第四話 エルフの少女
ーー時間は少し巻き戻るーー
Sideユキ
「うぅん····。まいったなぁ。」
「『まいったなぁ』じゃないですよ!ユキ様のバカ!」
「バカっておまえ···仮にも主に向かって酷くないか?」
白い髪に碧い瞳をした美少年ーーユキーーは、現在、ぷんすか、と可愛らしく怒っている頭の上にいる子狐ーーハルーーに向かって呆れたように言い返す。
「バカにバカって言って何が悪いんですか!このバカ」
「そう、バカバカ言うなよ。バカっていう方がバカらしいぞ。」
ポカポカと頭を叩いて抗議してくる狐の怒りを少しでも抑えるために、ちょっとした冗談を言って見るが、ハルの怒りは収まらない。
「どう見たってあなたの方がバカでしょう!何年もかけて準備して、やっとのこと、あのクソ田舎から出てきたっていのに、なんですか!」
そう、実はユキとハルは現在·····
「また、森じゃないですかぁ!!!!!!」
見知らぬ森で遭難中だった。
·························
··············
······
··
元々、ユキの能力で『終焉の大陸』を出た後は一番近い都市にすぐに行く予定だった。
これまたユキの能力であらかじめ周辺の情報は調べておいており、着いたら、まず街へ行って『冒険者ギルド』と言う場所に行って、今までユキの固有能力の中に保存しておいたアバロンの魔物を売ってお金にしたら宿をとって·····などなど、二人でしっかりと予定を決めていた。
ここで少し話は変わるが····
実は二人とも、アバロンではまともな食事がとれていない。いや、量はあるのだ。アバロンの魔物は基本大きいし、数も多い。
ただし、調味料がない。正確に言えば植物の類いは怖くて食べられない。アバロンの植物は、その濃すぎる魔素濃度によって常時変化···もとい進化し続けている。昨日美味しかったキノコは今日にはドラゴンをも殺す毒キノコになっていることも珍しくない。
結果、ユキもハルも、ここ数年は倒した魔物を焼くだけの食事をおくってきた。魔物の肉は栄養満点なので体調を崩すことこそなかったが、やはり飽きる。
なので二人は、人間らしい食事がやっと出来ると、とても楽しみにしていたのだ。
······が、それゆえに一つ失念していたことがあった。
「··············方向おんち」
「グハァ!」
そう、ユキは重度の方向おんちであったことだ。これは前世の頃からであり、小さい頃はよく初音と共に迷子になった。
さすがに17年暮らしていれば自分の街の地理くらいは覚えたが、新聞配達のバイトを始めた頃は、よく道に迷った。
いや、ホントよく続けられたなぁと自分でも思っている。雇ってくれたバイト先のおじさんには感謝しかない。
閑話休題
とにかく二人は本来行く筈だった街には辿り着かず、特に初めて人間の街に入ることをとても楽しみにしていたハルは絶賛大拗ね中であった。
「ま、まぁ、また探すから機嫌治してよ。」
「じゃあさっさと探してください!」
「はいはい」
主人を顎で使う従者ってどうなんだ、とユキは思わないでもなかったが、それを言うと、より一層機嫌が悪くなるので黙っておく。
「じゃあ行くよ。【氷魔召喚】ガルーダ」
瞬間、魔方陣が現れると、その上に体長8メートル近い巨大な鳥が現れた。それもただでかい鳥ではない。体の全てが透明の氷で出来ており、その透明な体は太陽の光を反射し、幻想的な美しさを醸し出していた。
「相変わらずガルちゃんは綺麗ですねー。」
「キュイィ」
ハルがその美しい体を誉めると、氷のガルーダは嬉しそうに鳴いた。
「よし、じゃあ街探しに行きますか!さぁユキ様乗った乗ったぁ!」
「ハイハイ····(ぼそっ)俺のガルーダなんだけど」
「なんか言いました?」
「いや、なんにも」
そうして紆余曲折あったものの二人はガルーダに乗り空に飛び上がったが·····
「あはは、見事に森、森、森ですねぇ」
「·······」
「確か私達、比較的街の近くに転移したんじゃなかったでしたっけ?」
「·············」
「なんでーーこんなーー森のど真ん中にーーいるんですかねぇぇ」
「····························ごめんなさい」
·······また、ハルの機嫌が悪くなった。
ーーそうして数十分たった頃ーー
「ん?」
突如ユキは人の気配を感じ取った。そう、突如感じ取った。
「どうしました?」
「いや、人の気配がしたんだけど·······」
「ホントですか!?じゃあその人に街への行き方を教えて貰いましょう!」
ハルは、もうとにかく街にいくのが楽しみなようで、思考が全てそっちに持ってかれていた。
「いや、どうだろう?気配が突然現れたってことは多分この人転移してきたんじゃないかな?」
「転移、ですか?少なくとも人間が発動できる魔術じゃないですし、そもそも魔力は感じませんでしたよ?」
そう、転移は本来、人間が発動できるようなものではない。それは、難しいとかそういうこと以前に、とある問題があるからだ。
まぁ、ユキの固有能力は、その問題を無理矢理解決しているのだが····それは、ユキ以外には誰にも出来ないはずなので除外していい。
「そう。だから正直かなり怪しいんだけど···」
「?」
「なんか魔物に襲われてるっぽいんだよねぇ。」
「はぁ?転移してきといて襲われてるんですか?」
そう、気配を感じてみた所、これは確実に逃げている。いや、正確には、走っているのだが、その後ろから魔物達がついて着ているのをみるに逃げているで間違い無いだろう。
この事にハルは大分訝しげだ。ユキも流石に怪し過ぎるとは思うが、流石に魔物に襲われてるのを放っておくことは出来ない。
「とりあえず会ってみようよ。話は、それからでいいでしょ。」
「えぇぇ、ユキ様の悪い癖ですよ。そうやって目の前の人を助けようとするところ。」
ハルは面倒くさそうにしている。
そもそも魔獣のハルには人間を助けようと意識がない。別段殺したいとも思わないが、だからと言って助けようとも思わない。ハルにとって人間は、そこらの動物とあまり変わらないのだ。
「······街への行き方知ってるかもよ?」
「助けましょう」
········ただ料理に関しては別である。
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と、まぁそんなこんなで魔物に襲われてた少女を助けて今に至る。(ちなみにガルーダはもう帰した。)
「えぇっと、大丈夫ですか?」
「え?あ、は、はひっ!」
噛んだ。が、とりあえずユキは気にしない。少女の頬が赤くなっていて可愛いとか思ったが気にしない。
「わ、私はテミスレーナ・ドル・フィレアンスと言います!」
助けた少女ーーテミスレーナーーは綺麗な緑色の髪をサイドテールにしており、また瞳もエメラルドのような輝きを放っている。見た目的には16、17といった所だろうか。美しさを持ちながら未だに可愛らしい雰囲気が抜けていない。今は少しぼろぼろになっているけれど着ているドレスも相まって、まさにお姫様といった感じの美少女だ。
ただ、ユキはそれよりも気になることがあった。
「エルフ·····?」
そうテミスレーナの耳は不自然に長く、ユキの母親と同じ特徴を持っている。
「え···あ、あぁ!えっと正確にはハーフエルフです。」
テミスレーナは今、気づいたとばかりに訂正すると恥ずかしそうに長い耳を抑えた。
「あぁ、いやごめんね?別に何でもないんだ。知り合いにエルフがいたからね。懐かしいな、と思っただけ。」
そういってユキは、少し暗い表情になると、無意識にピアスの魔道具で短く見せている自分の耳を触った。その行為の意味は頭の上の狐だけが気づいた。
「え!そうなんですか!?私、実は自分以外にエルフって知らなーー」
「エルフの話はもういいから、早く本題に入って下さい。ユキ様。」
「ーーい。···って狐が喋った!?」
「そうだった、そうだった。ごめんハル。」
テミスレーナは普段滅多に出来ないエルフの話をしようとするが、ハルの目論見通り興味は喋る狐にうつった。
「まずは自己紹介からかな。俺の名前はユキ。よろしくね。」
「私はハルです。」
「は、はい!よろしくお願いします!」
テミスレーナは元気良く満面の笑顔で返事をした。どうやらユキ達は信用してもらえたようだが、正直そんな簡単に他人を信じていいのかとユキの方が心配になってくる。
といっても、まぁ、ファミリーネームもっと言えばミドルネームを持ってることや、どうみてもハーフエルフじゃなくてエルフなこととか、なのに何故生きていることが出来るのか、とか、神器を持ってることとか、怪しい所だらけなのはテミスレーナの方ではあるけども。
「ユキ様、早く早く!」
「はいはい、えっとごめんね?実は俺たち今街を探しててテミスレーナさん、街の場所解ったりしない?」
「え?·····遭難?ここ恐らくアイルベット大森林ですよね?よく生きてられましたね。」
「アイルベット·····?あぁ、いや!これでも腕には自信があってね。」
「そうなんですか!お強いんですね!あ、街の場所でしたね。多分分かると思います。ちょっと待って下さい。」
そう言うとテミスレーナは手を合わせ祈るような仕草をした。すると周囲に小さな光の玉が集まり始める。そうして、数分ほど光の中でお祈りしていたが、どうやら終わったようで顔を上げた。
「分かりましたよ!ここから北西の方角に3日ほど歩いた所に大きな街があるみたいです。」
「へぇ、もしかして精霊魔術?」
「よく知ってますね!エルフしか使えない魔術なのに···あ!エルフのお知り合いが居るんでしたね。」
「······まぁね。」
確かに母は精霊魔法のエキスパートだったので見たことはあった。まぁ残念ながら魔力の無いユキはエルフの血が流れていても普通の精霊魔法は扱えないが。
「まぁ、取り敢えず、歩いて3日かぁ」
「ユキ様······」
「わかってる。わかってるからそう睨むな。」
「へ?どうしたんですか?」
「いや、ハルが早く街に行きたいみたいでな。」
「なんで、私が、行きたいってことになってるんですか!というかそもそも歩いて3日の距離って、それ方向おんち以前に転移する場所間違えましたよね!?」
「あーーはいはい、ごめんなさーーい」
「へ?転移?」
「いやいや、何でもありませんよーー
【氷魔召喚】ガルーダ」
ユキは怒りで、いろいろ口を滑らしそうな子狐の口を押さえると、テミスレーナを適当に誤魔化し、またガルーダを召喚した。
「キュイィィィ」
「わ!何ですかこれ!?」
「うちの可愛いペット、ガルちゃんだ。」
「ペット!?」
「取り敢えず、こいつに乗ってけば街まですぐだよ。」
テレスレーナは透明な美しい鳥を見て呆けていたが、すぐに気を持ち直すと、ガルーダをペタペタ触り、難しい顔で何かを考え始めた。
(これは···氷?じゃあ、あの一瞬で氷の鳥を作り上げた?····いや、さっき鳴き声もあげていた。だとすると魔法生物なの?でも、こんな美しい魔法生物がいるなんて····)
テミスレーナは、今までの只の少女としてではなく、一人の魔術士、そして一国の王女としての頭を働かせ始める。
(そういえば、さっきグレイウルフ達を倒していた魔術も見事だったなぁ)
そこで思いきってテミスレーナはユキに聞くことにした。
「あのユキさん。」
「ん?なに?」
「ユキさんって実は結構強かったりしますか?」
「そうだねぇ。テミスレーナさんが一体何を求めてるのか知らないど、まぁ強さに関しては自信があるよ。」
「どれくらい?」
「う~ん、そう言われると困るけど····少なくとも一級魔物は倒したことがあるよ。」
「!!??」
テミスレーナは驚愕した。何故なら一級魔物とは、存在そのものが災害のようなもの。小国など一晩で潰してしまう魔物なのだ。それを倒したことがあるということは、つまり彼はこう言っているのと等しい。
ーーー俺は、国一つ簡単に滅ぼせる力を持っているーー
流石にテミスレーナも、これを鵜呑みにするほど愚かではない。愚かではない·····が、
(·······でも、もし、それが本当なら·····)
すると、テミスレーナは深呼吸をし、一度落ち着くと覚悟を決めた顔をし、一つの願いを口にする。
「ユキさん。········いえ、ユキ様」
「どうか私の国を救って貰えませんか?」
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用語解説【氷魔召喚】
ユキの固有能力【白く凍える孤独の王】の応用の一つ。氷によって出来た魔法生物【氷魔】を召喚する。
当たり前だがガルーダ以外にも多数存在しており、その種類、数は不明。正直な話、今後出てくるかも不明。
一応言っておくと固有能力【白く凍える孤独の王】の本来の能力はただ一つであり、転移も収納も召喚も、あくまで、その特性をユキが違う方法で利用しただけであり本来の能力ではない。




