冒険者は、思っていたより多くなかった。というよりここにいるのはせいぜい十数人程度で、表にいた冒険者達を考えると少な過ぎる。その冒険者達も魔物や魔獣を持ち込んでるのでは無く、どうみても普通に世間話をしているようにしか見えなかった。
「あのーここの人達は何をしているんですか?」
テミスレーナも同じように不思議に思ったのだろう「ギルマス」に質問を投げかけていた。
「ん?あぁ彼らは今日の調子とか森の様子とかについて話し合ってるんだよ☆ここは基本的に依頼を受ける場所であって報酬の報告をする場所はまた別にあるんだ♪」
「なんか地味ですぅー」
ハルとしては屈強な男たちが大騒ぎしているのを想像していたためかユキ達にも増してガッカリ感が凄いようだ。
それを見た「ギルマス」はまた笑うと何故冒険者達がいないのかユキ達に教えた。
「この街は冒険者の聖地ともいえる街だよ?冒険者の数は5000人近いんだよね~。5000人が毎日同じような時間に依頼を受け、同じような時間に多くの魔物の死体を持って帰ってくるんだよ☆流石に一つの建物じゃ処理出来ないし、例え出来たとしても不便だからね♪」
「ギルマス」曰く、この建物もただ依頼を発注している場所では無く正確には貴族や大商人などがだす高額な依頼専用の建物のようだ。だからこの建物だけ妙に綺麗なのだろう。
他にも駆け出し専用の建物だったり、面白い所だと街の中で済ませられる所謂「お使いクエスト」と呼ばれる依頼専用の建物まであるらしい。
そして、今のような多くの冒険者が帰ってくる時間帯は、依頼完了報告専用の建物と素材換金専用の建物が立て込んでいるらしい。逆に朝は、ユキ達が今いるような依頼受注専用の建物が賑わうのだそうだ。
また余談だがそういった冒険者用の建物は魔境に近い門の近くに設置されており、商人などの住民は街の奥に暮らしているらしい。
本来「ギルマス」の家もそっちの方にあるらしいのだが、当然だが現在危険人物扱いのユキ達を街の奥へはつれていけない、というのと、この時間この建物は空いてるということで、ここに案内されたらしい。
そうこう話を聞いているうちにユキ達は建物二階のそこそこ豪華な部屋に通され、これまたそこそこ豪華なソファに腰かけに座り、目の前には美味しそうなお茶菓子が出された。
「わぁ!ユキ様これなんですか!?」
「これはお菓子っていう食べ物だよ。食べてもいいぞ。ですよね?」
「ふふっ♪いいよ。」
ハルは生まれて初めて見た加工された食べ物というものに目を輝かせると、ユキからの許可が出ると同時に机にピョンと飛び乗ると小さな口いっぱいに頬張った。
「あ。おいしい……グズッ……味がするよぉ……おいしいぃよぉぉ……」
ハルにとっては生まれて初めてと言っても過言では無い調味料の効いた食べ物。その余りの美味しさに薄っすらと涙すら浮かべていた。
「じゃあ、俺も遠慮なく……あぁ、これだよ。これ。やっぱ焼いただけの肉とか人の食べるものじゃないよなぁ……。ギルマス、おかわり。」
「アハハ☆割と図々しいしいね、君。まぁ、しょうがないか。はい。」
ユキの願いにギルマスはしょうがないとばかりにお菓子を追加する。しかし、それもまたハルとユキが頬張ったことで、しばし休憩タイムのような空気が流れた。
………………
………
…
そうして食事タイムが始まって十分程。ギルマスが美味しいお茶もだしてくれ、ようやく一息ついた。
そして、ここに来てようやくテミスレーナが違和感に気付く
「あの・・・なんかおかしくないですか?」
対応が丁寧過ぎるのだ。現在、自分達は城門を破壊した危険人物として連れてこられている筈であり、少なくともお菓子にお茶を用意して貰っていい身分では無い、とテミスレーナは思ったのだが。
「まぁね☆そっちのマフラー君は何故か分かっているみたいだけどーー。」
「俺にはちょっとした特技みたいなものがありましてね。まぁ、俺とあなたでは致命的に相性が悪かったということで。」
「マジかーー。私も運が悪いなぁーー、はぁぁ。」
「ギルマス」は、ユキの発言を聞くと、笑顔が崩れることこそ無かったが、あからさまにガッカリした雰囲気になった。
しかし、テミスレーナとハルはやり取りの意味が分からず詳しく聞きたそうにしてる。
「あぁ。ごめんね?う~ん、でも説明よりも前に取り合えず自己紹介だけしておこっか♪私の名前はスウィー。ここ、冒険者ギルド、アドミレス支部でギルドマスターをしてるんだ☆」
「ギルマス」、いや、スウィーは置いてけぼりになっていたテミスとハルに謝ると、自己紹介をした。
「俺の名前のユキ。こっちの狐はハルだ。」
「どうもハルですぅ。」
「私はテミスレーナ・ドル・フィレアンスです。」
「えぇぇ!!??・・・・。はぁぁぁぁ・・・」
最後にテミスレーナが自己紹介をすると、スウィーは、一瞬衝撃を受けた顔をした後、先ほどのよりも更に深いため息をついた。
「え?え?ど、どうしたんですか!?」
「やっぱりか。」
「テミスレーナさん何かしたんですぅ?」
スウィーが深く落ち込んだような態度を見せると、テミスレーナは自分が何かしてしまったのかと慌てた。
ユキはこれに対して納得顔をし、ハルはいまいち状況が呑み込めないが取り合えず原因っぽいテミスレーナを訝し気に見た。
「いや、別にいいんだ。テミスレーナ様は悪くないよ。」
「「様?」」
妙な敬称をつけてテミスレーナの名前をよんだスウィーにハルと、そして何故かテミスレーナも首を傾げる。
「何でテミスレーナ様も分からないっていう顔してるの…………。」
「つまりはやっぱりテミスレーナさんは、やんごとなき身分のお方ってことだよね?」
そう、ユキは最初に名前を聞いた時からピンと来ていたのだが、多くの例外こそあるとはいえ基本的に人間社会において、セカンドネーム持ちは貴族だけのものだしミドルネームは王族だけのことが多い。
かくゆうユキの元の名前であるファルムス・デル・ファナ・バイルドルトというのは龍国バイルドルトの王族でありエルフと龍族の王族の血を受け継ぐファルムスという意味なのだ。
「やんごとなき…………?あ。そうでした!そういえば私、王女でした!」
「「はぁ……」」
「王女ですかぁ?」
スウィーとユキの会話聞いていたテミスレーナは、今思い出したとばかりに衝撃発言をかます。二人はその天然に三度ため息をつき、ハルは、信じてない顔をする。
「えぇ?テミスレーナさんホントに王女なんですかぁ?」
「はい!はい!すっかり忘れてました!私、フィレアンス王国第三王女です!…………一応」
相変わらずハルはテミスレーナが王女だということに懐疑的だが、テミスレーナは思い出した反動で何が嬉しいのか興奮していた。
というのも仕方がない部分もあるのだ。ここにいる者は知らないが、彼女の出生は少し特殊でこの年まで軟禁に近い暮らしをしてきたのだ。
彼女がドレスを着ていることがわかる通り、決して平民と同じ暮らしをしてきたという訳じゃなかったが、王族どころか、貴族としてすら扱われたことが無い彼女は自分の身分が高いという感覚が薄い。
それでも、自分が王族であることを忘れるのは天然が過ぎるが。
「はぁぁ~~。よし!じゃっ、どうしましょっか♪」
割りと深く落ち込んでいたスウィーは、自分を一喝すると顔をあげ、テミスレーナに話かける。
「どうしましょうって……、えっと、どうしましょうか?ユキさん。」
「えぇっと、取り合えず現状どうなっているか分かります?」
「い、いえ……」
あまりの衝撃に最初の議題がすっかり頭から飛んで行ったテミスレーナは、どうすればいいか分からずユキに助けを求める。
「現状、そもそもハルが城門を吹っ飛ばしてしまった事でここに呼ばれた訳ですが、」
「そうでしたね!」
「うぅっ」
ユキの言葉で自分のやらかしたことを思い出したハルはピンッと立っていた耳と尻尾がへにゃりと歪む。
「けど、そもそもこれに関してハルの悪い所は一つもない。」
「「え?」」
ユキが断言すると、テミスレーナとハルはまた意味が分からないという顔をする。
というのも、実は冒険者ギルドにはハルの種族である九尾との交戦を禁止する項目がある。ハルを見てれば分かると思うが九尾は強大な戦闘力と、人間の言葉が理解出来るだけの知能を持つ魔獣だ。
さすがに話が通じるから殺してはダメという訳ではないが、九尾は基本的に温厚な魔物だし、逆に怒りを買うと被害が多くでるため、敵対することはマイナス面が大き過ぎるのだ。
まぁ、冒険者の多くはギルドの規約を細かく読んでいる訳では無いし、九尾の方から攻撃してきた場合は応戦しても別に悪くない。
ただ今回の場合、先に襲い掛かってきたのは冒険者達であり、その余波で城門を壊してしまっても責任は襲い掛かってきた冒険者達だと言えるだろう。
「……と、いうことだ。」
「なるほど!さすがですね!」
「へぇ~。もぎゅもぎゅ。」
ユキがギルドの規約を含めた理論を展開すると、テミスレーナはユキを称賛する。一方ハルの方は自分が悪くないと分かると途中から興味を失い、自分のことだというのに話半分に聞き流し、残りのお菓子を食い始めた。
「話聞けよ。」
「むぎゅ!?わ、分かりましたぁーー」
その態度にイラッときたユキは、ハルの頭を鷲掴みするとアイアンクローを決めた。さすがに堪えたハルは渋々、お菓子を食べるのを止める。
「アハハ☆君達は面白いね~。まぁそういう訳でハルちゃんがやったことは別にいいんだけどねぇ……」
そう、ハルのしたことは問題では無い。正直それは法的にも、というのも勿論あるが、個人の武力で国を壊せるような化け物がいるこの世界でたかだか門の一つ二つはそんなに問題にはならないのだ。
ハルが壊した城門も恐らく土魔術によって2,3日もすれば完全に修復されていることだろう。土木作業の迅速さだけなら、この世界は地球のそれを遥かに上回る。さすがに街一つ吹き飛ばしていたらお尋ね者になっていただろうが、それはユキが阻止したし。
「問題なのは仮にもこの街のギルドマスターであるスウィーが、テミスレーナを殺そうとしたこと。だよね?」
「え?ころ……え、えぇぇぇぇ!」
「…………」
ユキの物騒な発言に対し、テミスレーナは混乱した。一方スウィーは今まで顔に張り付いていた笑顔が消える。
「ど、ど、ど、どういうことですか!?」
「落ち着いて、テミスレーナさん。ちゃんと説明するから。」
「は、はい……」
ユキは動揺しまくっているテミスレーナを落ち着けると淡々と話しだす。
「そもそもはハルがこの街に近づいてきた時のことだ。ハルは、種族柄とても大きな魔力を持っているし、今までの環境では必要が無かったのもあって魔力隠蔽が苦手なんだ。なぁあ?」
「ぐっ……」
自分の苦手分野を指摘されたハルは少し悪い気がし、お菓子に伸ばしかけていた手を引っ込める。
「魔力感知はある程度の強者なら当然のように出来る。この街にも出来る者は多くいる筈だ。そしてそいつらにとってハルの接近は化け物が街に向かって侵攻しているようなものだ。でも、見てた感じ街側からそういったリアクションは無かった。それは何故だと思う?はい、テミスレーナさん。」
「えぇ!?私ですか?えぇぇと………………分かりません。」
急に話を振られたテミスレーナは、必死に頭を働かせるが結局分からず項垂れる。
それを見たユキは、くすりと笑うと話を続ける。
「明らかな脅威が近づいてくるのに反応しない理由……答えは簡単、脅威じゃないからだ。」
「へ?」
「むっ。どういう意味ですかぁ!」
テミスレーナは、予想外の答えに瞠目し、自分の存在が脅威ではないと言われたハルは抗議の声をあげる。
「そのままの意味だよ。この街の強者達はハルがきても大丈夫だと知っていた。そして事実、ハルは恐らく俺が来なけりゃ殺られてた。覚えてるだろう?変な粘液状の何かを。」
「……あっ。そういえばありました。気づいてたら無くなってたんですよねぇ。」
その後のもろもろのせいで完全に頭からとんでいたが、そもそも街を吹き飛ばすほどの攻撃をしようとしたのは、それが原因だ。
そしてさっきから静かにしていたスウィーは眉を顰めたが、なにか言うことは無く話を聞く体制になる。
「そう。その粘液状の何か。結論から言えばそれは『スライム』だよ。」
「スライム!?」
「……っ!」
「……なんですかぁ?その、すらいむって。」
スライムという単語に三者三様の反応を見せる。
テミスレーナは、そんな者でハルを倒そうとしたことに驚きを見せるし、スウィーもそこまで正体を見破られたことに動揺を隠せない。ハルにいたってはスライムというものの存在を知らなかった。
この世界においてスライムは最も有名な魔物と言える。
というのも魔物は空気中の魔素から出来るのだが、大抵、多くの魔素が集まる魔境でしか発生しない。ただスライムは本当に極少量の魔素から発生するので普通に街中で出来てしまうのだ。(逆に魔素が濃い所では発生しないのでアバロンにはいなかった。)
地球風に言えば、湿気の多い日にカビが自然発生するようなものと言えばいいのかも知れない。さすがに家の中で自然に発生は中々しないが、下水道なんかでは発生しやすいという。
また、スライムは攻撃力も防御力も無く、つぶせば簡単に死ぬので最弱の魔物としても有名だ。はいはいしていた赤子が家の中に自然発生したスライムを轢き殺したりするのは、この世界特有の笑い話だ。
また余談だが、スライムは何でも食べて、そして死体は肥料としても使えるため、この世界では便所で排泄物を処理させたりしていたりする。水洗式ならずスライム式だ。おかげでこの世界の衛生面は意外と地球の現代レベルである。
「へぇ~。でもその、すらいむ?って弱いんですよね?それでどうやって私を倒すんですぅ?」
「確かにスライムは最弱の魔物だけど、実はその種類は多岐にわたるんだ。そして、ハルと空スライムというスライムは天敵と言っても過言じゃない存在なんだ。」
スライムには多くの種類がある。元々は全てただのスライムなのだが、食べたもの、生きている環境、そういったもろもろの影響を受けてその性質を変化させるのだ。
そしてその中の、『最弱最強』と呼ばれる種のスライムが空スライムだ。
これは発生したはいいものも生きていくのに十分な魔素を取り込めなかった時に発生するスライムで、その力はスライムの中でも最弱。何せ碌に動くことすら出来ないのだ。ただでさえ防御力のないスライムが動けなくなったら殺されるのを待つことしか出来ない。
しかし、同時に最強のスライムとも呼ばれる。何故なら、一切の魔術が効かないのだ。
本来生物としてある筈の最低限の魔素も持たない空スライムは魔術、または魔素で構成された攻撃をくらうと、その魔素を吸収し攻撃を無力化したうえ、吸収した攻撃を覚えて反撃してくるのだ。
故に物理攻撃をするものに取っては、動くことも出来ない最弱のスライム。だが魔術攻撃をする者にとっては攻撃の一切が効かないうえ反撃までされる最強のスライムとなる。
そしてハルは、というより九尾は魔術特化の魔獣だ。その攻撃のほぼ全ては魔素によって構成されており、身体能力は魔獣としては低い方なのだ。空スライムとの相性は最悪と言っていい。
「という訳で、あのままハルが「炎狐」で攻撃しても、その魔素は全て吸収されて完封されていただろうな。」
「うぅぅぅぅ~~」
ユキの説明に、ハルは悔しそうに唸り声をあげる。テミスレーナは、そんな種類のスライムは知らなかったのだろう。不思議そうな顔をしている。
それもそのはず空スライムは、相当珍しいスライムだ。発生の条件が分かっていても、スライムの変化はランダム性が強く、同じ条件においても同じ種に変化するわけじゃない。
特に空スライムに関しては、魔素が薄い所に置いた時点で多くの物が消滅してしまう為、人工的な製作は不可能とされている。
そう、空スライムの量産は不可能だ。
「あれ?でもユキさん。ならそのスライムは一体何処から出て来たんですか?」
そしてテミスレーナは、ふと思いついたことを口に出す。
テミスレーナの疑問はもっともなものだ。ハルの証言の通りなら火狐を撃って、気づいたらスライムが冒険者達を包んでおり、ユキが来て気づいたらスライムはもういなくなっていた。
一体スライムは何処からきたというのか。
おかしいのはそれだけでは無い。ユキを自発的に包もうとしていたのが空スライムなら自分から動ける訳がないのだ。
3つの疑問。
貴重な空スライムが体格の大きな冒険者を数人包むことが出来るほどの数がいること。
どこからともなく湧いてきて、何処かへ消えたスライム達。
身動き出来るほどの力を持たない空スライムが動いていたこと。
だが、その疑問は割りと簡単に答えることが出来る。
「答えは簡単。この街そのものが巨大なスライムなんだよ。」
「「は?」」
「…………はぁ。」
ユキの答えに対して、ハルとテミスレーナは間抜けな顔をすることしかできない。スウィーは俯けていた顔を上げると今度は天を仰ぎ、小さく、しかし深く溜息をする。
「この街がスライム?どういうことですか!?」
「まぁ、正確には街がスライムの上に乗っていると言った方が適切かな。恐らくスウィー、君もまたスライムだね?」
「ふぅ……。降参、降参。もうっ、なにもかもお見通しって訳なんだね。そうだよ。私の種族はスライム。まぁ、人間でもあるけどね。」
ユキの指摘に全てを観念した様子のスウィーは今までのキャピキャピとした喋り方をやめ、素直にしゃべる。
「私の固有能力【二心同体】は、心を通わせた生物とお互いの身体と力を共有できるんだよね。そして私のパートナーはマザースライムなんだ。」
「「マザースライム?」」
これまた聞いたことの無い種類のスライムにテミスレーナとハルは疑問を覚える。
マザースライムは空スライムとは違い、正真正銘最強のスライムだ。
冒険者ギルドでは、魔物や魔獣の強さを第一級から第十級の十段階で表しており、数字が小さいほど強い魔物なのだが、他のスライムが全て第十級か第九級なのに対し、マザースライムは、第五級に位置している。
これは、一流とまではいかなくとも、少なくとも二流の中でも上位の力が必要な魔物ということになる。
さてそのマザースライムだが、発生条件はよく分かっていない。一説には他のスライムを食べた物が成るという説があるが、はっきりしない。
その特性は全ての吸収したスライムの特性を模倣し、増やすことが出来るというものだ。ありとあらゆるスライムの特性を使い、そして魔力の限り無限にスライムを生みだし続けるこのスライムは正に最強のスライムだ。
そして、そのスライムと合体しているスウィーは人間の頭脳と技術、マザースライムの万能性と無限とも言える兵力を持つ存在ということになる。
当然、空スライムも無限に生成出来るスウィーには一切の魔術攻撃が効かないし、核がやられない限り物理攻撃も効かない。
「どんな攻撃も無力化し、スライムの種類の分だけ万能性を持ち、無限に近い兵力を生み出せる。それが私、第一級冒険者、スウィー・ミレン。あらためてよろしくね♪」
「「「…………」」」
そのあまりにえげつない能力に三人はさすがに閉口する。特にユキは相性がいいと大見えを切ってみたものの、実際に聞いてみると本気で相手をしても勝てるかどうか分からず、冷や汗をかいた。
「そ、そして、さっき言った通りこの街はそのマザースライムの上にあるんだよ。恐らくだけど、元々この場所はすり鉢状の大きな穴だったんだろう。その穴にすっぽり嵌る形にスライムがいて、その上にこの街があるんだ。だから、この街の敷地やその周囲から好きにいくらでもスライム出し放題なんだろうな。」
「さすがだね!もう全部正解だよ~」
少し動揺したが、ユキは最後の疑問であるスライムは何処からきて、何処へ行ったのかに答える。それを聞いたスウィーはもうやけくそとばかりに白状する。
「と、これで分かったとは思うけどハルだけならどうとでもなったんだよ。」
「どうとでも…………」
話を本題に戻すユキにハルが地味に傷ついた。
「簡単な話、ハルを殺せればそこで片が付いんだ。でも俺とテミスレーナさんが来てしまった。けど、この時点でもまだ問題じゃない。」
この街の者、というより主にスウィーにとって膨大な魔力を纏って近づいてくるハルは侵略者だ。襲ってくるなら撃退するのが手っ取り早い。冒険者ギルドで九尾との戦闘は禁じられているが、それは怒らせた時被害が大きくなるからだ。被害無しで討伐出来た場合わざわざ責めようとする者はいない。
そして、それはユキにも言える。大魔境であるアイルベット大森林から出て来た見知らぬ男。スウィーは知らないことだが、実際身分証すら持っていないのだ。
消した所で責める者は残念ながらいない。
「そして、俺とハルを殺そうとさっきのボロスっていうやつを送り込んできた。でも、スウィーにとって更に最悪なことに……テミスレーナがいた。明らかに高価なドレスを着たテミスレーナがだ。」
いくらスウィーがギルドマスターで冒険者に対して大きな権力を持っていたとしても、仮にも貴族の令嬢を、『怪しいから』などという理由で殺せば国際問題になる。
だから、この街の地面そのものであるマザースライムを経由して急いで地面から出て来たのだろう。
「まぁ、今回の騒動をまとめれば、『怪しいから殺そうとしたら、相手が王族でビックリ!』ってところかな?テミスレーナ様、あなたには正式にスウィーに賠償を請求する権利があるんだ……よ?」
「…………。」
「……?」
と、ここまで今の状況について話をしてきたユキだが、先ほどからテミスレーナが妙に怒りを込めたような顔をしていることに気づいた。
「スウィーさん。ユキさん達を殺そうとしたというのは本当なのですか?」
「……?そうだけど?」
「っ!な、なんでそんな酷いことが簡単に出来るんですかッ!?」
テミスレーナは席を立つと、自分の気持ちのままに大声をあげる。
テミスレーナはスウィーが、ハルとユキを殺そうとしていたなんて信じられないし、それを当然のように受け入れるユキとハルも信じられなかった。二人は勘違い――すらさせてもらえず、問答無用に殺されかけたことに怒りを抱くことすらしていないのだ。
命とはもっと大事なものでは無かったのか?他者の命とはそんなに簡単に奪っていいものなのか?
テミスレーナは、この場にいる自分以外の三人の価値観が分からず混乱した。
「アハハ☆そっかぁ……テミスレーナ様は優しいんだねぇ♪」
テミスレーナの怒りを、混乱を、スウィーは正しく理解した。それは、自分が、そして戦いに関わる全ての者が一度は通る道だ。
「でもね☆テミスレーナ様……。」
そして、多くの者が通る道だからこそ答えもまた決まっている。
「私はこの街を守るんだよ。絶対に。」
「ッ!」
テミスレーナはスウィーの言葉に何も言えなくなる。
その言葉には覚悟があったからだ。たとえ他の何を犠牲にしても、どのような罪を犯すことになろうと、絶対に街を守るという覚悟が。
ぐぅぅぅぅ~~~~~
「「「……」」」
「……////]
割りとシリアスな雰囲気だったが、お菓子だけでは満足出来なかったらしい狐の腹が鳴る。さすがに今のタイミングは悪いという自覚があるらしいハルはその顔を赤く染めた。
「……まっ☆ハルちゃんももう限界みたいだし、賠償についてはちゃっちゃと終わらせちゃおうか♪」
「…………そうですね。」
スウィーは、元の子供らしい笑顔の戻ると話を戻す。テミスレーナもまだ納得していない風だが渋々了承する。
「そうだね~。ユキ君達は旅人って言ってたけど、身分証はあるのかい?」
「いや、無いです。俺とハルについては冒険者証の発行でいいですよ。」
「りょ~かいっ♪」
冒険者は比較的、敷居が低い職業ではあるが誰でもなれる訳じゃない。そもそも誰でもなれたら犯罪者もなれてしまうからだ。さすがに犯罪者を儲けさせる訳にはいかない。
冒険者になる方法は3つ。
一つ目は確かな身分を持つか、信用のある人間に推薦されること。今回ユキ達はスウィーの推薦ということで冒険者になれる。
二つ目は冒険者学校という場所を卒業すること。冒険者学校そのものには身元の保証も入学金や、授業料は必要無い。ただ冒険者学校は厳しい場所で入学した者の三割は死に、四割は止めてしまう為、ここを卒業して冒険者となった者は「学校上がり」と呼ばれ一目置かれる。
三つ目は強引に登録してしまうこと。ただしこの場合、最初は第無級冒険者として登録され、まともな仕事は受けられないうえギルド内でも信用が無い。
一応冒険者では無くても、かなりぼったくれるものの素材は買い取ってくれる。ユキの元々の計画では、それで路銀を揃えたら冒険者学校に行くつもりだったのだが早速その必要が無くなった。
「あれ?ハルちゃんも登録するの?従魔としてじゃなくて?」
「当然ですっ!」
「あ~この通り本人たっての希望なんでお願い出来ますか?」
「ふふふっ☆まぁいいよ♪今回は私が悪かったんだしね♪」
相変わらずハルは冒険者という職業に過分に夢を抱いており、目をキラキラとさせている。ユキはこれに関しては苦笑気味だ。
一応、ユキとしても今後のことを考えるとハルには従魔としてでは無く冒険者として活動して欲しいのだが、この調子では少し心配になる。
「テミスレーナ様は、どうします?」
「え……えと私もユキさん達と同じで……」
「えっ……王女様が冒険者ですか?」
少し放心していたテミスレーナは急にスウィーに話し掛けられて焦り、思わずよく考えず返答する。
そのことに、スウィーは驚く。冒険者は無法者ではないが、荒くれ者ではある。仮にも王女がなるものでは無いだろう。
「え?……あ!えと、その、えぇぇと…………。」
「内容はまた後で決めて貰っても大丈夫ですが?」
よく考えずに答えたのだろう。改めて聞かれるとどもってしまった。正直なところ、スウィーとしても王女様を冒険者にするのは抵抗があるので変えてもらった方が助かるのだが。
「……いえ、やはり冒険者でお願いします。」
結局、多少の考慮のすえ冒険者登録をお願いすることになった。自分もこれと言った路銀が無いことに気づいたのか理由である。
まぁ、普通にお金を求めればいいのだが、残念ながら気づかなかった。
「ぷっ。ま、まぁいっか!じゃあーー……ほいっ。どうぞ♪」
テミスレーナの仕草が可愛かったスウィーは笑いかけるが、失礼だと思い我慢する。
そして、少し頭をぐりぐりしたかと思うと、手のひらから三枚のカードが出て来た。そしてそれをユキ達に手渡す。
そこには「第十級冒険者」の文字と三人それぞれの名前が載っていた。
「今、何やったんですか?」
「ひ・み・つ☆」
その余りに一瞬の出来事にユキは疑問を覚えるが、スウィーは子供らしい笑顔で誤魔化した。
「これでたった今から君達三人は冒険者だよ♪とは言っても十級じゃまともな仕事は出来ないけどね☆冒険者の規約もろもろはぁーーほいっ。これを読んでね♪読まないと今回みたいな事故が起きるから気を付けて☆」
「わっかりましたーー。」
スウィーは話をしながら、これまた手の平から地球の教科書サイズの本を出すとユキ達に手渡す。
ハルはそれを口でくわえると、話は終わりとばかりに部屋から出ていった。
「あぁ!ハルさーん。す、すみません。失礼しますっ!」
「はぁ、またか……」
テミスレーナは、それを追いかけようとし、律儀にスウィーに礼をした後部屋を出る。ユキは、諦めの表情でゆっくり立ち上がる。
「あぁ、ユキ君。」
「はい?何でしょう?」
しかし、スウィーはそれを呼び止める。ユキも素直に立ち止まった。
「君には正直いろいろ聞きたい所なんだけど……。」
「すみません。またハルが騒ぎを起こす前に捕まえに行かなきゃなんですけど……」
スウィーの言葉にユキは少し困った顔をする。スウィーはそれをみると肩をすくめて言った。
「じゃあ、一つだけ♪」
そしてスウィーは子供らしい顔を止め、ギルドマスターとしての顔になる。
「君、本当に生きてる?」
「…………」
その質問にユキは短い沈黙の後、部屋を出ながら口を開いた。
「生きてますよ。半分は。」
既に後ろを向いたユキの顔はスウィーには見えなかったが、その声に感情は無かった。
今週から文章の最後の用語解説は無くしました。詳しく世界観や用語の意味が知りたいと思ってくれた方は先週から掲載している「白龍伝説 ~知恵の塔~」をご覧ください。
これからは毎週土曜日20時に知恵の塔と交互に更新しようと思います。
・・・・出来なかったらすみません。




