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白龍伝説 ~転生した俺は白き龍となり世界を救う~  作者: 鳥之羽
第一章 冒険都市アドミレス編
13/25

第十二話 開戦

今回連週投稿です。その代わり知恵の塔の方は今週はお休み。


来週は知恵の塔で「神器」についての更新をします。


Side テミスレーナ


 スウィーとの話し合いから大体30分後、ギルドマスターの緊急招集により、冒険者が続々と集まって来る。


 ここは冒険者の聖地とも言われる冒険都市だ。冒険者の数は5000人近い。


 さらに冒険者でなくとも、戦えるものがいる。例えば商人と専属契約した元冒険者。戦闘は嫌いだが有用な能力を持つ者。特殊な魔術を行使する神官など、様々だ。


 彼らも合わせて総勢6000人弱。


 さすがに一度に収容できる施設がなかったので、集合場所に選ばれたのは街の中央広場だった。


 普段も賑わっている場所だが、今は完全武装の人間でごった返していた。


「凄い人の数ですね。」

「そうだねっ♪これが冒険都市さっ☆」


 そんな中テミスレーナはスウィーと共に、広場の中央部分にいた。


 テミスレーナは、生まれて初めて見る人混みに感動したのだが、それを聞いたスウィーは街が褒められたのだと勘違いし、少し自慢げにしていた。


「ガーーハッハ。吾輩·····参上ッ!!」


 すると、身長2m以上はあるであろう巨漢が目の前に現れた。


「あーー······。」


 スウィーは巨漢の登場にあからさまに嫌そうな顔をする。


「んっ?なんだ、スウィーよッ!!決戦前だというのに気合が足りんぞッ!普段からもっと食べんから大きく成れんのだッ!!!」

「いや、私の身体、食べた量とか関係ないし·····。」


 しかし、巨漢はスウィーが元気が無いのだと勘違いし、その背中をバンバン叩きながら、彼女には意味の無いアドバイスをした。


「え、えぇと·····」

「む?貴様は·······?」

「わ、私はテミスレーナ・ドーーー「先日、来たばかりの新人冒険者のテミスレーナさんだよ。」


 スウィーの傍で困惑していたテミスレーナは、巨漢に名前を尋ねられて緊張してしまい、うっかりフルネームを喋りそうになりが、スウィーからのフォローで事なきを得た。


「ほうッ!新人とな!!それは良いことだ!若いうちは冒険をするべきだからな!吾輩の名はギラン。よろしく頼もう。」


 ギランはテミスレーナが新人と聞くと随分と嬉しそうにし、ゴツゴツとした武骨な手を出し、握手を求めた。


「は、はい······よろしくお願いします。」


 取り合えず握手は返したが、結局名前しか分からず、ついついスウィーに聞くような目を向けてしまう。


「ギランは冒険者だよ。今この街で私の次に等級の高い冒険者。今は3級だっけ?」

「ガハハ!先日、4級に落ちてしまった。老いには勝てんよなっ!」

「馬鹿言うなよ。君、まだ47だろ?後輩の面倒ばっかり見て、依頼を受けないから等級が落ちるんだよ。」

「·······スウィー。吾輩、47は十分年を取っていると思うのだが。」

「私は109だよ♪」

「お主はスライムだから老いが無いのだろう······。吾輩、これでも人間である。」


 スウィーとギランは軽い調子で話し合うが、その内容はテミスレーナにとって衝撃的な内容過ぎて、目が回った。


「--っさーーん。おやっさーーーん。」


 すると、少し遠くから声が届く。


「む。どうやら呼ばれておるようだ。」

「しっしっ。早く行ってしまえ。」


 その声はどうやらギランを呼ぶものだったらしく、ギランは話を切り上げた。


「うむっ。ではまたな。········。」


 しかし、別れを言って尚、ギランはこの場を去ろうとしなかった。そして少しの逡巡したかと思うと、もう一度こちらを向いた。


「最後に一つだけ聞きたいことがある。先ほど、この少女は新人と言ったな。戦場に出す気なのか?スウィー。」


 スウィーに向き直ったギランは、先ほどの雑談の時のような気楽な雰囲気では無く、真剣に疑問をぶつける。


「···はぁ。相変わらず君は優しいね。彼女は今回の魔人の発見者だよ。」

「む。」

「それに、戦場に出ることを決めたのは彼女だ。君にそれを止める権利は無い。そうだろう?」

「·········そうか。」


 スウィーはいつもの子供のような態度では無く、真剣にギランの問いに返した。ギランは納得はしていなさそうだったが、反論はしなかった。


「少女よ。テミスレーナと言ったか?」

「は、はい。」


 ギランは、今度は真剣な表情なままテミスレーナに向き直る。


 テミスレーナは、その雰囲気に少し委縮して声が跳ね上がる。


「あまり生き急ぐなよ。」


 そして最後に一言残すと、背中を向け広場に戻っていた。


「········。」


 テミスレーナは、その言葉の真意は分からなかったが、何故か忘れてはいけない言葉だと感じた。


「ホント、甘い子。」

「え?」

「なんでもない♪じゃあ、そろそろ始めよっか☆」


 スウィーが何か言ったような気がしたが、スウィーはすぐにいつもの調子に戻ると、広場の中央に存在する壇上に上がった。


「えーえーテステス。聞こえているかな~☆みんな大好きスウィーちゃんだよ~~♪」


 壇上に上がったスウィーは、広場全体に声を届ける。


 ちなみにマイクなどは存在しない。そういう魔道具は存在するが、この街そのものと言っていいスウィーにマイクなど必要ない。


 しかし、スウィーのふざけた雰囲気に対して、広場の喧噪はスウィーの声をきっかけに沈黙に変わる。


 この街の冒険者は皆知っているのだ。子供の皮をかぶったスウィー(ギルドマスター)を舐めれば、ただではすまないと。


「さて、ではまぁ、取り合えず現状について説明しようか♪」


 スウィーは静かになった冒険者を見て満足そうにする。


 そして一転真面目な雰囲気になると状況の詳しい説明を行う。


ーーこの街に大量の魔物が迫っていること。


ーー魔物は全部で1万体以上確認されていること。


ーーさらに中には第5級以上の上級魔物も確認されていること。


「そして最後にーー」


 そしてスウィーは少し貯めると最後の情報を公開する。


「魔人が確認されている。」


 その瞬間、広場中に驚きの声が上がる。それだけ魔人というのはこの世界の人間にとって脅威なのだ。


 とは言っても、正確には魔人が脅威な訳では無い。


 魔人はあくまでも意思を持つ魔物のこと。魔人そのものには強いも弱いも無い。中には弱い魔人も存在する。


 大事なのは魔人が街を攻めてくるということだ。魔人は考えることの出来る存在だ。敵対している人間が多く住む街を攻めることが危険なことぐらいは分かる。


 それでも魔人が攻めてくる時というのは、よっぽどの馬鹿魔人か、勝てる自身があるのかのどちらかだ。


 そして今回はどう考えても後者であり、それはかなりの脅威であること示している。


 そしてそれだけ成長した魔人というのは大抵、何処かの魔王の配下であり、つまりはこれは魔王軍の進軍と言えるのだ。


 これらが全て間違いである可能性も無くは無いが、十中八九正しいだろう。






「さてーー」


 あらかたの説明を終えたスウィーは一度息吐くと、改めて冒険者達に声を掛ける。


「状況から見て5万体の魔物は魔人が操っているのだろうね☆それに対してこちらの戦力は6000人の冒険者のみ♪」


 数の差は圧倒的。


「そのうえ今、うちの主力の何人かは()()()で出払っていて、質も落ちてるよね☆」


 戦力の質もお世辞にも万全とは言えない。


「正に、危機的。絶体絶命と言ってもいいかも知れないね☆」


 スウィーは今の絶望的な現状を包み隠さず語る。それは普通なら冒険者達の心を闇に染め。市民を不安にさせたことだろう。


「でも。私達は何?この街はなんだ?」


 しかし、ここは冒険都市。人が冒険する街だ。


「相手は魔物。私達の獲物だ。」


 ここの冒険者はそろいもそろって、冒険に命を懸ける馬鹿ばかり。


「ならばーーー」


 そう、ならばーー


「勝つのは私達だ。」

「「「うおぉぉぉおおおおぉぉおぉぉおぉーーーーー。」」」


 冒険者達の咆哮が広場に響いた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「凄かったです!私感動しちゃいました!」


 壇上を降りたスウィーにテミスレーナが声を掛ける。その瞳はキラキラと尊敬に輝いていた。


「アハハ!そんなに大したものじゃーー」

「私、スウィーさんのこと誤解してました!スウィーさん、間違えてハルちゃんのこと殺しかけるし、私達の監視をしていたりで、正直最低だな、とか、この人悪いかも、とか思っていたんですけど、実はとても立派な方だったんですね!」

「--ア、アハハ······。いや、うん。ほんと、そんなに大したものじゃないから········。」


 思っていたより、テミスレーナの自分の評価が低かったことを知り、スウィーは地味にショックを受けた。


「それより、テミスレーナ様はこの後どうするの?」


 それはそれとしてスウィーは、素朴な疑問をテミスレーナに投げかける。


 まだ、魔物の大群がこの街に着くまで2時間近くある。1時間前には集合するにしても、まだ1時間あった。


 他の冒険者なら、武器の調整や、物資の調達をするところだろうが、テミスレーナは精霊魔術の援護で、後方支援の為、あまりやることが無い。


 他の後方支援組はいろいろと準備することがあって忙しいだろうが、素人のテミスレーナが手伝っても邪魔にしかならないだろう。


 あらためてやることが無いことの気づいたテミスレーナは悩んでしまう。


「あ♪じゃあ、アンリちゃんの所に行ってもらえるかな?彼女の家は城壁近くだから、避難しないといけないんだけど、ほら、彼女、病気だから☆」


 テミスレーナが悩んでいると、スウィーの方から仕事を頼まれた。


 その内容自体は別におかしくなかったが、一つ気になる言葉があり、スウィーに聞いた。


「病気?」

「そっか♪テミスレーナ様は知らなかったね☆アンリちゃんはちょっと厄介な病気でね♪正確には病気じゃなくて体質なんだけど···。だからアンリちゃんとボロス君は、あんな城壁寄りの危険な所に住んでるんだよ☆」


 そう言われて見れば確かに昨日止まったアンリの家は城壁にぴったりと寄り添うようにできていた。


 普通そういう危険な場所は、荒事の対処出来る冒険者ギルドや騎士団の詰め所、または貧民街(スラム)があるものなのだが、仮にも第4級冒険者であるボロスの住む場所としては相応しくないだろう。


 それにこれで、初日この街に来た時のボロスの態度にも頷ける。もし、ハルの壊した城壁の場所が違ったら、アンリに被害があった可能性は十分にあっただろう。


 そうでなくとも、城壁が壊されれば魔物が街に侵入する可能性が高くなり、その場合、真っ先に被害に合うのは、城壁付近で暮らしているアンリだ。


 だからボロスはあんなにも怒っていたのだろう。


「ま♪取り合えずアンリちゃんのことはよろしくね~~☆」


 最後にそういってスウィーはさっさと何処かへいってしまう。


 あんなのでもこの街の最高権力者だ。テミスレーナと違ってやるべきことは山のようにあるのだろう。テミスレーナはアンリの病気とやら気になったが、聞くことは出来なかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


コンコン

「テミスレーナです。アンリさん、いますか?」


 テミスレーナは早速、昨日の泊まったアンリの家を訪れた。


「······何の用だ。」


 しかし、中から出て来たのはアンリでは無く、今朝一緒に出掛け、ハルの攻撃で吹っ飛ばされたはずのボロスだった。


「ボロスさん!?帰ってたんですか?」

「···あぁ、少し前にな。」


 テミスレーナは、意外な人物に驚いたが。ボロスは相変わらず不愛想な態度をとるだけだった。


「あの····アンリさんの避難を手伝おうと思ってきたんですが······。」

「そうか。ならば必要なーー」

「その声、テミスレーナさん?」


 テミスレーナの申し出をボロスはきっぱりと断ろうとしたが、その前に声に気づいたアンリがひょっこり顔を出す。


「アンリさん!今朝ぶりですねっ!」

「そうですね。今朝は倒れちゃってすみませんでした。」

「いえいえ、あれはユキさんが悪いんですよ。」


 テミスレーナとアンリは、言葉遣いこそ堅苦しいものの友達のような気楽な態度で、楽しそうに話出す。


「あ!テミスレーナさん。どうぞ、中に入ってください。」

「おい、アンリ。さすがにーー」

「お兄ちゃん、お願い。」

「早くしろよ。」

(妹には甘いんだ·······。)


 テミスレーナを家に入れることに一度は拒否反応を示したボロスだが、アンリに頼まれると、あっさりと手の平を返した。


 その切り替えの早さにテミスレーナは心の中で驚いた。


「じゃあ、お邪魔します······。」


 一応、今は緊急事態なのだが、幸い時間はあるのでアンリの厚意もあってお邪魔することにした。


 それからしばらくは普通の雑談をした。


 アンリとテミスレーナは昨晩、いろんなことを話、仲良くなったのだ。


 そうして話しているとテミスレーナは、スウィーの言葉を思い出し、アンリに直接尋ねてみることにした。


「そういえば、スウィーさんから聞いたのだけどアンリさん病気なんですか?」

「あ、はい。」


 病気のことを尋ねるとアンリ一瞬は少し複雑そうな顔をしたが、直ぐにいつもの顔に戻った。


「でも見た感じアンリさん、元気そうですけど···。」


 テミスレーナは、アンリが病気ということが信じられず、疑問を重ねた。


 事実、アンリは昨日から元気に街を出歩いているし、ユキを担いだり、ボロスを殴り飛ばしたりと、どう考えても病気の人間が出来る芸当とは思えない。


 アンリは、少し苦笑すると、テミスレーナに自分の病気について教えてくれた。


「私は『魔素飽和症』って言う病気で、まぁ正確には特異体質なんですけど。」

「『魔素飽和症』?」


 テミスレーナは聞いたことの無い病気に首を傾げた。


「『魔力器』は知っていますよね?」

「はい。魔力を蓄えられる器官のことですよね。」


 アンリの問いにテミスレーナは頷く。


 魔力器とは、全ての生物が体内に持っているとされている器官だ。


 この世界には回復魔術がある分、医学の進歩は圧倒的に遅れており、どの内臓がどのような役割をしているのか詳しく分かっていないが、魔力器は確かに存在するとされている。


「人は通常、魔力器の許容量を超える魔力を体内に取り込むことはできません。しかし、私の『魔素飽和症』はその限界を超えて私の身体に魔力を取り込み続けてしまうんです。」


 アンリは自分の病気についてテミスレーナに話したが、テミスレーナにはいまいち、それの何処が悪いのか分からなかった。


 魔力が多いのだというのなら、それは基本的にいいことだ。テミスレーナが疑問に思うのも仕方が無い。


 テミスレーナがその疑問を素直に伝えると、アンリは少し笑った後、丁寧に教えてくれた。


「確かに魔力が多いことは基本的にいいことです。しかし、魔力器と魔力の関係はコップと水に似ています。」


 そう言いながらアンリはコップを持ち、そこに水を注ぎ始める。


「コップが大きいほど、魔力を多く持つことが出来ます。でも私は獣人族。魔力の器そのものはお世辞にも大きくありません。そして、コップ(魔力器)の容量以上の(魔力)が注がれればーーー」


 そう言っている内に、アンリの注ぐ水はコップに溜り続けーー


「こうなります。」


 溢れ出す。


 溢れ出した水はコップを持つアンリの手を濡らし、床に零れ落ちて水浸しにした。


「こうやって私から溢れ出した魔力は、私自身を気づつけてしまうんです。普段は痛みを抑えているんですけど、何かの拍子に魔力が一気にこぼれると、発作になって痛みが出るんです。」


 そういうとアンリは持っていたコップを左右に揺らす。当然、中の水は、揺れた分だけ多くコップからこぼれ出した。


「すみません······。」

「なんでテミスレーナさんが謝るんですか?」


 テミスレーナがアンリに頭を下げると、アンリは首を傾げた。


「いえ、そんな辛い病気だとは思わなくて·······」


 テミスレーナは思ったよりも重く、辛い病気を抱えているのに、無神経にそれを聞いてしまったことを申し訳なく思っていた。


「大丈夫ですよ。」


 しかし、アンリは少しも気にしたような雰囲気は無く、テミスレーナを許した。


「そもそも、この病気ほとんど治っているんです。」

「えっ?」


 意外な言葉に、テミスレーナはつい間抜けな声を出してしまった。


「私達がこの街に来たのは病気の治療の為なんです。私の病気は魔素濃度が濃い場所では症状が改善されるんですよ。」


 アンリは、こともなげに話を進める。


 コップに注がれた水も水槽の中ではこぼれない。それと同じように、彼女から溢れ出した魔力は近くの魔素濃度が高いと、彼女に危害を加えること無く、空気に紛れてしまうらしい。


 だから彼女は魔境に最も近い壁際に居を構えているのだ。


「それに私の治療はギルドマスター様がやってくださっているんです。」


 アンリ曰く、スウィーは例の(エンプティ)スライムで、アンリの過剰分の魔力を吸い取っているらしく、この街はアンリとしてもとても住み心地の良い街らしい。


 アンリの病気自体も過剰に供給される魔力と魔力器が釣り合えば、完治する。


 魔力器は、一般的に年齢を重ねれば、大きくなっていく為、アンリもいつかは絶対に完治する筈なのだ。


「そうなんですかっ!それは良かった······!」


 テミスレーナはその話を聞いて心底ホッとした。


 すると、そこで今まで別の部屋にいたボロスが入って来る。


「アンリ。体調は大丈夫か?そろそろ移動だ。」

「分かったよ。お兄ちゃん。テミスレーナさん。」

「はい、分かっています。私も戦うので行かないと。」


 ボロスはアンリに近づくと、その身体を気遣いつつ避難を進める。アンリもさすがに我がままは言わず、素直に応じた。


 テミスレーナもさすがにそろそろ配置につかなければいけない時間であることに気づき、部屋を出ていこうとする。


 するとーー


「おい。エルフ。」


 ボロスとすれ違う瞬間、小さな声で話掛けられる。


「·········下に気をつけろ。」

「えっ?」


 ボロスは少し間が開いた後、意味不明な言葉をテミスレーナに投げかける。


 テミスレーナはボロスに言葉の真意を聞こうとするが、その時には既にアンリの方へ行ってしまい、そこそこ遠くにいた。


 言葉の真意は気になったが、時間が無いことと、素直に聞いても答えてくれなさそうな為、仕方なく、出発した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


Side ????


 鬱蒼と茂る高く太い木々。しかし、今は、そのことごとくが倒され大量の魔物達の下敷きとなっている。


 魔物達はただ一心不乱に前へと進み続けている。


 そんな魔物の中にあって一人。もしくは一体。確かに知性を感じさせる目をしているものがいた。


「あぁ~~あ。さすがこの数の魔物を操るのは疲れるわねぇ~。」


 それは一見、美しい女性だ。肉付きのいい完璧なその肢体は世の男性の多くを魅了することだろう。


 しかし、その足元には大きな美しい花が咲いており、そこからは根が地面に降りていた。その身体は紛れもなく魔物のソレなのだ。


「分かっているのだろうな?」


 そんな女性に声がかかる。重厚な男の声は確かに響いたが、その声の主の姿を見ることは出来なかった。


「分かってるわよ~~。心配症ねぇ~。大丈夫よぉ。人間ごとき、この私の敵じゃないわよぉ。ふふふっ。」


 花の女性は、姿の見えない声の主にしっかりと返事を返す。その声音はゆったりとしたものだが、確かに愉悦が含まれていた。


「あまり人間をーー」

「はいはい~。舐めるな、でしょう?もう聞き飽きたわよぉ。そもそも一体何処に負ける要素があるって言うのよぉ~。」


 姿無き声は、女性に注意しようとするが、女性がその言葉に耳を傾ける様子は無い。 


「あちらには『万能軍隊(ワンマンアーミー)』もいるんだぞ。一筋縄ではいかん。」


 声の主も、そのことは分かっていたが、しかし不安は拭えず女性に口煩く注意する。


「それって例のスライムでしょぉ~~。スライムが、この私に敵うとは思えないんだけどぉ。まぁ、手は打っといたじゃない~。」

「策が成功するとは限らん。」

「しなかったら、それでもいいじゃない~~?その時は、あの子を拷問して楽しみましょう?ふふふっ」

「悪趣味な。」

「それが魔人でしょう?」


 女性のその美しい顔が愉悦に歪む。それは多くの生命が本能的に忌避するほどの凶悪な笑顔であった。


「·······もう何も言うまい。失敗するならまだいいが、精々死んではくれるなよ。貴様は、それなりに貴重なのだ。」

「はいはい~。もうどっか行ってくれる~~?これ以上あなたと話しているとテンション下がちゃうわ~~。」

「······。」


 最後まで一貫して変わらない女性の態度に声の主は頭痛を覚えたが、これ以上は意味が無いと考え、その場を去った。


「ふふっ。あぁ~楽しみだわぁ~。あの街の人々はどんな味がするかしらぁ~~!」


 声の主が去ったと思うと、女性はその顔を更に歪まぜ、頬を赤く染めた。


 その姿を見ているものはいなかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


Side テミスレーナ(1時間後)


「ふむっ。やはり戦争の前というのは何度経験しても慣れるものではないな。」

「ひゃっ!え、え、あっ!ギランさん!」


 既に戦闘準備を終えて、瞑想しながら精霊と心を通わせていたテミスレーナに声を掛けたのは赤髪の巨漢ーー第4級冒険者ギランだった。


「ガハハっ!随分と緊張しているようだな!」

「そ、そんなことは·······。」

「吾輩がここまで近づくまで気づかなかったではないか。」

「うぅ······。」


 あっさりとギランに内心を看破されてしまったことに、テミスレーナは恥ずかしくなって顔を俯けた。


「何を恥ずかしがる必要がある?」

「えっ?」


 ギランはテミスレーナの態度に表情を変えると、その横にどっかりと腰を下ろし、テミスレーナに語り掛けた。


「緊張は大事なことだ。我らは今から命のやり取りをするのだから。そのことに緊張しないものは、ただの人でなしだろう。」


 ギランは陽気な雰囲気から一転、歴戦の戦士としての重みを感じさせる声で話す。


「重要なのは、『覚悟』を持つことだ。」


 ギランの言葉の重さが増した。

 

 それはテミスレーナの身体に重くのしかかり、その言葉は心に響いた。


「『覚悟』を持ち、迷わないことだ。命を奪うことに罪悪感を感じ、命を奪われることに恐怖する。だが、我らに止まることは許されない。戦場にいる以上、止まれない。『覚悟』を持って動き続けなければいけないのだ。テミスレーナよ、貴様はどのような『覚悟』を持つ?」

「どのような『覚悟』······。」


 ギランの言葉にテミスレーナは自分がどのような『覚悟』を持っているのかを考える。


 しかし、そこで初めて自分がただ流されているのだと気づいた。


 ユキに救われ、ユキと同じように冒険者となり、ユキと同じ依頼を受け、魔人を発見すれば、今度はスウィーの指示の元、流されるまま戦いに身を置こうとしている。


 どこにもテミスレーナの意思が無い。テミスレーナにはこれっぽっちも『覚悟』が無かったのだ。


「私の『覚悟』は········ありません。」


 その言葉を口に出した途端、自分の薄さのようなものを自覚してしまい、テミスレーナは何故か無償に悲しくなった。


「ガハハハッ!それはそうだろうよっ!」

「えっ?」


 しかし、予想に反してギランはテミスレーナの言葉に当然のような態度を見せた。


「テミスレーナよ、貴様はまだ若い。まだまだ貴様の前には無数の道があるのだ。行き急ぐ必要は無い。悩んで、足掻いて、傷つき、失敗しろ。そうして人は成長するのだ。」


 ギランは、テミスレーナの頭を掴むとぐしゃぐしゃに撫でる。それによって髪をぼさぼさになったが不思議と悪い感じはしなかった。


「取り合えずは今日、生き残れ。生きてさえいれば、人生はなんとでもなるものだぞ。ガハハッ!」


 そう言ったギランは立ち上がり、テミスレーナから離れていった。


「········。」

「おやっさん。いい人だろう?」

「ひゃっ!」


 ギランの言葉をしっかりと胸に刻んでいると、背後からまた声が掛けられる。


 振り返った所にいたのは、若い青年だ。年齢としては20代といった所だろうか?ギランと同じ赤い髪をしていた。


「だ、誰ですか!?」

「あははっ!すまない、すまない。君とおやっさんが話している所を見て、ついね?俺はヒース。第7級冒険者だ。よろしく。」

「え、あ、テミスレーナです。第10級冒険者です。」


 青年ーーヒースはさっぱりとした雰囲気をまとっており、初対面のギラン同様、テミスレーナに握手を求めた。


 テミスレーナもさすがに二度目は慣れて快く握手を返せた。


「で、おやっさん、何て言ってた?」

「え?」


 握手もそうそうに意外な話題を出されたテミスレーナは戸惑ってしまった。


 そのことに気づいたヒースは自分の紹介を続けた。


「実は俺、おやっさんのファンなんだっ!あ、おやっさんっていうのはギランさんのあだ名なんだけどね。」


 ヒースは興奮気味でテミスレーナに語り掛ける。そこには確かな熱意があった。


「おやっさんは新人冒険者の育成に力を入れててな、あの人にお世話になった冒険者は少なくないんだ。かく言う俺もその一人さ。まだ冒険者に成り立ての頃にすげーお世話になってな。あの人がいなかったら俺は今頃墓の下だろうぜ。」


 ヒースはまくしたてるように、ギランのことを語っていく。その目はきらきらと輝いており、彼がどれだけギランのことを慕っているのかが良く分かった。


「ほら、見てみろよ。」


 そうして、ヒースが指さしたのは冒険者と話しているギランの姿だ。


 テミスレーナは最初、打ち合わせでもしているのかと思ったが、どうやら違うようだ。打ち合わせをするにしては相手が若すぎる。


「おやっさんはな。戦闘の前には必ずああやって戦闘慣れしていない冒険者に話しかけるんだ。ああすることで皆の緊張をほぐしてんだよ。すげぇだろ?」

「確かに······。」


 見ていれば、ギランと話した冒険者達は緊張していた表情から一転、その顔には笑顔が浮かんでいる。


 そして、話し終えた冒険者達は、各々、テキパキと準備を始め、そこにはガチガチに緊張した冒険者の姿は無かった。


 ふと思いたってテミスレーナが自分の手を見てみれば、手の震えが止まっていることに気づいた。


 それは、ギランのおかげもあるだろうが、同時に今、ヒースと話しているのも影響しているだろう。


 そこで、テミスレーナはヒースに感謝しようとするがーー


 カンカンカンカン!!!!


 鐘の音が街中に響く。それは魔物が街に到着した合図だった。



今回まさかの主人公出番なし!?あいつは今頃ドラゴンの下敷きになってます。


固有能力、能力、神器などなどを募集します。感想に書いてもらえるととても嬉しいです。名前だけとか能力の内容だけでも全然OK。

 いいセンスのものがあればどんどん本編に組み込んでいくので、どうかよろしくお願いいたします。

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