第三話 出会い
この世界において、地理のことを語る時、大抵の人はこう言う。
「4つの大陸と島々から出来ている」
ーーと
しかし、これは間違いだ。正確には「大陸」と呼ばれているものは5つ存在する。
では何故、もう1つの大陸は数えられないのか?別に、その「大陸」の存在を知らないというわけではない。
それは、単に、その「大陸」に人が住むことが出来ないからである。
ーー魔物の楽園ーー
ーー地獄の入り口ーー
ーー災害の住みかーー
数々の呼び名はあれど、その全てが、その大陸の過酷さを表している。
そして多くの人が、その「大陸」のことをこう呼ぶのだ。
「終焉の大陸」アバロン
ーーと
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ーーさて、そんな人が生きていくことが出来ないほど過酷と呼ばれる大陸に、いるはずのない人間が一人。
さらさらとした世の女性が羨みそうなほど綺麗な銀髪。
一切の濁りのない、あらゆるものが透き通るかのような碧色の瞳。
その顔はいまだ幼さが残るものの、多くのものか格好いいを通りこして美しいと評しそうなほど整った顔。
服装はこれといって変わった所のない普通のシャツとズボンだが、その首元には、長すぎて端が腰まで到達しそうな白いマフラーをつけ、また、腰には華美過ぎないほどの装飾が施された青色の鞘と、その鞘に収まる刀を差してした。
15年前、一度「あの世」というものに行きながら、何故か、そのまま新しい世界に転生してしまった氷室十夜ーーいや、ファルムス・デル・ファナ・バイルドルトである。
まぁ、今は、その名も捨ててしまったが·····
ともかく今、彼は、その人間が住むことは不可能と言われた大陸の岬で海を眺めていた。
「そろそろかな····」
「ガァァァァァァァァァァァァァァ」
そうして海を眺めていると、背後から凶悪な気配が複数現れた。
背後の森からぞろぞろと出てきたのは凶悪な魔物の数々。「終焉の大陸」の名に恥じないそれらの魔物は一匹でも街中に現れれば騎士団が総出で対抗しなければならないような強さをもつ。
そんな強さの魔物がパッと見ただけでも数百はおり、これが他の大陸で出てきたら多くの人間が死を覚悟しなくてはならないだろう。
・・・だがここは「終焉の大陸」。
こんなことは日常茶飯事。当然ここで暮らし始めてから、かれこれ5年になる彼にとっても、これは命の危険にはなりえない。
「はぁ~、せめて最後くらい感傷に浸らせて欲しいものだぜ。この体質に関しては向こうに行っても問題だよなー。」
彼はそう言いながら首のマフラーをたなびかせ魔物の方に振り向く。そして腰に差している刀を抜くと魔物達に剣先を向けた。
「いいぜ。考えてみれば、お前らともこれで最後だしな。そう考えれば名残惜しい気も・・・いや、まあこれっぽちもしないが相手してやる。」
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「ユキ様~~~~~~って、また、襲われたんですか!?ホント、ユキ様ってよく、襲われますよね~~。」
そう言って近づいてきたのは一匹の子狐。ふわふわとした金色の毛色をしており、子狐としても小さすぎないかと思えるほど小さい。その大きさ、およそ15センチ。まさに手乗り狐と言ったサイズである。その毛並みも相まって、その可愛さは多くの人間を魅了するだろう。
まぁ、実際の所この世界の人間が彼女を見たときほとんどのものが恐れ戦くだろう。何故なら彼女は、ただの子狐ではなく尻尾が五本存在するからだ。
ちなみに「ユキ」というのは今のファルムスの名前である。三人目の母親につけて貰った三つ目の名前である。
「そりゃあ、ハルよ。俺はお前と違って魔力を持ってないんだからしょうがないだろう?」
「いや、魔力を持ってない存在とか有り得ないんですけど····ユキ様ってホントに魔力持ってないんですか?私、いまだに信じられないんですけど····」
「残念ながら、さっぱりだ。それはともかく····別れは、もういいのか?」
すると子狐のハルは少し暗い顔をしたが、すぐに持ち直すとユキに明るい顔を見せた。
「···はいっ!もう大丈夫です。ここでは魔獣の死なんて当たり前ですから。むしろ墓を作ってもらえた分、私は幸せものですよ!」
「·····そうか。お前がいいならいいんだ。ま、いざとなったら俺の《固有能力》で帰ってこればいいしな。」
「私、常々思ってたんですけど、ユキ様の《固有能力》強すぎません?転移って普通に神級魔法なんですけど····」
「いや、別に俺の《固有能力》は転移じゃないんだが·····それに強すぎるって言ったら、お前ら《九尾》の方がよっぽどだろ。」
「そりゃそうですよ!本来『三大魔獣』の《種族能力》と比べることが間違ってるんですよ!なのに何ですかユキ様の能力は!普通に私達を越えますよ!」
「まぁ、そりゃあ最高峰の《王》の能力だからな。」
二人がーーいや、一人と一匹がーーお互いの能力を誉めながら言い争うという、少し変わったことをやっていると急に地面が揺れ始めた。
「おっと、もうこんな時間か。早く行かないとな。」
「遂にですね!」
「あぁ、遂にこの大陸を出るんだ。」
「私、他の大陸のこと全く知らないので楽しみです!」
「俺も龍国と森国しか行ったことがないからなぁ。人間の国を見てみたい。じゃあいくぞ。」
「はいっ!」
『固有能力
【白く凍える孤独の王】』
ーー瞬間、二人の足元に魔方陣のような幾何学模様が浮かんだかと思うと、この世界で唯一《終焉の大陸》で暮らした少年と『三大魔獣』に数えられる子狐は、その姿を消した。
その背後には真っ白に凍りついた数百の魔物が残された。
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Side ???
「はぁはぁはぁ」
深い森の中、一人の少女が息が切れながらも必死に走っていた。
少女の服装はどう見てもドレスのそれであり、また靴も既になく、魔物もいる森の中を歩く格好ではなかった。
それもそうだろう、彼女は、ほんの数時間前までは自分の家の中にいたのだから。
ドレスに裸足という、森歩きから最もかけ離れていると言ってもいい格好をしながら、いまだに魔物に食われず走れているのは一重に彼女の種族のおかげ。
しかし、それも限界だった。
「はぁはぁ、あっ!」
少女は木の根に足を引っかけたかと思うと盛大にこけてしまった。
「グルルルルル」
さらには灰色の毛並みの狼ーーグレイウルフーーの群れが次々と現れた。
彼らは魔物の中でも頭がよく、群れによる効率のよい狩りをする。恐らく今たまたま見つかったのではなく、大分前から少女の体力切れを狙って着いてきていたのだろう。
「くっ!」
少女はどうにか逃げようとするが、先ほど転んだ際、足を挫いてしまったようで立ち上がれない。
このままではまずい。最悪、死ぬことはないが魔力を大きく持ってかれることは間違いないだろう。
さらには足もこの具合だとしばらくは動けない。
ーー私は一刻も早く国に帰らなければならないのに···!ーー
しかしグレイウルフ達が少女の事情を知る訳がなく、どうやら動かないとわかったところで一斉に少女に飛びかかった。
····が
《氷之壁》
ガキィン
「キャン!?」
突如、どこからともなく声が聞こえたかと思うと、彼女を中心に透明な壁が現れた。
グレイウルフ達は、それに鼻から突っ込んでしまい悶絶している。。
「·····え?」
少女自身も何が起きたのか分からず困惑する。そうしてグレイウルフ達と一人が混乱していると先ほどと同じ声がもう一度響く
《氷之槍》
瞬間どこからともなく飛んできた氷の槍はグレイウルフ達を串刺しにした。
ようやく少女は、誰かが助けてくれたのだ、とわかり、氷の槍が飛んできたほうを向くと·····
金色の狐を頭の上に乗せた美しい銀髪の少年が佇んでいた。
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用語解説
《固有能力》
この世界では《能力》という特殊な力を持った存在が、そこそこの数存在する。割合としては三人に一人ぐらいは持ってる。
この《能力》とは、多くの種類があり、それ何の役にたつの?、って感じのものから、そんなの反則だろ!といった感じのものまで様々だ。
全ての《能力》に共通しているのは、先天性であり、また、人系統の種族しか持たず、魔獣や魔物は持っていない、ということだ。
ちなみに基本的に《能力》は一人一つだが、極々希に二つ以上持ってるものがいるとか、いないとか·····
ただし《固有能力》は《能力》とは、いろいろな点で違う。
まず、その名のとおり世界でただ一人しか持たない能力だ。(似たような《能力》があったりすることもあるが、違うもの)
また、《固有能力》は《能力》と違い後天的に習得することもあるし、魔獣や魔物は持たないという制限も存在しない。
他にも、様々な例外が存在しており、《能力》はまだ、魔術で再現出来たりもするのだが、《固有能力》の力は常識の範囲外であることも、しばしば。
ちなみに《固有能力》だから強力な力とは限らない。




